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ドロティアとフランソワは空を飛びます どろちゃんの飛行日誌 飛行機から始まった貴族令嬢の社会改変  作者: アントノフ


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160/210

152貴族令嬢は、古い宮殿のお風呂に入ります。  トプカプ宮殿のお風呂ですね。あかすり付。

第152章 貴族令嬢は、古い宮殿のお風呂に入ります



          ◇ ◇ ◇



 その日の夜。


 どろちゃんとフランソワさんは、トプカプ宮殿の中であてがわれている部屋へ戻りました。



 これまで二人は、宮殿の庭を歩き、会議をし、馬車で町へ出て、水上機やムリヤちゃんでも飛びました。


 その間ずっと使っている宿泊区画へ、今夜も戻ります。



「ただいま」


「お帰りなさいませ」



 部屋の前では、黒人の宦官が一人、廊下側の様子を見ています。


 部屋の中では女性たちが、湯、衣服、寝具、食事、片付けなど身の回りの世話をします。


 廊下側の出入りや男性側との連絡、宮廷内の取り次ぎは黒人宦官の担当です。


 最初の日にも説明を受けましたが、何日か暮らすうちに役割分担が実感できるようになりました。



「ちゃんと分かれてるんだね」


「そのようでございますね」


 フランソワさんが答えました。



          ◇ ◇ ◇



 二人にあてがわれているのは、前室、居間、それぞれの寝室、衣服や荷物を置く小部屋、女性の世話係の控室が近くにまとまった一画です。


 次期国家元首を含む外国の賓客を迎えるため、生活に必要な部屋が一まとまりで用意されています。


 トプカプ宮殿は長い年月をかけて増築と改修を重ねてきたため、古い部分と少し新しい部分、補修された壁や昔から残る壁がつながっています。



「やっぱり、古いね」


 どろちゃんが言いました。


「はい」


「でも、ものすごく飾ってある」



          ◇ ◇ ◇



 木の枠には細かな彫り物があり、壁、扉、天井にも模様が続きます。レリーフや彩色には金色、青、赤、緑が使われています。


 窓の色ガラスを通った昼の光は、赤や青、黄色になって床へ落ちます。


 床には一枚ずつ模様を持つタイルが敷かれ、組み合わせるとさらに大きな模様になります。



「床まで豪華だね」


「踏んでよろしいのでございましょうか」


「床だからいいんじゃない?」


「そうなのでございますが」



 二人とも、最初の日は少しだけ遠慮しました。



 でも、宮廷の人たちは普通に歩いています。


 そのうち二人も、気にせず歩くようになりました。



 よく見ると、人が長く歩いてきた場所や敷居、扉の下、窓枠には少しずつ摩耗があり、長年の手入れで表面が磨かれています。



「古いけど、大事に使ってる感じ」


「はい」


「新品の豪華さじゃないね」


「ずっと豪華なのでございますね」


「それ、すごいね」



          ◇ ◇ ◇



 最初の日、どろちゃんは寝室へ入って、少し困りました。



「ベッドは?」



 部屋には壁際の低い座る場所と、クッション、布、絨毯が置かれています。



「ここで寝るの?」



 女性の世話係が、少し不思議そうな顔をしました。



 女性の世話係が壁際の収納を開けると、寝具が次々に出てきました。



「いっぱい出てきた」


「はい」



 厚い敷物と柔らかな敷布を何枚も重ね、掛け物と枕を整えます。


 宮廷の賓客用なので、寝床には十分な厚みがあります。



「これなら大丈夫そう」


「むしろ、かなり柔らかそうでございます」



 フランソワさんも自分の寝具を見ました。



 寝具は夜になると出され、朝には片づけられるので、同じ部屋でも昼と夜で使い方が変わります。



「ベッドが消えるんだ」


「最初からございません」


「そうだった」



          ◇ ◇ ◇



 次に気になったのは、お風呂です。



「お風呂は?」



 洗面用の水とは別に、入浴には宮殿内の浴場を使います。



「別のところ?」


「はい」



 案内された先はハマムです。



          ◇ ◇ ◇



 大理石の床と壁、水盤のある室内全体が暖かくなっています。



「おお」


 どろちゃんが声を出しました。


「これは、すごいですね」


 フランソワさんも見回しました。



 浴室全体が一つの設備になっていて、暖かい場所からさらに暖かい場所、身体を洗う場所へ移ります。


 湯と水は大理石の水盤で加減し、そこから汲んで身体へかけます。



「入るお風呂じゃないんだ」


「そのようでございますね」



 どろちゃんは、すっかりご機嫌です。


 フランソワさんの手を取りました。



「一緒にいこ」


「はい」



 そのまま二人で、暖かい浴室の奥へ入っていきました。



          ◇ ◇ ◇



 浴室内では女性たちが、衣服、湯、髪の世話を分担しています。


 その中に、身体をゴシゴシする人もいます。



「これ?」


 どろちゃんが、ざらざらした布のようなものを見ました。



「はい」



 身体を温め、湯をかけて少し待ってから、ざらざらした布が肌をこすりました。



 ごし。



「いたい」



 どろちゃんが言いました。



 もう一度。



 ごしごし。



「けっこう強いね」


「はい……」


 フランソワさんも横で同じことをされています。



「フランソワさん、赤くなってる」


「お嬢様もでございます」


「ほんと?」


「はい」



 ごしごし。



