104貴族令嬢は、小鳥さんと久しぶりに音速を越えます。 燃料確保で久しぶりに音速突破。
第104章 貴族令嬢は、小鳥さんと久しぶりに音速を越えます
フランソワさんが山の町の教会で昼食会に出ていたころ。
エルレンフェルトでは、どろちゃんも昼食を終えていました。
午前中に5本燃やした新しいロケットは、全部、これまでのアフラ君とほとんど同じ推力と燃焼時間を出しました。
名前は、ピラジョーク君。
ピロシキ屋さんで使い終わった揚げ油から作った燃料です。
地上試験がうまくいったので、午後は小鳥さんへ積みます。
小鳥さんを飛ばすのは、ずいぶん久しぶりでした。
◇ ◇ ◇
旧飛行場の格納庫へ入ると、小鳥さんはいつもの場所にいました。
細い胴体。
高速では後ろへたたまれる翼。
ロケットを取り付けるための部分。
何年か前には、これを見るたびに「今日はどこまで速くなるんだろう」と思っていました。
最近は違います。
航空写真測量。
長距離の移動。
貨物や人の輸送。
地図の上で、どこからどこまでを何時間で移動したか。
この2年ほど、速度と言えば対地速度を見ることの方がずっと多くなっていました。
地上の点と点を結ぶ仕事なら、それでいいのです。
でも、小鳥さんは違います。
機体にかかる力を決めるのは、地面に対する速さではありません。
空気に対して、どれだけの速さで飛んでいるかです。
「久しぶりに、対気速度ばっかり見る日だね」
整備士さんが笑いました。
「小鳥さんですからね」
「そうなんだよね。対地速度を見ても、今日はあんまり意味がない」
意味がないわけではありません。
どこまで飛んでいったかを見るには必要です。
でも、今日の主役ではありません。
◇ ◇ ◇
ピラジョーク君を2本、運んできました。
午前中の試験に使ったものと同じです。
1本ずつ、取付部へ収めます。
固定部。
点火回路。
配線。
ノズルまわり。
整備士さんが確認し、別の人がもう1度確認します。
「1番、固定よし」
「2番、固定よし」
「点火回路、よし」
「取付部、よし」
どろちゃんも記録を見ました。
午前中の5本は、アフラ君との差が測定誤差の範囲でした。
でも、実際に機体へ付けて飛ばすのは初めてです。
小鳥さんを載せた台車を動かします。
格納庫の床から、そのまま外へ続く台車用の線路へ出ました。
人が機体を抱えて運ぶ必要はありません。
小鳥さんは台車の上に載ったまま、ゆっくり発射設備へ向かいます。
線路の先に、発射スレッドが待っています。
台車を止めます。
門型の設備を使い、小鳥さんを持ち上げました。
スレッドへ載せます。
固定。
スレッド側も確認。
ここまで来ると、ずいぶん昔のことを思い出します。
初めてこの設備を作ったころは、音より速く飛ぶ機体を地上からどうやって安全に送り出すか、それだけで大仕事でした。
今は、手順が決まっています。
だからこそ、久しぶりでも1つずつ戻ればいいのです。
◇ ◇ ◇
操縦席へ入りました。
体を固定します。
ハッチを閉じます。
電源。
計器。
与圧。
酸素。
無線。
姿勢表示。
操舵系。
ロケット1番。
ロケット2番。
1つずつ見ました。
小鳥さんの計器が、久しぶりに飛行前の形へそろっていきます。
「小鳥さん」
『はい、どろちゃん。』
澄んだ声です。
「久しぶり」
『お久しぶりです。今日は飛ぶのですね。』
「うん。ロケットも久しぶり」
『アフラ君ですか。』
「今日は違うよ」
そこで、どろちゃんは午前中の話をしました。
「前のアフラ君は、食べられないくらいカビたピーナッツから取った油を使っていたでしょう」
『はい。名前も、そのカビの毒から付いたと聞きました。』
「そう。でも最近、カビて捨てるピーナッツが減ったの。ちゃんと食べられるものが増えたから、燃料用に回ってこなくなった」
小鳥さんは少し考えたようでした。
『ピーナッツには、よいことですね。』
「うん。とてもいいこと。だから、食べられるものを小鳥さんのために燃やすのはやめたいでしょう」
『それなら、今日は何を燃やすのですか。』
「ピロシキを揚げたあとのヒマワリ油」
少し間がありました。
『ピロシキを揚げたあと。』
「そう。もう食べ物には使いたくないところまで使った油。食べかすを取って、水分を抜いて、状態をそろえて、ロケット燃料にしたの」
『では、今日はヒマワリ油で飛ぶのですね。』
「ピロシキを揚げたヒマワリ油」
『そこは大事なのですか。』
「名前がピラジョーク君だからね」
『分かりました。今日はピロシキを揚げたヒマワリ油で飛びます。』
小鳥さんが妙に丁寧に言いました。
