130貴族令嬢は、茶の木を100本ずつ調べます。 アッサムやウバなどの紅茶量産計画です。
第130章 貴族令嬢は、茶の木を100本ずつ調べます
英国で、お茶をもっとたくさん飲んでもらいたい。
どろちゃんが考え始めた理由は、それほど難しいものではありませんでした。
ジャムを入れた紅茶とピロシキを出す店は増えています。
サモワールからすぐに熱い湯を出せれば、客を長く待たせることもありません。
「1日に5杯くらい飲んでもらえたらいいよね」
フランソワさんがカップを置きました。
「一人で、でございますか」
「うん」
そのためには茶葉が要ります。
高価な茶を少量運ぶだけなら、今の交易でもできます。
毎日何杯も飲むものにするなら、量が多く、品質が揃い、何年も同じ土地で作り続けられる必要があります。
濃く早く出る茶。
香りを楽しむ茶。
葉の形を残す茶。
茶袋に入れて簡単に使える茶。
全部を同じ木、同じ土地から取る必要もありません。
どろちゃんはライデン大学へ行きました。
*
「植物学の先生を、お一人紹介していただけませんか」
学長先生は、机の向こうで少し考えました。
「何を調べるのです」
「お茶です。インドの方に大きな茶の木があるでしょう。良い木をたくさん調べて、育てたいんです」
「畑を作るだけではなさそうですね」
「100本ずつ調べたいんです」
そこで学長先生が紹介したのが、カスパル・コメリンでした。
アムステルダム生まれ。
若いころライデン大学で医学を学び、医学博士になったあと、アムステルダムの植物園で植物を扱うようになった人です。
外国から運ばれてきた植物を集め、育て、形を記録し、東西インドやアフリカから届いた珍しい植物についても本にまとめています。
最近はアムステルダムで植物学を教える教授にもなっていました。
「外国の植物なら、この人がよいでしょう」
「ライデン大学の先生ではないんですね」
「ですから、紹介します。貸していただけるかはアムステルダムにも頼んでください」
「では、お願いに行ってきます」
話はずいぶん早く進みました。
研究費はどろちゃんが出します。
必要な旅費も、標本箱も、器具も、飛行機もあります。
大学側で大きな予算を組み直す必要がなく、アムステルダム側も期間を決めてコメリンを送り出すことになりました。
本人は、どろちゃんが持ってきた計画書をしばらく読んでいました。
「標本を集める旅ではないのですね」
「生えている木を1本ずつ調べます」
「何本ほど」
「最初は100本です。それから場所を変えて、また100本調べます」
コメリンはもう一度紙を見ました。
「それは、かなり面白そうです」
貸出が決まりました。
*
次はラサです。
エルレンフェルトからラサへ向かうムリヤちゃんには、今回もマルガレーテが乗りました。
今回は、その横に見習いが2人います。ようやく見つかった、マルガレーテの部下です。
最初の区間から一緒に働き、機内の供食や客室の仕事を覚えてもらいます。
もう2人、オイゲンさんの部下も乗りました。
こちらは護衛兼FE見習いです。飛行中はFEの仕事を学び、現地では研究班の護衛に入ります。
ライデン大学ラサ分校には、すでに数学、天文学、自然科学を学ぶ学生がいます。
インド北東部へ行くにも、ヨーロッパから毎回人を運ぶより近い場所です。
「学生さんたちにも研究に参加してもらいましょう」
希望者を募ると、予想より手が挙がりました。
分校の一角には茶樹研究所が置かれました。
茶の木そのものを育てる場所。
葉を乾かす場所。
秤や器具を並べる部屋。
標本を残す棚。
採取地点を地図へ写す机。
ラサでできる分析はここで続けます。
現地へ持って行く器具はムリヤちゃんにも積みました。
どろちゃんが欲しいのは、一番大きな木を一つ見つけることでも、一番香りの強い葉を一枚見つけることでもありません。
同じ性質が、ある地域でどの程度繰り返して現れるのか。
その性質が土地や水や標高と結びついているのか。
栽培しても再現できそうか。
それを見るための人数が、学生の参加でようやく揃いました。
*
アッサムへ入る前に、どろちゃんは通信筒を落としました。
土地を治める人へ宛てた手紙です。
植物を調べたいこと。
地域で良いとされる茶の木を教えてほしいこと。
苗木を買いたいこと。
条件が合えば農地も買いたいこと。
別の日にも、また通信筒を落としました。
何度かそれを繰り返すうちに、土地の人たちの間では、空から来て手紙を落としていく大きな船の話が広がっていました。
手紙には、訪問を受け入れるなら、次に上空へ来る日に開けた場所へ白い布を大きな十字に並べてほしいと書いてあります。
次に通ったとき、その十字が見えました。
どろちゃんはラサへ戻り、人と荷物を積み直してムリヤちゃんで向かいました。
機内には、コメリンとラサ分校の学生たち。
マルガレーテと、給仕見習いの2人。
護衛兼FE見習いの、オイゲンさんの部下2人。
