↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
138/182

132貴族令嬢は、東インド会社を四か国にします。オランダの東インド会社とイギリスの東インド会社を合併させて、フランスとイタリアもそこに投資します。

第132章 貴族令嬢は、東インド会社を四か国にします


 アムステルダムからチェブラーシカちゃんでロンドンへ着くと、アン女王はキャンディー王国の文書を読みました。

 乗ってきたのは、どろちゃんとフランソワさんの2人です。


 島の国境線。

 キャンディー王の署名。

 残る3か国の了承。


 確認が終わると、4か国側の持ち回り代表として署名します。


 キャンディー王国は国際連盟の加盟国になりました。

 決まった国境線も一緒に登録されます。


「これでセイロンの紙は終わり?」


 アン女王が聞きました。


「土地に関する書類は、だいたい終わりました」


「では、その下にあるものは何です」


 どろちゃんの鞄には、まだ厚い束が残っています。


「東インド会社の書類です」


 アン女王の前に、英国東インド会社の資料とVOCの資料が並びました。


          *


 4か国の私掠船は止まっています。


 同じ海を走る商船が、以前のように相手国の船を探して襲う必要もありません。

 バタヴィアでは、すでに国籍の違う商人が同じ港を使う場面が増えています。


 それでも会社は別々でした。


 倉庫も別。

 修理施設も別。

 買付人も別。

 同じ商品を同じ土地で買うのに、英国側とVOC側が別の船を送り、別々の帳簿を付けています。


「一緒にした方が、安くなると思います」


 どろちゃんが言いました。


 アン女王はVOC側の紙を見ました。


「ネーデルラントが認めますか」


「アムステルダムの8席分は、私が持っています」


 一瞬、部屋が静かになりました。


「いつ買ったのです」


「セイロンで話が進まなかったので、買いました」


 アン女王はしばらくどろちゃんを見ていました。


 どろちゃんは英国では侯爵です。

 英国側から見れば、VOCだけが英国会社を飲み込む話にもなりません。

 ネーデルラント側ではVOC最大の持分を押さえています。


 フランスとイタリアも、すでに4か国の共同銀行や交易で同じ仕事をする機会が増えていました。


 そこで案は、英国とネーデルラントの2社合併だけでは終わりませんでした。


 フランス。

 グレートブリテン。

 ネーデルラント。

 イタリア。


 4か国で1つの東インド会社を持つことになりました。


          *


 出資の元になる株は64株。


 最初の割当は、1か国16株です。


 ネーデルラント側では、旧VOCの持分を新しい16株へ整理します。

 アムステルダム側8席分を買ったどろちゃんの持分も、その中へ移ります。


 グレートブリテン側は16株。


 フランス側も16株。

 こちらは国が8株、ルイ十四世が個人資産で8株を持つ形になりました。


「陛下の8株は、国庫の8株とは別です」


 どろちゃんが念を押すと、ルイ十四世は紙から顔を上げました。


「分かっておる」


「相続の際も、別にしてください」


「そこまで今から言うのか」


「あとで混ざると面倒ですから」


 イタリア側も16株です。


 そこでサヴォさんが止まりました。


「今の国庫で16株を全部抱えるのは重い」


 戦争が終わり、国内の立て直しをしている最中です。


 どろちゃんは、そのうち4株を自分で一時的に引き受けることにしました。


 4株の所有者は、当面どろちゃん。

 その間の配当もどろちゃんが受け取ります。

 議決権はサヴォさん側に残します。


 国の経営が落ち着いたら、サヴォさん側は4株を買い戻せます。

 値段は買い戻す時点の市場価格です。


「会社が大きくなる前に返した方がよさそうだな」


「会社が大きくなると、高くなりますね」


「分かっていて言っているだろう」


「はい」


 契約書には、その条件もきちんと入りました。


          *


 64株は固定です。


 会社が大きくなっても65株目は作りません。


 ただ、1株そのものは大きすぎます。


 そこで持分を細かく分けて売買できるようにしました。


 1株の1/100。

 1センチ株。