久しぶりに話すと、やっぱり小鳥さんでした。
◇ ◇ ◇
もう1度、機器を確認します。
「高度計、よし」
『対気速度、ゼロ。』
「マッハ表示、よし」
『翼位置、高速側。』
「与圧、よし」
『ロケット1番、待機。2番、待機。』
地上側からも確認が来ました。
「発射スレッド、準備よろしいです」
「こちらも大丈夫です」
発射スレッドそのものに、小鳥さんを押し出す力はありません。
これはカタパルトではありません。
小鳥さんの向きと姿勢を保ち、ロケットへ点火した直後の機体をまっすぐ走らせるためのガイドです。
加速するのは、最初から小鳥さん自身のロケットでした。
少し呼吸を整えます。
久しぶりです。
でも、怖いという感じではありません。
むしろ、見慣れていたはずの対気速度計が、今日は妙に目立ちました。
この2年、どろちゃんは地図の上で速度を考えることが多かったのです。
目的地まで、あと何km。
追い風なら到着が何分早い。
向かい風なら燃料にどれくらい余裕を見る。
今日は違います。
風がどちらから吹いても、まず見るのは空気に対する小鳥さんの速さです。
「行こうか」
『はい。』
「1番、点火」
ピラジョーク君1号へ点火しました。
次の瞬間、背中から強く押されます。
小鳥さんは発射スレッドの上を走り始めました。
◇ ◇ ◇
スレッドは動力を持っていません。
動いているのは、小鳥さんです。
ピラジョーク君1号の推力で、ガイドに沿って速度を上げていきます。
「対気速度、80km/h」
『120km/h。』
滑走路の脇が流れ始めます。
「160km/h」
『190km/h。』
発射スレッドの終端が近づきました。
「210km/h」
『姿勢、安定しています。』
小鳥さんがスレッドを離れました。
そのままピラジョーク君1号に押されて浮き上がります。
「高度、20m。対気速度、230km/h」
『上昇、正常です。』
午前中は地上で聞いていたロケットの音が、今度は自分の後ろから続きます。
「高度、200m。対気速度、280km/h」
『320km/h。高度、400m。』
機首を上げすぎないようにします。
速さを全部高度へ変えるのではなく、加速しながら上がります。
「高度、1000m。対気速度、430km/h」
『1500m。510km/h。』
「2000m。580km/h」
地上が小さくなります。
翼は後退したままです。
『高度、3000m。対気速度、660km/h。マッハ0.56。』
「久しぶりに、その数字聞いた」
『対地速度も表示されています。』
「今日はそっちはあとでいいよ」
『分かりました。』
まだ1号が押しています。
「4000m。740km/h。マッハ0.63」
『4800m。810km/h。』
そこで、押される力がなくなりました。
1号の燃焼終了です。
急に静かになります。
機体が壊れたわけではありません。
ロケットが終わっただけです。
「1号、燃焼終了」
『1番、燃焼終了。』
ピラジョーク君1号は、そのまま小鳥さんに付いています。
中の固体推進剤を使い切っただけです。
ケースもノズルも捨てません。
帰ってから外して点検し、状態がよければ新しい推進剤を詰めて、また使います。
推進剤を使った分だけ機体は軽くなりました。
姿勢を確認します。
高度、5200m。
対気速度、790km/h。
少し速度が落ちています。
「2番、いける?」
『点火系、正常です。』
「2番、点火」
もう1度、背中を押されました。
◇ ◇ ◇
2本目は、さらに高いところまで連れて行きます。
「高度、6000m。対気速度、860km/h」
『7000m。930km/h。マッハ0.80。』
「8000m。990km/h」
空の青が少し濃くなります。
「9000m。1040km/h。マッハ0.90」
『10000m。1100km/h。マッハ0.95。』
どろちゃんは計器を見ます。
対地速度の数字も別の場所で動いています。
上空には風がありますから、同じ値ではありません。
でも、目が行くのは対気速度です。
「11000m。1150km/h。マッハ1.08」
音速を越えました。
今回は、初飛行のときよりずっと落ち着いています。
計器を見ていたので、どこで越えたのかも分かりました。
『超音速です。』
「分かった。ちゃんと見てた」
ロケットが燃えているので、静かではありません。
でも、機体が突然何かの壁へぶつかったようなこともありません。
「12000m。1240km/h。マッハ1.17」
『13000m。1330km/h。マッハ1.25。』
さらに高度を取ります。