コウノトリちゃん。
小型クローラーダンプのサマスヴァール君。
日立のパワーショベル ZX50U-5B「Краб(クラブ/カニ)」。
採取箱と測定器具。
苗を傷めず運ぶための箱。
それに、アッサムで調査している間に食べる、ラサで作って冷凍した食事も積んであります。
学生たちやコメリンはセルフサービスで食べることも多いのですが、長い調査便の供食はマルガレーテたちの仕事です。見習い2人も、ここで実際の仕事を覚えます。
開けた土地が見えてくると、着陸に使える場所へ神様の長い滑走路が現れました。
六発の音を聞いて集まってきた人たちの中から、声が上がりました。
「空から大きな船が降りてきたぞ」
その大きな船の機首が開きます。
中からコウノトリちゃんが出てきました。
続いてサマスヴァール君。
そのあとには、日立のパワーショベル ZX50U-5B「Краб(クラブ/カニ)」まで降りてきます。
オイゲンさんの部下2人は、そのまま護衛に入りました。
試料や荷物の受け渡しは機外で行い、現地の人がムリヤちゃんの中へ入る必要があるときは、必ず護衛が付きます。
どろちゃんは調査用の紙を配りました。
「100本ずつ調べましょう」
*
1本ごとに番号を付けました。
幹の太さ。
樹高。
葉の大きさと形。
芽の出方。
日当たり。
斜面の向き。
標高。
水の流れ。
周囲の植生。
地元での評判。
葉も同じように採ります。
採った葉は、発酵させる前の状態でムリヤちゃんへ戻しました。
分析室は貨物室の一角です。
地元から作業用の家も提供されましたが、昼と夜で温度が大きく変わります。
比較する分析は、温度を揃えられるムリヤちゃんの中へ集めました。
調査日の食事もここへ戻って取ります。
ラサで作って冷凍してきたものを温め、マルガレーテと見習い2人が供食を回しました。
同じ量を量り、同じ条件で処理し、数値を表へ入れます。
1本の木から取った数字だけでは決めません。
100本分をまとめます。
次の場所へ移ります。
また100本です。
ムリヤちゃんから遠い谷や斜面には、コウノトリちゃんが研究者を運びました。
小さな空き地へ降り、採取班を下ろします。
帰りには葉と土と記録を積みました。
滑走路の近くでは、サマスヴァール君が採取箱や水や器具を運びます。
何日か続けると、紙の上に地域差が見えてきました。
「ここは、数字が揃っていますね」
どろちゃんが一つの表を指しました。
コメリンも別の表を重ねます。
「地元で良いと言われた木も、この範囲に多く入っています」
人が長く飲んできた経験と、測った数字が重なりました。
*
次は農地です。
地域の領主と話し、まとまった土地を買いました。
そこですでに小作をしていた人たちには、茶園で働く希望を聞きます。
働く人は農園の従業員になり、賃金を受け取ります。
土地と水の癖を知っている人を、わざわざ外へ出す理由はありません。
研究用の区画には、日立のパワーショベル ZX50U-5B「Краб(クラブ/カニ)」で植え穴を作りました。
地元で勧められた苗も買います。
調査で選んだ木から増やす苗も並べます。
毎日の水やり、除草、苗の状態確認は、管理料を払って領主側の人にも手伝ってもらいます。
もう一つ、別の栽培方法も始めました。
「お茶を上手に作っている農家の方を、紹介していただけますか」
領主から何軒か名前が出ました。
自分の土地で茶を育て、良いものを作っている農家です。
希望する家には選抜した苗を渡し、栽培を頼みます。
できた葉は決めた条件で買い取り、育て方の記録も残してもらいます。
大きな直営農園と、自分の畑を持つ農家。
両方から数字が上がってくるようになりました。
「これなら、畑が違っても比べられますね」
英国で大量に使う濃い茶には、ここで選んだ原料を使う予定です。
摘んだ葉を細かく処理して短時間で濃く出す方法も、研究項目へ入りました。
CTC。
まだこの土地の人には意味のない3文字ですが、どろちゃんの紙にはもう書かれています。
苗の一部は別の箱へ入りました。
行き先はセイロン島です。
その前に、ムリヤちゃんはアッサムからラサへ戻りました。
ラサへ着くと、地上の係員が機内へ入り、試料箱、調査記録、分析データを大学の研究室へ運びます。研究班は受け渡しを済ませました。
翌日は1日休みです。
どろちゃんも、フランソワさんも、先生も学生も、マルガレーテたちも、オイゲンさんの部下2人も休みました。
休み明けから次の便の準備を始めます。
次の便は、ラサからキャンディー王国へ向かい、そこからラサへ戻らずエルレンフェルトへ帰る予定です。
その予定は分校にも伝えられ、一時帰国する先生や学生もラサから乗ることになりました。
選んだ苗、研究器具、食料を積み直し、帰国する先生や学生も乗せて、ムリヤちゃんはラサからキャンディー王国へ向かいました。
お茶の研究は、次の土地へ続きます。




