二十一話 降りしきる雪の中で
冬が訪れ、王立学園は厚い雪に覆われた。
収穫祭の動乱は、エドワード殿下の根回しによって「魔力の暴走をした公爵をもう1人の聖女が鎮めた」という歪んだ英雄譚として語り継がれている。
周囲はカイン様を畏怖し、私を「彼を繋ぎ止める唯一の良心」として崇めるようになった。
けれど、本当は逆だ。
私が彼を繋ぎ止めているのではない。
彼が私という「転生者」を、闇の中に隠し、誰にも見つからないように抱きしめているのだ。
❄❄❄
学園恒例の「冬の狩猟祭」。
本来は生徒たちがチームを組み、魔獣を狩ってその腕を競う行事だが、カイン様は当然のように私以外の同行を拒んだ。
「寒いかい、セシリア」
カイン様が、私の手を取り、自分の外套のポケットの中に引き入れた。
手袋越しでも伝わる、彼の指の熱。
雪に閉ざされた森の中、周囲には騎士たちの護衛さえいない。彼が編み上げた隠蔽の魔術が、私たちを世界の視線から完全に消し去っていた。
「……いいえ、カイン様が隣にいらっしゃれば、暖かいですわ」
「ふふ、またそんな可愛い嘘を。……でも、いいよ。君がつく嘘は僕にとっての真実だから」
カイン様は立ち止まり、私の襟元を整えるふりをして、耳元で囁いた。
「ねえ、セシリア。君がいた『前の世界』には、雪は降っていたのかい?」
彼が時折、このように私の「前世」について尋ねるようになった。
それは嫉妬でも不信でもなく、まるで私のルーツを一つずつ自分のものとしてコレクションしていくような、奇妙な愛着の示し方だった。
私は、記憶の中の冬の景色を彼に語る。
高いビル、夜を照らす光、そして……この世界の誰にも理解されない孤独な「私」の話。
「……私の世界では、魔法なんてありませんでした。私はただ、画面の中のあなたを見て、涙を流すだけの……孤独な存在だったのです」
「……画面の中、か。今の僕が、君の指に触れ、君の唇を奪えるこの現実を、君の世界の誰にも教えたくないな」
カイン様は私の腰を抱き寄せ、深く口づけた。
冷たい雪の結晶が頬に当たるけれど、彼の体温だけが恐ろしいほどに鮮明だ。
「セシリア。君が救いたかった『僕』は、もうどこにもいない。君がこの世界に現れた瞬間から、僕は君のものになったんだ。だから、もう二度と、あっちの世界へ帰ろうなんて思わないで」
「帰りませんわ。……私の居場所は、あなたの隣にしかありません」
私がそう答えると、カイン様は満足げに目を細めた。
その瞳の奥には、以前のような「暴走する狂気」はない。代わりに、「セシリアのすべてを、彼女の魂の故郷ごと買い占める」という、極めて計画的で深い独占欲の根が私を包み込んでくれている。
森の出口付近で、私たちはルミナさんとすれ違った。
彼女はエドワード殿下のチームで、傷ついた生徒を癒やしていた。
「あ……セシリア様。カイン様」
ルミナさんの瞳に、以前のような「浄化してあげたい」という光はない。
彼女が見ているのは、もはや「助けが必要な二人」ではなく、「完成されてしまった異世界」だった。
「お二人の魔力は、もう……。まるで一つの生き物のように混ざり合っているんですね」
ルミナさんは力なく笑い、それ以上、私たちに踏み込もうとはしなかった。飲み込まれないよう敬遠している。
カイン様は彼女を一瞥もせず、私を促して馬車へと向かう。
カイン様は、聖女を排除するのではなく、「聖女が手を出せないほど、私と精神的に癒着する」ことで、彼女の役割を奪い去ったのだ。