「14000m。1400km/h。マッハ1.32」
『15000m。1450km/h。マッハ1.36。』
そこで2本目も燃え終わりました。
押されていた力がなくなります。
2号も1号と同じように、空になったケースを付けたままです。
2本分の推進剤を使い切って軽くなった小鳥さんは、そのまま上昇を続けました。
◇ ◇ ◇
ロケットはもうありません。
上へ進むほど、速度が高度へ変わっていきます。
「16000m。対気速度、1360km/h。マッハ1.28」
『17000m。1240km/h。マッハ1.17。』
「18000m。1100km/h。マッハ1.04」
さっきまでのロケット音がありません。
空気も薄い。
速度そのものはまだとても大きいのに、低いところを高速で飛ぶときより、風切り音がずっと控えめでした。
もちろん無音ではありません。
機体表面を流れる空気の音。
わずかな振動。
与圧装置の音。
でも「音より速い」という言葉から想像するほど騒がしくありません。
「18500m。1020km/h。マッハ0.96」
『亜音速へ戻りました。』
「うん」
さらに少し上がります。
「19000m。920km/h。マッハ0.87」
上昇率がほとんどなくなりました。
成層圏です。
どろちゃんは少しだけ空を見ました。
青は濃く、地平線は低いところにあります。
でも今日は景色を見るために来たのではありません。
「ここから、下りながらもう1回速くしよう」
『ロケットは2本とも使いました。』
「だから、高さを使うの」
『はい。』
機首を少し下げます。
急降下ではありません。
緩やかな下り坂です。
◇ ◇ ◇
「高度、18800m。対気速度、940km/h」
『18500m。980km/h。マッハ0.92。』
少しずつ速くなります。
ロケットはありません。
高度を失う分が、速度へ変わっています。
「18200m。1020km/h。マッハ0.96」
『18000m。1050km/h。マッハ0.99。』
どろちゃんは速度計を見続けました。
このあたりは、2年間の輸送飛行ではほとんど考えなかった世界です。
地上に対して何km進むかではありません。
空気に対して、どれだけ速く小鳥さんが突っ込んでいるか。
「17800m。1080km/h」
『マッハ1.02。』
もう1度、音速を越えました。
今度はロケットの音もありません。
高い空の薄い空気の中で、計器の数字だけが先に教えてくれました。
「越えたね」
『はい。2回目です。』
「今日は2回越える日だね」
風切り音は少し変わりました。
でも、やはり低空を高速で飛ぶときほど大きくありません。
空気が薄いからです。
「17500m。1150km/h。マッハ1.08」
『17200m。1220km/h。マッハ1.15。』
降下角を少しだけ増やします。
「16800m。1260km/h。マッハ1.19」
『16500m。1270km/h。マッハ1.20。』
「この辺でいけそう」
角度を少し戻しました。
それ以上、速くする必要はありません。
マッハ1.2くらい。
高度を少しずつ失いながら、その速度を保てるところを探します。
◇ ◇ ◇
小鳥さんは、長い透明な坂を滑り降りるように進みました。
「高度、16000m。対気速度、1270km/h。マッハ1.20」
『15500m。1270km/h。マッハ1.20。』
「いいね」
しばらくほとんど数字が変わりません。
高度だけがゆっくり下がります。
「15000m。1270km/h。マッハ1.20」
『14500m。1270km/h。』
「対地速度は?」
『1340km/hです。』
「やっぱり違うね」
上空の風の分だけずれています。
でも、今日は確認しただけです。
「戻して。対気速度と高度」
『はい。高度、14000m。対気速度、1270km/h。マッハ1.20。』
こっちです。
今日知りたいのは、小鳥さんが空気の中でどんな状態にあるかです。
「13500m。1270km/h」
『13000m。1270km/h。マッハ1.20。』
高度が下がるにつれて、同じ速度でも風の音が少しずつ増えてきました。
機体へ伝わる感触も、さっきまでとは違います。
「12500m。1275km/h」
『動圧、上昇しています。』
「分かる」
空気が濃くなっています。
同じマッハ1.2を保つために必要な降下角も、少しずつ大きくなりました。
高度を速度へ変えても、空気抵抗で失う分が増えていきます。
「12000m。1280km/h。マッハ1.20」
『このまま維持すると、降下角が大きくなります。』