 垢は普通に出ます。



「ちゃんと出るね」


「何がでございますか」


「垢」


「出ますね」


「よかった」


「何がよろしいのでございましょう」


「新陳代謝してる」


「していただかないと困ります」



 フランソワさんが言いました。


 二人とも健康で、丈夫になった肌の下でも新陳代謝は続いています。



          ◇ ◇ ◇



 しばらくすると、髪、背中、腕、脚まで洗われ、最後に湯を流して終わりました。



「すっきりした」


「はい」


「でも、すごくこするね」


「はい」



 どろちゃんは腕を見ました。



 さっきまで少し赤くなっていました。



 もう、ほとんど戻っています。



 フランソワさんも同じで、赤みはすぐに引きます。


 二人にとって最近はそれが普通になっていますが、垢が出ることからも身体の更新は続いていると分かります。



「また来たい」


「わたくしもでございます」


「明日も一緒に来ようか」


「はい」


「ゴシゴシは、ちょっと弱くしてもらおう」


「賛成でございます」



 近くにいた女性へ、二人は次は少し弱くしてほしいと身振りで伝えました。


 細かな会話には通訳が必要でも、このお願いはすぐ通じました。



          ◇ ◇ ◇



 部屋へ戻ると、色ガラス、レリーフ、床のタイルが夜の灯りに照らされています。


 昼の色光とは違い、灯りが壁や金色の装飾を拾います。



「昼と違うね」


「はい」



 寝室へ行くと、床には今夜の寝具が整えられていました。



「出てる」


「夜ですから」


「毎日出てくるの面白いね」



 どろちゃんは座りました。



「柔らかい」


「昨日もお休みになりました」


「でも今日はいっぱい飛んだから、もっと柔らかく感じる」


「それは、お疲れなのではございませんか」


「たぶん」



 フランソワさんも隣の部屋へ行きます。



 扉は近いです。



「おやすみ、フランソワさん」


「おやすみなさいませ、お嬢様」



 豪華な床と古い壁、色ガラス、レリーフに囲まれた部屋へ、夜だけ寝床が整えられます。


 どろちゃんたちは、今日も古い宮殿の中で眠りました。



====================

第152章の小さな説明

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【どろちゃんたちの宿泊区画】


 1709年のトプカプ宮殿で、外国から来た女性の国家級賓客を必ず泊める専用客室がどこにあったのかは、本作では特定していません。

 どろちゃんは次期エルレンフェルト国家元首として正式に紹介されています。そのため、空いている一室へ泊めるのではなく、前室、居間、どろちゃんの寝室、フランソワさんの寝室、荷物を置く小部屋、女性係の控えなどを近くにまとめた一画をあてがった設定にしています。

 宮殿内の具体的な部屋名は、史実上確認できないため付けていません。


【古いけれど豪華な部屋】


 トプカプ宮殿は、15世紀以来、歴代のスルタンが増築や改修を重ねてきた宮殿複合体です。

 本章では、1709年らしく、建物や建具には長く使われてきた古さがある一方、色ガラス、細かなレリーフ、彫刻、彩色、金色の装飾、模様の多いタイルなどがいたるところに残っている部屋として描いています。

 新築のぴかぴかした豪華さではなく、何度も手入れされながら使われてきた豪華さです。


【色ガラス】


 本章の窓は、色の付いた小さなガラスを組み合わせた装飾窓として描いています。

 昼間は赤、青、黄色などの光が室内へ入り、床や壁の模様の上へ色が落ちます。

 本文では分かりやすく「色ガラス」とし、近代建築のステンドグラスとまったく同じ構造だとは限定していません。


【女性の世話係と黒人宦官】


 どろちゃんたちの身の回りでは、衣服、寝具、湯、清掃などの実際の世話を女性の宮廷奉仕者が担当します。

 一方、廊下側の出入り、男性側から届く伝言、宮廷内での取り次ぎなどは黒人宦官が担当する設定です。

 どろちゃんたちが入浴している間も、浴室内へ入るのは女性だけです。


【夜になると出てくる寝床】


 本章では、西欧式の大型の脚付きベッドを部屋へ常設していません。

 夜になると、厚い敷き寝具、掛け物、枕などを出して寝床を整え、朝には片づけます。

 宮廷の高位賓客用ですから、薄い寝具一枚で寝るという意味ではなく、十分に厚く柔らかいものを何枚も使っています。

 そのため、昼には広く見える部屋へ、夜になると寝床が現れます。


【ハマム】


 どろちゃんたちが使うのは、寝室の横に浴槽が付いた西欧式の浴室ではなく、宮殿内のハマムです。

 暖められた大理石の室内で身体を温め、湯と水を使って洗います。

 どろちゃんはすっかり気に入り、フランソワさんの手を取って「一緒にいこ」と誘っています。

 二人にとっては特別な意味を付ける場面ではなく、仲のよい二人が一緒に新しいお風呂へ行っただけです。


【ゴシゴシ係】


 オスマンの浴場には、入浴客の身体を洗ったり垢すりをしたりする人がいました。

 時代や施設によって役割名の使われ方に幅があるため、本章では特定の職名を無理に固定せず、「ゴシゴシする人」「女性係」として描いています。

 宮廷内なので、どろちゃんとフランソワさんを洗うのも女性です。


【垢すりと二人の身体】


 どろちゃんとフランソワさんは、肌荒れや外見上の老化が極端に少なくなっています。

 皮膚の新陳代謝は続いているので、ハマムで垢すりをすれば普通に垢も出ます。

 擦った直後には少し赤くなりますが、二人の肌はすぐ元へ戻ります。


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