表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役救済BADEND  作者: ゆずリンゴ
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/41

三十七話 悪役救済BADEND

 まどろみの中で聞いた、本来のセシリアの嘲笑。

「自分一人が消えて世界を戻すのか、彼と共に地獄へ堕ちるのか」

 その問いに答える暇もなく、私の意識は急激な浮遊感と共に引き戻された。

 まぶたを開けると、そこは王城の最上階。

 かつてダンスを踊った美しいバルコニーは、いまや黒い魔力の結晶に侵食され、異界のような姿に変貌していた。


 私がその光景(つみ)を受け止める前に、私を抱きしめる腕の熱が背後から回ってきた。どこからか現れたカイン様に私はかつて無いほどの恐怖を覚えた。


「ねえ、セシリア。見てごらん。とても綺麗だ」


 カイン様は、窓の外を指さしながら、うっとりとした声で私に囁いた。

 彼の細くしなやかな指の先、王都の空は、かつてないほど鮮やかな紅蓮に染まっている。

 それは夕焼けではない。燃え盛る王城と、逃げ惑う人々の悲鳴が作り出した、地獄の業火だった。


「どうして……どうして、こんなことに……」


 私は震える手で口元を覆う。

 本来のシナリオなら、彼はヒロインである聖女を奪うためにクーデターを起こし、そして勇者に討たれて死ぬはずだった。

 だから私は奔走した。彼が聖女に執着しないよう、私が彼の一番になり、彼の心の闇をすべて愛で埋めたはずだった。


 私の努力は報われた。彼は聖女になど目もくれなかった。彼が彼女のために犠牲になるのとは回避された。彼の瞳には私しか映っていなかったから。


「どうしてって、君が言ったんじゃないか」


 カイン様は、血のついた手袋を外し、私の頬を優しく撫でる。その瞳は、宝石のように美しく、そして底が見えないほど濁っていた。


「『カイン様と一緒にいられるなら、他には何もいらない』って」


 ドクン、と心臓が跳ねる。

 言った。確かに言った。

 彼が公爵家の重圧に押しつぶされそうになっていた夜、彼を励ますために。彼を肯定するために。


「だから、要らないものは全部消したんだよ」


 彼は無邪気な子供のように笑った。

 その足元には、本来のヒーローであった王子と、ヒロインであった聖女の変わり果てた姿が転がっている。彼を断罪するはずだった者たちは、もう誰も息をしていない。


「セシリア、君を僕から奪おうとする国も、君を惑わせる正義も、僕たちの時間を邪魔する民衆も、全部邪魔だった。君が僕だけを見てくれるには、世界は広すぎたんだ」


 違う。私が最初に望んだのは、あなたが誰からも愛される立派な当主になり、穏やかに生きることだった。こんな、血塗れのハッピーエンドじゃない。

 けれど、私の言葉は喉で詰まって出てこない。


 彼の頬に返り血がついている。それを拭ってあげたいと思ってしまう自分自身が、何よりも恐ろしかった。


「泣かないで、僕の可愛いセシリア。救われたよ。君のおかげだ」


 彼は私を強く抱きしめる。鉄の味がするキスが降ってくる。


 背後で、王都が崩れ落ちる轟音が響いた。


「これで、もう誰も僕たちを邪魔できない。永遠に、二人きりだ」


 私の視界が涙で滲む。


 彼を「死」から救った結果、私は彼を「人」ではない何かに変えてしまった。


(ああ、これが私の望んだ救済の結果なの?)


 燃え落ちる世界の中で、私は彼に抱かれながら、諦めにも似た笑みを浮かべる。

 これは間違いなくバッドエンドだ。


 けれど、愛する彼がこれほどまでに幸せそうに笑っているのだから、私はもう、この地獄で彼と踊り続けるしかないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