↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロティアとフランソワは空を飛びます どろちゃんの飛行日誌 飛行機から始まった貴族令嬢の社会改変  作者: アントノフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
190/210

181貴族令嬢は、琉球で三線とヴァイオリンを合わせます


第181章 貴族令嬢は、琉球で三線とヴァイオリンを合わせます


 琉球嘉手納空港での引き渡しが終わると、どろちゃんは本当に参加者側へ戻りました。


 学生たちはそのまま案内役を続け、ホテルへ荷物を運ぶ人と、町へ出る人を分けています。夕食が終わったころには、昼間の仕事を終えた琉球の人たちも町へ出ていました。


「お嬢様、まだお出かけになりますか」


 フランソワさんが聞きました。


「行く。さっきから音が聞こえる」


「では、ヴァイオリンもお持ちいたしましょうか」


「うん。たぶん使う」


 少し歩くと、建物の間から三本の弦を鳴らす音が聞こえてきました。


 三線です。


 この世界では、海の交通と人の移動が早くから増えた影響で、三線そのものの成立が史実より一世代ほど早まり、その後の広がり方も早くなっています。宮廷や士族だけの楽器ではなく、町の人たちが歌うところにも入り込んでいました。


 集まっているのも琉球の人だけではありません。


 清から来た商人が琉球の人と同じ卓で泡盛を飲み、東南アジアから来た船乗りが横から歌へ加わっています。言葉が全部同じではなくても、何度も繰り返す歌なら途中から入れます。


 ただし、鳴っている音楽の中心は琉球でした。


 三線が旋律を引き、歌がそれについていきます。清風の節回しが混ざるところもあり、拍の取り方には東南アジア風のものも入っています。それでも、曲の骨組みになる音の並びは、どろちゃんが聞けばすぐに分かりました。


「レとラが、ほとんど出てこない」


 どろちゃんが小さく言いました。


「何でございますか?」


 フランソワさんが聞き返します。


「使っている音階が、ド、ミ、ファ、ソ、シを中心にしてる。ミとファ、それからシとドが半音でくっついて、その間は大きく飛ぶの」


 西洋の七音音階から二つ抜いたように見えますが、単に音を減らしただけではありません。ドからミ、ソからシへ大きく進んだあと、ミからファ、シからドへ半音で寄るところに、独特の感じが生まれます。


 どろちゃんには、それが清の音楽とも、西洋の音楽とも違って聞こえました。


「これが琉球の音なんだ」


 近くで三線を弾いていた男が、どろちゃんの方を見ました。


「弾いてみますか」


「いいの?」


「どうぞ」


 三線を渡されました。


 どろちゃんはまず弦を一度ずつ鳴らし、調弦を確かめました。それから左手を動かして、どこを押さえるとどの音になるのかを探します。


「楽譜はある?」


「ありますよ」


 出てきたのは工工四(くんくんしー)でした。


 三線の勘所を文字で示す、タブラチュアの仲間です。この世界では工工四の整備も早まっていて、すでに演奏に使われています。


 どろちゃんは紙を受け取りました。


「これ、ここの場所?」


「そうです。これはここです」


 弾き手が指を置いて見せます。


「じゃあ、これは?」


「少し上です」


「分かった」


 どろちゃんには文字そのものが読めます。しかし、文字が読めても三線の指使いまでは自動では分かりません。


 一つずつ勘所を確認し、工工四の文字と実際の音を結びつけます。


「もう一回、最初から弾いて」


「はい」


 三線の音が始まりました。


 どろちゃんは最初の数回は聞くだけでした。


 歌の旋律と三線が完全に同じ動きをするところもあれば、少し間を空けるところもあります。音を長く伸ばすヴァイオリンとは違って、撥で弾いた三線の音は減衰していきます。その隙間へ歌声が入ります。


