第9話「クルードで作戦会議」
「お、お邪魔しまーす……」
「これが探偵事務所ってやつか!!」
マオとカフラはシーカの探偵事務所に到着し、中へと通される。
扉を開けると手前には革張りのソファ。
壁一面には本棚が並び、奥には重厚な木製のデスクがあった。
「名探偵シーカ!帰還した!」
シーカは帽子とコートを豪快に脱ぎ捨て、奥にある木製のデスクへダッシュする。
宙に舞ったシーカの帽子とコートをジョンソンはスマートに受け取りコートハンガーにかける。
白いカッターシャツに
サスペンダー付きのパンツ姿になった
シーカはデスクチェアに座り、
ポケットから出したパイプに口をつける。
その先端からはポワポワとシャボン玉が吹き出す。
「ここが、この名探偵シーカの探偵事務所だ!」
シーカは自信満々の表情である。
ジョンソンは自身のコートを綺麗にコートハンガーにかけ、マオとカフラを案内する。
「どうぞ、好きなところに座って構わないからね」
「あ、ありがとう」
「すげぇー!
なんだこのイス!!皮でできてるぜ!!」
マオとカフラは革のソファに腰掛けた。
その前にはローテーブルがあった。
ジョンソンはシーカが座っている椅子をデスクからローテーブルの前に移動させる。
ローテーブルに到着するとシーカは口を開く。
「それでは明日の作戦会議を始めようか。
ジョンソンくん、"あれ"を……」
「はい、先生」
ジョンソンはカバンから一枚の大きな紙を取り出し、ローテーブルに広げた。
紙の中央には赤い宝石マーク、それを囲む様に周りには四角く線が引いている。
続けてジョンソンは4色の人型の駒を取り出した。
準備ができるとシーカは作戦会議を始めた。
「これは、"ブリッシュミュージアム"のローズジェムが展示してある部屋の図面だ」
「"ブリッシュミュージアム"って何?」
マオの質問にジョンソンが答える。
「"ブリッシュミュージアム"は、
ここ"アルビオン"が誇る歴史ある博物館の名前だよ」
続けてシーカが補足する。
「展示品のすべてはここを運営しているギルド、"ゴールデンゴースト"のリーダー、"ノルディ・ウィリアム"が勇者ルクスとの冒険で収集したものらしい」
勇者との冒険……?
ていうことは、ノルディ・ウィリアムは
父ちゃんと同じ勇者パーティの1人だった、
てことか……?
だから、父ちゃんは俺にウィリアムを探せって……
「おい、マオ!聞いてるのか?
どうした?そんな怖い顔して」
「い、いやなんでもない
ちょっとその、"ノルディ・ウィリアム"って人が気になって……」
マオの言葉を聞いたシーカは目を見開き、
興奮気味で話し出す。
「マオもなかなか鋭いな……
そう、私も"ノルディ・ウィリアム"と"怪盗シャドウ"は同一人物ではないかと睨んでいる!
まだ、確証はないがな!」
「え、俺はそんな……」
「スゲェーな!マオ!!
俺、さっぱり分からなかったぜ!
……ん?でも、おかしくないか?
"ブリッシュミュージアム"てその、"ノルディ・ウィリアム"って人が集めたお宝を展示しているんだろ?
なんでそれを、また取り返すようなことをするんだ?」
「ふふん、さすが助手第2号カフラくん……
鋭い質問だ!
あくまで憶測だが、"シルバーストリート"とのギルド間の関係悪化ではないかと考えている」
「"シルバーストリート"……ってなに?ギルドの名前?」
新たに登場したギルド名に頭が混乱するマオ。
それを察したのかジョンソンが説明を始める。
「"シルバーストリート"は元々"アルビオン"を運営していたギルドの名前だよ。
リーダーが亡くなったのをきっかけにギルドは解散。
その後、"ゴールデンゴースト"に"アルビオン"の運営権が移って今に至る。」
「だったらなんで、今になって"シルバーストリート"が出てくるの?
もう、解散したんじゃ……?」
「"ブリッシュミュージアム"の館長は、
"シルバーストリート"の
リーダー"ロルド・ウィンソン"の
弟、"トスティ・ウィンソン"。
"ゴールデンゴースト"に"アルビオン"の運営権を取られたことを不満に思っており、
"シルバーストリート"の旗を掲げ"アルビオン"奪還を企んでいるらしい。」
カフラはジョンソンの説明を聞き、純粋な質問を投げかける。
「その"トスティ・ウィンソン"てやつは、
なんで"ゴールデンゴースト"に不満を持っているんだ?」
「それは、"シルバーストリート"の
リーダー"ロルド・ウィンソン"の
死が関係しているんだけど……
先生、大丈夫ですか……?」
ジョンソンはシーカの顔色を伺う。
シーカは、シャボン玉を吹かせ大きく深呼吸をする。
「ふぅー…………
それは、私から話そう……
まず、"シルバーストリート"の
リーダー"ロルド・ウィンソン"は私の父だ」
予想外の関係性に少し気まずい空気感が流れる。
ジョンソンが話を詰まらせた意味を理解した。
構わずシーカは続ける。
「"ロルド・ウィンソン"は不可解な死を遂げており、犯人は未だ捕まっていない。
つまり、未解決事件なのだ。
父を殺した犯人を捕まえることが、
名探偵である私の…………
いや、"シーカ・ホームズ"としての使命なのだ……!
