132貴族令嬢は、東インド会社を四か国にします。オランダの東インド会社とイギリスの東インド会社を合併させて、フランスとイタリアもそこに投資します。
第132章 貴族令嬢は、東インド会社を四か国にします
アムステルダムからチェブラーシカちゃんでロンドンへ着くと、アン女王はキャンディー王国の文書を読みました。
乗ってきたのは、どろちゃんとフランソワさんの2人です。
島の国境線。
キャンディー王の署名。
残る3か国の了承。
確認が終わると、4か国側の持ち回り代表として署名します。
キャンディー王国は国際連盟の加盟国になりました。
決まった国境線も一緒に登録されます。
「これでセイロンの紙は終わり?」
アン女王が聞きました。
「土地に関する書類は、だいたい終わりました」
「では、その下にあるものは何です」
どろちゃんの鞄には、まだ厚い束が残っています。
「東インド会社の書類です」
アン女王の前に、英国東インド会社の資料とVOCの資料が並びました。
*
4か国の私掠船は止まっています。
同じ海を走る商船が、以前のように相手国の船を探して襲う必要もありません。
バタヴィアでは、すでに国籍の違う商人が同じ港を使う場面が増えています。
それでも会社は別々でした。
倉庫も別。
修理施設も別。
買付人も別。
同じ商品を同じ土地で買うのに、英国側とVOC側が別の船を送り、別々の帳簿を付けています。
「一緒にした方が、安くなると思います」
どろちゃんが言いました。
アン女王はVOC側の紙を見ました。
「ネーデルラントが認めますか」
「アムステルダムの8席分は、私が持っています」
一瞬、部屋が静かになりました。
「いつ買ったのです」
「セイロンで話が進まなかったので、買いました」
アン女王はしばらくどろちゃんを見ていました。
どろちゃんは英国では侯爵です。
英国側から見れば、VOCだけが英国会社を飲み込む話にもなりません。
ネーデルラント側ではVOC最大の持分を押さえています。
フランスとイタリアも、すでに4か国の共同銀行や交易で同じ仕事をする機会が増えていました。
そこで案は、英国とネーデルラントの2社合併だけでは終わりませんでした。
フランス。
グレートブリテン。
ネーデルラント。
イタリア。
4か国で1つの東インド会社を持つことになりました。
*
出資の元になる株は64株。
最初の割当は、1か国16株です。
ネーデルラント側では、旧VOCの持分を新しい16株へ整理します。
アムステルダム側8席分を買ったどろちゃんの持分も、その中へ移ります。
グレートブリテン側は16株。
フランス側も16株。
こちらは国が8株、ルイ十四世が個人資産で8株を持つ形になりました。
「陛下の8株は、国庫の8株とは別です」
どろちゃんが念を押すと、ルイ十四世は紙から顔を上げました。
「分かっておる」
「相続の際も、別にしてください」
「そこまで今から言うのか」
「あとで混ざると面倒ですから」
イタリア側も16株です。
そこでサヴォさんが止まりました。
「今の国庫で16株を全部抱えるのは重い」
戦争が終わり、国内の立て直しをしている最中です。
どろちゃんは、そのうち4株を自分で一時的に引き受けることにしました。
4株の所有者は、当面どろちゃん。
その間の配当もどろちゃんが受け取ります。
議決権はサヴォさん側に残します。
国の経営が落ち着いたら、サヴォさん側は4株を買い戻せます。
値段は買い戻す時点の市場価格です。
「会社が大きくなる前に返した方がよさそうだな」
「会社が大きくなると、高くなりますね」
「分かっていて言っているだろう」
「はい」
契約書には、その条件もきちんと入りました。
*
64株は固定です。
会社が大きくなっても65株目は作りません。
ただ、1株そのものは大きすぎます。
そこで持分を細かく分けて売買できるようにしました。
1株の1/100。
1センチ株。
1/1000。
1ミリ株。