「もう十分かな」
無理にマッハ1.2へしがみつく理由はありません。
今日は速度記録を作りに来たのではありません。
ピラジョーク君で安全に上がり、超音速域を飛び、帰れることを確かめる飛行です。
◇ ◇ ◇
「浅くするよ」
『はい。』
機首を少し起こし、降下角を減らします。
重力から速度へ回る分が減りました。
空気抵抗の方が勝ち始めます。
「高度、11500m。対気速度、1240km/h。マッハ1.17」
『11000m。1190km/h。マッハ1.12。』
音が少しずつ変わります。
「10500m。1130km/h。マッハ1.06」
『10000m。1070km/h。マッハ1.00付近。』
「また戻るね」
今度は減速しながら音速を下回ります。
『高度、9800m。対気速度、1030km/h。マッハ0.97。』
「9500m。970km/h。マッハ0.91」
さらに速度を落とします。
「9200m。910km/h」
『高度、9000m。対気速度、860km/h。マッハ0.80。』
その数字を待っていました。
小鳥さんの翼が動き始めます。
後ろへ大きくたたまれていた翼が、ゆっくり前へ広がりました。
「久しぶりに見るね」
『広い方が、これからはよく飛べます。』
「前にも言ってた」
『覚えています。』
翼が展開し終わると、機体の感じが変わりました。
さっきまでの高速機から、グライダーへ戻ります。
◇ ◇ ◇
ここからは、急いで速度を保つ必要がありません。
「高度、8500m。対気速度、720km/h」
『8000m。630km/h。』
翼が揚力を作ります。
降下はずっと穏やかです。
「7000m。540km/h」
『6000m。470km/h。』
地上の形がだんだん分かるようになってきました。
川。
町。
線路。
新しい3000m滑走路。
その向こうに、旧飛行場があります。
対地速度表示も当然あります。
でも、どろちゃんの目はまだ対気速度へ戻ります。
「5000m。420km/h」
『4000m。360km/h。』
「2年間、こっちの速度をこんなに見なかったんだね」
『最近は、地図をよく見ていました。』
「測量も輸送も、地上が相手だったからね」
『今日は空気が相手です。』
「そういうこと」
4000mを切ります。
「3000m。310km/h」
『2500m。280km/h。』
旧飛行場へ向けて進路を合わせます。
もう超音速だった機体には見えません。
翼をいっぱいに使って飛んでいます。
「2000m。250km/h」
『1500m。220km/h。』
飛行場がはっきり見えます。
滑走路。
格納庫。
発射スレッド。
さっき自分が出てきた場所です。
「1000m。200km/h」
『場周へ入ります。』
「うん」
高度を処理します。
脚を出します。
「500m。170km/h」
『300m。155km/h。』
滑走路へ合わせました。
ロケットはありません。
エンジンもありません。
最後は、いつもどおり自分の高度と速度だけで帰ります。
「150m。対気速度、145km/h」
『進入、安定しています。』
「100m」
『対気速度、140km/h。』
地面が近づきます。
滑走路の上へ入るころには、もう高速で飛ぶ必要はありません。
少しずつ機首を起こします。
「50m。130km/h」
『30m。120km/h。』
地面がすぐ下です。
翼をいっぱいに使い、速度をさらに削ります。
「10m。110km/h」
『失速速度に近づいています。』
「ここから落とさない」
ほんの少しだけ機首を上げたまま、滑走路の上を伸びます。
もう余分な速度はほとんどありません。
浮いていられるぎりぎりのところで、主脚が地面へ触れました。
接地。
車輪が回ります。
揚力が抜け、小鳥さんの重さが脚へ戻ってきました。
速度が落ちます。
小鳥さんは旧飛行場へ帰ってきました。
◇ ◇ ◇
「小鳥さん、おかえり」
『ただいま戻りました。』
滑走を終え、止まります。
「ピラジョーク君、どうだった?」
『アフラ君と同じように飛べました。2本とも正常でした。』
「ピロシキを揚げたヒマワリ油で、マッハ1.2」
『はい。』
「なんか変だね」
『でも、飛びました。』
「飛んだね」
ハッチを開けると、冬の空気が入りました。
高いところより、地上の方がずっと空気が濃い。
当たり前なのに、音速を越えて降りてきた直後だと、妙に実感があります。
整備士さんたちが近づいてきました。
「どうでしたか」
「2本とも問題なし。上で1度亜音速まで落として、降下でもう1回音速を越えました。マッハ1.2くらいをしばらく保てたよ」
