179貴族令嬢は、皆さんを琉球王国へ誘います。
第179章 貴族令嬢は、皆さんを琉球王国へ誘います
2日目の午後は自由時間にしました。航空機をもう一度見に行く人、駅へ行って列車を見る人、国連会議棟を見学する人、ホテルへ戻って休む人、ストラスブールへ出る人に分かれます。
15年前なら、4か国の代表が同じ場所へ集まれば、次にどの兵をどこへ動かすかという話が混ざりました。
1718年には、鉄道の時刻や工場の受注、港の荷役量、電力設備の更新、大学の研究費の話が増えています。
どろちゃんは、それでいいと思いました。
◇ ◇ ◇
夜はホテル棟レストランで正式な晩餐会です。
初日の自由参加の夕食とは違い、2日目の夜は条約記念会の公式行事にしました。
席順は元首、首席代表、随員、事務官という仕事上の位置に合わせますが、料理は全員共通です。
いつもの給仕さんが、今度は正装で皿を運んでいます。
昼にも見たはずなのに、アン女王陛下がまた少し見ました。
「本当に、あまり変わりませんね」
「恐れ入ります」
給仕さんは、それだけ答えました。
少し離れたところで聞いていたどろちゃんとフランソワさんは、顔を見合わせただけで何も言いませんでした。
◇ ◇ ◇
食事が終わると音楽の時間になり、どろちゃんも昔から何度も弾いてきた曲を何曲か演奏します。静かな曲のあとにはワルツも入れました。
「今日は踊ってもいいですよ」
どろちゃんが言いました。
「以前もワルツを弾かれたでしょう」
サヴォさんが笑いました。
「あのとき、みんな途中で止まったんですよ」
「演奏を聴いていたのです」
「ワルツなのに」
「今日もワルツです」
どろちゃんはピアノへ向かいました。
ショパンの《小犬のワルツ》を弾き始めます。
15年前の会議室では、紙とインクの匂いが残る中で条文を直していました。
今夜はホテル棟のレストランで、国王、女王、共和国の代表、イタリア側の代表、事務官、技術者たちが同じ曲を聞いています。
踊る人もいれば、座ったまま聞く人もいます。ルイ14世陛下もアン女王陛下も最後まで残り、ハインシウス、サヴォさん、いつもの人も同じ音楽を聞いていました。
プリンツ・オイゲンと部下たちは、晩餐会の外側で警備を続けています。
この夜に集まっているのは軍ではなく、15年前に条約を作り、その後の実務を続けてきた人たちです。
どろちゃんは最後の音を離しました。
拍手が来ました。
「今度は踊ってた」
「はい、お嬢様」
フランソワさんが答えました。
◇ ◇ ◇
3日目の朝になると、帰国する人と、もう少し遠くまで行く人に分かれました。
仕事の忙しい人を待たせないよう、帰国便は午前中から出すことにしました。
オランダ側は列車です。
朝食を済ませた人から駅へ向かいます。
飛行機で来た3か国側にはチェブラーシカちゃんの帰国便を用意し、各国の予定に合わせて、早く戻る人から荷物と名簿を確認して送り出します。
「午後までいられない人を先にお願いします」
「承知しました」
運航担当が予定表へ印を付けました。
条約記念会の日程はここで終わりますが、招待状にはもう1枚、希望者向けの紙を入れてありました。
◇ ◇ ◇
紙の上には、こう書いてあります。
『3泊の琉球王国ツアー エルレンフェルト条約の結果極東世界の変化を見る』
希望者だけが参加し、参加費は0です。飛行機、宿泊、現地交通、食事を含め、費用はどろちゃんが負担します。
「無料なのですか」
「わたしが見せたいので」
「それで全部払うと」
「はい」
「昨日の会計を見たあとだと、止めにくいですね」
サヴォさんが言いました。
「ちゃんと私費です」
「そこは疑っていません」
琉球王国の学生が通訳として同行し、その通訳業務自体を実習にします。外国の元首や行政官へ自分たちの国の制度、学校、港、産業、農村、交通を説明し、質問を受ければその場で答え、分からないことは調べるという実地の授業です。
参加しない人は午前中に帰国し、参加する人は昼までエルレンフェルトに残ります。
◇ ◇ ◇
大きな滑走路では、朝からムリヤちゃんの積み込みが進んでいました。
貨物室には、MRJの座席を使った120席分の旅客パレットを固定しました。参加人数に対して座席には余裕があり、その後ろへ零式三座、ハイラックス、零式三座を水面へ降ろす台車、分割して積めるレールを搭載します。
現地で陸上から水面までレールを延ばし、ハイラックスのウインチで台車をゆっくり送れる一式です。
以前、マルマラ海で使った方法と同じで、陸上から水面までレールを敷き、ハイラックスのウインチで台車を制御しながら零式三座を水へ送ります。そのため、ハイラックス、台車、レール、固定具までを1組の運用設備として積みました。
どろちゃんは貨物室へ入り、固定状態を順番に見ました。
「零式三座」
「固定済みです」
「ハイラックス」
「固定済みです」
「台車とレール」
「そろっています」
「120席」
「使用可能です」
荷物を確認したあと、どろちゃんは一度外へ出ました。
隣では、午前中の帰国組を乗せたチェブラーシカちゃんが出発準備をしています。
同じ空港で、片方は西へ戻る人を乗せ、もう片方は東へ向かう人を待っています。
◇ ◇ ◇
昼食は残った人たちで、旅行へ出る前の普通の食事として取りました。荷物の最終確認をする人もいれば、今回の実習で通訳を担当する琉球王国の学生と挨拶をする人もいます。
旅行の現地案内は琉球側に任せます。学生たちは3泊のあいだ各国の元首や行政官から出る質問を聞き、現地で見たものについて説明し、分からないことが出れば確認する実習です。
◇ ◇ ◇
昼食が終わると、大きな滑走路へ移動しました。
帰国する人たちの荷物はすでに別便へ回り、琉球へ行く人たちは通訳を担当する学生と一緒にムリヤちゃんへ乗りました。120席あるので、座る場所にも十分な余裕があります。
フランソワさんは、旅客側の確認をしてから前へ来ました。
「皆様、搭乗されました」
「荷物は?」
「確認済みでございます」
どろちゃんは操縦席へ座り、計器と各系統を確認してエンジンを始動しました。地上側から出発可能の連絡も入ります。
ムリヤちゃんはゆっくり動き始めました。
ホテル棟、旧会議棟、国連会議棟、航空機を並べたエプロンが後ろへ流れていきます。
15年前、旧会議棟で作った条約が、ヨーロッパの外で何を変えたのか。
今度は、それを見に行きます。
「じゃあ、琉球王国へ行こうか」
ムリヤちゃんは大きな滑走路へ入り、東へ向けて離陸しました。