 清風の回し方が入る部分では、旋律が一度まわり道をします。東南アジア風の拍が混ざったところでは、手拍子の強い位置が少し変わりました。


 それでも戻ってくるところは琉球の音階です。


「ここ、もう一回」


「ここですか」


「うん。そこだけ」


 何度か聞いてから、どろちゃんは三線を弾き始めました。


 最初はゆっくりです。


 工工四を見て、勘所へ指を置き、撥を当てます。


 少しすると紙を見る回数が減りました。


「覚えるのが早いですね」


「ヴァイオリンをずっと弾いてるから、音は分かるの。でも三線の弾き方は別だから教えてね」


「もちろんです」


 30分ほどすると、短い曲なら一緒に弾けるようになりました。


 同じ音を出せても、まだ地元の人と同じ音にはなりません。撥の当たり方も、音を切る位置も、歌との間の取り方も違います。


 どろちゃんはそこを面白がりました。


「楽器が違うと、同じ音階でも全然違うね」


「今度は、その楽器でも弾くのですか」


 三線を教えていた男が、フランソワさんの持っているケースを見ました。


「弾く」


 どろちゃんは三線を返し、YAMAHA YEV105PROを取り出しました。


 細い胴体に五本の弦が張られたヴァイオリンです。


 三線を習っている間は絞っていた音を戻しました。


「さっきの曲、もう一回やろう」


「合わせられますか」


「やってみないと分からない」


 三線が先に始まりました。


 歌も続きます。


 どろちゃんは一巡目を聞き、二巡目からヴァイオリンを重ねました。


 三線の音は弾くたびに立ち上がって消えていきます。ヴァイオリンは弓を動かしている間、音を伸ばせます。


 そのまま西洋風に長く伸ばすと、三線と歌の間を埋めすぎます。


 どろちゃんは弓を短く使いました。


 三線の音が立ったところでは少し引き、歌が伸びるところへだけ細く音を残します。


「それなら合いますね」


「うん。ずっと鳴らさない方がいい」


 三巡目になると、三線の人もヴァイオリンの音を待つようになりました。


 四巡目では、どろちゃんが旋律を少し先に出し、三線があとから返します。


 そのころには、見ていた人たちが踊り始めていました。


 最初に立ったのは琉球の人たちです。


 座っていた人も手を叩き、知っているところだけ歌います。清から来た商人も杯を置いて声を出し、東南アジアから来た船乗りたちも拍を取っています。


 誰かが違う節回しを入れても、次の繰り返しではまた同じ歌へ戻ります。


 混ざっているのに、琉球の歌でした。


 どろちゃんも途中から歌えるところだけ声を出しました。ヴァイオリンを弾いているので踊れませんが、周りではどんどん人が立っています。


「お嬢様、泡盛でございます」


 フランソワさんが小さな杯を持ってきました。


「ありがとう」


 どろちゃんは曲の切れ目で一口飲みました。


「強い」


「先ほどもそうおっしゃっていました」


「でも、おいしい」


 卓の上には泡盛の甕があります。


 酒を造るには、食べられる穀物を使います。


 この世界の琉球では、清や東南アジアとの交易が王府だけのものではなくなり、民間の商人や船乗りまで日常的に行き来しています。食料も船で入ってきます。


 島で採れたものだけを分け合って、足りなくなれば誰かが飢えるという状態ではありません。


 酒にする余裕があります。


「いいね」


「何がでございますか?」


「みんなで飲むお酒があること」


 フランソワさんは少し考えてから、笑いました。


「そうでございますね」


 次の曲が始まりました。


 今度は最初からヴァイオリンも入ります。


 琉球の三線と歌が中心にあり、その周りへ清風の節回しや東南アジア風の拍が混ざります。さらに、そこへ西洋のヴァイオリンまで加わりました。


 それでも曲がばらばらにはなりません。


 どろちゃんは琉球音階から外れないように弾き、三線の音が消えるところへだけ弓の音を残しました。


 歌う人が増えます。


 踊る人も増えます。


 泡盛の杯も回っています。


 どろちゃんはヴァイオリンを弾きながら笑いました。


 琉球まで人を送る仕事は、空港で終わっています。


 ここから先は仕事ではありません。


 夜が遅くなるまで、みんなで歌って、踊って、飲みました。


一日あたり3回から4回アップロードで1日4万字以上のペースですが書きためた分がなくなりました。約200万文字です。1エピソードも長いので1ヶ月ほどで長編小説となりました。今後は1日1エピソードのペースでアップロードしていきたいと思います。どろちゃんの活躍で史実とはかなりずれているため、完全史実は余りなさそうです。戦争に使っていた費用が民生品などに回っていて、18世紀には難しいものも出来るようになっています。研究開発と資本が向かう方向の転換によるものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。