閑話 孕む狂気
先日からカイン様はレオンとの決闘を理由に地下監獄へと幽閉されている。
幽閉される期間は10日間。彼と出会ってからそんなにも長い時間離れていたことの無い私は不安に駆られていた。
彼を愛するが故の心配と、彼の狂気を知るからこその不安が板挟みになっている。
私は前世――『聖女と白銀の騎士』における彼を知っているからこそ。
カイン様はゲーム本編において悪役に分類される人物。隠し攻略対象にはなっているもののその実態は『BADENDしか用意されていない悲劇のヒーロー』でした。どのルートおいても彼は世界を敵に回し、そして命を落とす運命にある。
メイン攻略対象のBADENDではレオンを除いた全てのキャラクターが生誕祭の日に聖女が魔王を封印するための100年に1度、結界の『核』となる儀式の場へとヒロインを送り出す。その時に、カイン様は敵として現れ儀式を止めるべく乱入してバトルとなります。
一見、その時の攻略対象が悪に見えるように見える状況ですがカインルートでない限り彼が登場するのはヒロインを無理に強奪しようとする強制戦闘のあるシーンのみなのです。こちらから接触をしていないのにどこまでも迫ってくる、主人公視点では『一方的な愛』を理由に世界の破滅さえ厭わない狂人。もしくは……子供というべきでしょうか。これは正義ではない、悪に分類されるものでしょう。
そしてハッピーエンドを迎える時には、BADEND同様に彼女の死ぬ未来を否定し続け最終的には魔王の依代とされた後に命を落とす。ゲームでのハッピーエンドは彼の死がなければ成り立たない何とも理不尽な内容でした。こんな悲しい運命を抱える彼のルートを知った時、私はどれほどの希望をみただろうか。そして、どれだけ絶望したか。
カインルート。攻略対象の誰とも親密度を上げない事をキッカケに、誰とも上げられなくなる事を条件に入るルート。
このカインルートでさえも、彼はその命を落とす。しかしこれは私が彼の狂気に魅入られた理由なのだ。
カインルートのクライマックス。他のBADENDの時同様に生誕祭の儀式会場に彼は現れる。このルートでは誰1人主人公を守ろうとしないから、数千の決定的な敵意を持つ軍勢を相手にたった1人儀式を襲撃することになりました。それも「命を魔力に変換する魔法」を使って。
「どけ! 彼女は聖女である前に、ただの少女だ! 世界のために死んでいい命など、一つもない!」
血反吐を吐き、満身創痍になりながらも祭壇へ辿りついた彼は主人公の手を無理やり掴んで叫ぶ。
「世界なんて滅びればいい! 君がいない未来に、何の意味があるんだ!」
それはやっぱり身勝手で、幼い理屈だけど、それでも誰もが諦める彼女の生を諦めない姿に私の心は打たれたのだ。
逃走後、結局ヒロインを取り戻しに来たヒーロー達を前に
「お前たちの言う『正義』は、彼女の犠牲の上にしか成り立たないのか? ならば、そんな脆弱な世界など僕が壊してやる。民が死のうが、国が燃えようが知ったことか。……彼女が笑っていてくれるなら、僕は喜んで地獄へ落ちる」というセリフと共に魔王の力を取り込むけれど、激闘の末に王太子の聖剣に貫かれる。
魔王の力を失い崩れ落ちる彼とは裏腹に空からは眩しい光が差し込み、主人公だけを照らし、「愛しているよ。世界中の誰よりも、何よりも」という言葉と共に満足そうに微笑み彼は死んでしまった。魔王という力を取り込んだ代償として、その姿諸共残らずに消えてしまう。カイン様は身を呈して聖女を救った。……それなのに、「聖女を拐かした大罪人」としてその名は歴史に刻まれ最後まで報われることはなかった。
今、その愚直すぎる致死量の愛は私に向けられている。だからこそこの状況で愛を溜め込んだカイン様が壊れてしまわないかが不安。
カイン様と離れている間は、体は毒が回るようだった。いえ、むしろ逆かもしれません。ずっと回っていたはずの毒が回らない、違和感。
『セシリア』
『セシリア』
『セシリア』
彼の声がどこからともなく聞こえる。私の中に残り続ける彼の声が。
私は既に彼の孕む狂気に飲み込まれていた。