1/1,000,000。
1マイクロ株。
元の64株の一部を細分しているだけなので、会社全体の持分は増えません。
各国の16株を全部政府が抱える必要もありません。
商業組合、商人、銀行家、個人投資家へ細分した持分を譲渡できます。
買いたい人が増えれば値段は上がります。
船を沈め、商品を腐らせ、商売を減らせば値段は下がります。
利益がなくなれば配当も出ません。
「まじめに営業しないといけませんね」
どろちゃんが言いました。
経営側には、かなり分かりやすい仕組みです。
そして、どろちゃんはネーデルラント側8株に加えて、サヴォさん分の4株を一時的に持つことになりました。
会社全体の64株のうち12株です。
本人はそこまで計算してから、少し首を傾げました。
「また増えた」
フランソワさんは何も言わず、次の書類を差し出しました。
*
会社の正式名も決まりました。
ナーロッパ語で、
Vierstaatenostindienhandelsgesellschaft(フィーアシュターテンオストインディエンハンデルスゲゼルシャフト/四か国東インド貿易会社)。
長いです。
船腹、倉庫、帳簿、株券へ毎回全部書く気にはなりません。
略号は3文字。
VOG。
Vierstaaten-Ostindien-Gesellschaft(フィーアシュターテン・オストインディエン・ゲゼルシャフト/四か国東インド会社)。
「VOCと一文字だけ違う」
「しばらく書き間違いが出そうでございます」
「判子も作り直さないといけませんね」
VOGの運用が始まりました。
英国船が旧VOCの倉庫を使います。
ネーデルラントの船が英国側の補給港へ入ります。
フランスやイタリアの荷物も、空いている船倉へまとめて積みます。
修理設備も共用です。
船員も港の情報を共有します。
私掠船として相手の商船を探していた人たちは、同じ会社の荷物を運ぶ側へ回りました。
*
会計も一つに揃えます。
基礎にしたのはVOCで使っていた複式簿記です。
それを海外の商館、港、倉庫、船舶、長距離輸送まで同じ形式で追えるように組み直しました。
買付価格。
輸送費。
港湾利用料。
倉庫で失った量。
船の修理費。
賃金。
売上。
在庫。
同じ商品を別の港で扱えば、どちらが本当に利益を出しているか比べられます。
「数字が合わないところは、すぐ見えますね」
どろちゃんは嬉しそうです。
前から自分の商売を帳簿の外へ逃がしていた人たちには、あまり嬉しくない仕組みでした。
商品の買い付けにも共通規約ができました。
4か国の買付人が相談して産地を分け、1つの産地では1か国だけが買うようにすると、売る側はその買い主に合わせるしかありません。
そこで買付価格を下げ続ければ、最後には作る人がいなくなります。
VOGは地域と品目ごとに、生産を継続できる最低水準を決め、その水準より下の買付契約を認めないことにしました。
値段は公開します。
「表カルテルみたいですね」
どろちゃんが言うと、会計担当が困った顔をしました。
「侯爵様がそれをおっしゃいますか」
「秘密ではありません。板に書いてありますから」
利益を増やしたい支店は、輸送、保管、加工、販売を工夫することになります。
*
VOGには協賛国制度も作りました。
希望した国は、まず審査を受けます。
港や倉庫の運営、契約を守れるか、船と乗員を安全に扱えるかを確認します。
認められた国は会費を払い、VOGの港、倉庫、修理設備、給水や補給の施設を使えます。
反対に、VOGが協賛国の港や倉庫を使ったときは、その国へ利用料を払います。
自前の施設を世界中へ二重に造るより、使えるものを相互に使う方が早いです。
港を整えた協賛国には、VOGの船が寄るほど利用料が入ります。
会社を一つにした効果は、最初の航海から数字へ出始めました。
どろちゃんの机には、その数字と一緒に別の報告が届いています。
バタヴィアの役所からです。