「新しい燃料で、ですか」
「うん。ピロシキの油で」
整備士さんが小鳥さんを見ました。
「本当に飛びましたね」
「午前中に5本燃やしたでしょう」
「地上で燃えるのと、実際に乗って帰ってくるのは、やっぱり違いますから」
「それはそうだね」
記録装置を回収します。
今日の高度。
対気速度。
マッハ数。
姿勢。
ロケットの燃焼時間。
加速度。
翼の展開時刻。
全部残っています。
対地速度も記録されています。
でも、今日どろちゃんが何度も見たのは、そちらではありませんでした。
高度と、対気速度。
そしてマッハ数。
2年ほど地上の距離を測る飛び方ばかりしている間に、少し遠くなっていた感覚でした。
小鳥さんへ乗ると、それがすぐ戻ってきました。
飛行機が地図の上を何km進んだかではなく、
いま、この翼と胴体が、空気の中をどれだけの速さで進んでいるのか。
久しぶりの小鳥さんは、それを思い出させてくれました。
*
第104章の小さな説明
【発射スレッド】
小鳥さんの発射スレッドは、カタパルトではありません。
発進時に機体の向きと姿勢を保ち、ロケット点火直後の小鳥さんをまっすぐ案内するためのガイドです。
発進時の加速は、最初から小鳥さん自身に取り付けたピラジョーク君の推力で行います。
【ピラジョーク君】
ピラジョーク君は、これまでのアフラ君と同じ小鳥さん用の固体ロケットユニットです。
違うのは、燃料側に使う原料の一部です。
アフラ君では、食用にも飼料にも戻せないカビ被害ピーナッツから得た成分を使っていました。
ピラジョーク君では、ピロシキなどを揚げたあと、食用には使わなくなったヒマワリ油を利用します。
具体的な推進剤の配合や製造手順は、本作では設定しません。
【ロケットは捨てません】
小鳥さんへ取り付けるアフラ君、ピラジョーク君は、燃焼が終わっても空中で分離しません。
中の固体推進剤を使い切ったケースを付けたまま、小鳥さんと一緒に帰還します。
地上で取り外し、ケース、ノズル、取付部などを点検し、状態がよければ新しい推進剤を詰めて何度か再使用します。
小鳥さんから分離することがある大型装置は、別にある再使用式加速装置のНちゃん(エンちゃん。神様の文字Нに由来する名前。)です。
【対気速度と対地速度】
対地速度は、地面に対してどれだけ速く移動しているかを示します。
長距離輸送や航空写真測量では、目的地までの時間や地図上の移動量が重要なので、どろちゃんもここ2年ほどは対地速度を見る場面が増えていました。
対気速度は、周囲の空気に対する機体の速さです。
翼が作る揚力、空気抵抗、動圧、失速など、機体そのものの飛び方を考えるときはこちらが重要になります。
小鳥さんのように高速域から失速直前まで1回の飛行で使う機体では、対気速度を見る時間がとても長くなります。
【マッハ数】
マッハ数は、その場所の音速に対して何倍の速さで飛んでいるかを示します。
音速は気温などによって変わるため、同じマッハ1.2でも、いつでも同じ何km/hになるわけではありません。
本文中の対気速度とマッハ数は、その高度で計器に表示された値として扱っています。
【高いところでは少し静かです】
成層圏では空気が薄いため、同じマッハ数でも低空より動圧が小さく、機体表面から伝わる空力音や振動も比較的弱くなります。
無音になるわけではありません。
高度を下げるにつれて空気密度が増えるので、同じマッハ1.2を保とうとすると空気抵抗と機体へかかる力が大きくなります。
そこで本章では、どろちゃんが降下角を浅くし、速度を落としてから翼を広げています。
【高度を速度へ変えます】
2本のピラジョーク君を使い終えたあと、小鳥さんには推力がありません。
それでも高いところから緩やかに降下すれば、位置エネルギーを速度へ変えられます。
本章では、成層圏で1度亜音速へ戻ったあと、降下によってもう1度音速を越え、マッハ1.2前後をしばらく保っています。
高度が下がり、空気抵抗が増えて維持が難しくなったところで、速度を落とします。
【最後はグライダーです】
小鳥さんは高速では翼を大きく後退させ、速度が下がると翼を前へ広げます。
本章ではマッハ0.8付近で翼を展開し、そのあとはロケットもエンジンも使わず、旧飛行場まで滑空します。
着陸の最後には、滑走路上で少しずつ対気速度を落とし、失速速度のすぐ上まで使って接地します。
音より速く飛んできた機体ですが、最後の数秒は、普通のグライダーと同じように「あとどれだけ揚力を残せるか」を見ながら降ります。