 1/1000。

 1ミリ株。


 1/1,000,000。

 1マイクロ株。


 元の64株の一部を細分しているだけなので、会社全体の持分は増えません。


 各国の16株を全部政府が抱える必要もありません。

 商業組合、商人、銀行家、個人投資家へ細分した持分を譲渡できます。


 買いたい人が増えれば値段は上がります。

 船を沈め、商品を腐らせ、商売を減らせば値段は下がります。

 利益がなくなれば配当も出ません。


「まじめに営業しないといけませんね」


 どろちゃんが言いました。


 経営側には、かなり分かりやすい仕組みです。


 そして、どろちゃんはネーデルラント側8株に加えて、サヴォさん分の4株を一時的に持つことになりました。


 会社全体の64株のうち12株です。


 本人はそこまで計算してから、少し首を傾げました。


「また増えた」


 フランソワさんは何も言わず、次の書類を差し出しました。


          *


 会社の正式名も決まりました。


 ナーロッパ語で、


 Vierstaatenostindienhandelsgesellschaft(フィーアシュターテンオストインディエンハンデルスゲゼルシャフト/四か国東インド貿易会社)。


 長いです。


 船腹、倉庫、帳簿、株券へ毎回全部書く気にはなりません。


 略号は3文字。


 VOG。


 Vierstaaten-Ostindien-Gesellschaft(フィーアシュターテン・オストインディエン・ゲゼルシャフト/四か国東インド会社)。


「VOCと一文字だけ違う」


「しばらく書き間違いが出そうでございます」


「判子も作り直さないといけませんね」


 VOGの運用が始まりました。


 英国船が旧VOCの倉庫を使います。

 ネーデルラントの船が英国側の補給港へ入ります。

 フランスやイタリアの荷物も、空いている船倉へまとめて積みます。


 修理設備も共用です。

 船員も港の情報を共有します。


 私掠船として相手の商船を探していた人たちは、同じ会社の荷物を運ぶ側へ回りました。


          *


 会計も一つに揃えます。


 基礎にしたのはVOCで使っていた複式簿記です。

 それを海外の商館、港、倉庫、船舶、長距離輸送まで同じ形式で追えるように組み直しました。


 買付価格。

 輸送費。

 港湾利用料。

 倉庫で失った量。

 船の修理費。

 賃金。

 売上。

 在庫。


 同じ商品を別の港で扱えば、どちらが本当に利益を出しているか比べられます。


「数字が合わないところは、すぐ見えますね」


 どろちゃんは嬉しそうです。


 前から自分の商売を帳簿の外へ逃がしていた人たちには、あまり嬉しくない仕組みでした。


 商品の買い付けにも共通規約ができました。


 4か国の買付人が相談して産地を分け、1つの産地では1か国だけが買うようにすると、売る側はその買い主に合わせるしかありません。

 そこで買付価格を下げ続ければ、最後には作る人がいなくなります。


 VOGは地域と品目ごとに、生産を継続できる最低水準を決め、その水準より下の買付契約を認めないことにしました。


 値段は公開します。


「表カルテルみたいですね」


 どろちゃんが言うと、会計担当が困った顔をしました。


「侯爵様がそれをおっしゃいますか」


「秘密ではありません。板に書いてありますから」


 利益を増やしたい支店は、輸送、保管、加工、販売を工夫することになります。


          *


 VOGには協賛国制度も作りました。


 希望した国は、まず審査を受けます。

 港や倉庫の運営、契約を守れるか、船と乗員を安全に扱えるかを確認します。


 認められた国は会費を払い、VOGの港、倉庫、修理設備、給水や補給の施設を使えます。


 反対に、VOGが協賛国の港や倉庫を使ったときは、その国へ利用料を払います。


 自前の施設を世界中へ二重に造るより、使えるものを相互に使う方が早いです。


 港を整えた協賛国には、VOGの船が寄るほど利用料が入ります。


 会社を一つにした効果は、最初の航海から数字へ出始めました。


 どろちゃんの机には、その数字と一緒に別の報告が届いています。


 バタヴィアの役所からです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。