"トスティ・ウィンソン"はその犯人を
"ゴールデンゴースト"の
リーダー"ノルディ・ウィリアム"
だと思い込んでいる」
「なるほど……
だから"トスティ・ウィンソン"は"アルビオン"を奪還しようとしているのか……」
「私自身、"ロルド・ウィンソン殺人事件"の犯人は"ノルディ・ウィリアム"では無いと考えている。
そもそも、この2人はライバル関係であったが、敵対関係には無かった。
推理に私情を挟むのは、探偵として最大の恥であることは分かっている。
それでも私は、ノルディがとても人殺しをするとは思えないのだ……」
"ノルディ・ウィンソン"……
あの、父ちゃんが信頼している人だから良い人であると信じたいけど……
シーカの表情は願望と事実との間で揺れ動いていた。
マオはシーカの表情を察し、声をかける。
「そうだ、シーカ!!
"怪盗シャドウ"に真相を聞いてみよう!
"怪盗シャドウ"と"ノルディ・ウィンソン"は同じ人物なんでしょ?」
「あくまで私の憶測だがな……」
マオがシーカを元気付ける姿を眺め、カフラも賛同する。
「俺は正直さっぱり分からんが名探偵が言うくらいなんだ!
その推理、きっと合ってると思うぜ?」
「マオ……カフラくん……
ありがとう……そうだな……
推理の基本はまず聞き込みであったな!
まずは"怪盗シャドウ"を捕まえて
"ロルド・ウィンソン殺人事件"の真相を
聞き出そうじゃないか!」
シーカの表情は少し和らいだ。
それを見たジョンソンは微笑み本題に移す。
「それでは、明日の作成会議をしましょうか!———」
———
作戦会議はスムーズに進み、気が付けば外は真っ暗になっていた。
カフラはそんな外の景色に気がつくと、何か思い出したかのように発声した。
「あっ!!やべぇ!
今日の泊まる宿、探してなかった!!」
それを聞きマオも他人事では無いことに気がつく。
「ほんとだ!俺も無いじゃん!
ていうか、そもそもポイント持ってないんだった!!」
マオとカフラの慌て様を眺め、シャボン玉を吹かし一服するシーカ。
それを見かねたジョンソンはマオとカフラに提案する。
「よろしければ、ここに泊まってはどうかな?
シーカ先生もいいですよね?」
「ま、まぁ良いが……」
「え、なんか嫌そう……」
「先生はお友達がいないからこういうの
恥ずかしいんですよね?」
「そ、そんなことない!!
ただ初めての経験で緊張しているだけだ……!」
「それって恥ずかしいってことじゃねぇーか?」
カフラは空気も読まずに正解を叩き出す。
マオは赤面するシーカに微笑みを浮かべる。
「それじゃあ、お世話になりますね!
名探偵シーカ!」
シーカは気持ちを隠すようにシャボン玉を吹かす。
シャボン玉はいつもの数倍は舞い、シーカの姿をも隠した。
———
「ぐがぁー!ぐがぁー!」
カフラのいびきが探偵事務所を揺らす。
先に眠りについてしまったカフラに、
ソファという寝床を奪われたマオは、
床を寝床にしていた。
ローテーブルの上には、鍋を囲んだ形跡が残っていた。
カフラのやつ、いびきうるさすぎるだろ……
隣だと寝れやしない……
マオはふと、シーカのデスクに目をやるとデスクチェアが後ろの窓を向いていることに気がついた。
窓から光が差し込み神々しささえ感じる。
シーカ、デスクチェアで寝ちゃったのかな?
マオは起き上がりシーカのデスクまで向かう。
デスクチェアに回り込むと夜空を眺めるシーカの姿があった。
その目からは涙が溢れていた。
「シーカ……?大丈夫……?」
「おぉ、マオではないか……?
どうしたんだ?」
シーカは見せまいと涙を拭う。
「カフラのいびきがうるさすぎてさ……
起きちゃった……!
シーカも起きちゃったの?」
「カフラのいびき……?
あぁ、確かにうるさいな……!!」
シーカはたった今気づいたかの様にカフラの方を見る。
シーカ、寝てないのかな……
マオはなんとなく感じた重い雰囲気を紛らわそうと話題を変える。
「今日の夜空は綺麗だね!!
満月まで出ているし……」
「満月の日は思い出してしまうんだ……
あの日のことを……」
「あの日……?」
「父が殺された日……」
シーカの目からは再び涙が溢れる。
頬をつたい顔からこぼれ落ちる。
今度のシーカは涙を隠そうとしなかった。
まるで、ありのままを受け入れてほしい、そう言っているかの様であった。
「シーカはお父さんのこと大好きなんだね!」
「あぁ、大好きだし人としても尊敬している……
血も繋がってないこの私を、実の娘として愛情をくれたのだから……」
「血が繋がってない……?」
「あぁ、話すと長くなるが聞いてくれるか……?」
シーカは静かに父"ロルド・ウィンソン"との思い出を語りだした。




