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勇者を殺してください。  作者: コウタロス
アルビオン編
10/30

第10話「シュレーディンガーの犬」

「お、おい……

君、大丈夫か……?」


ロルドが宝箱を開けるとそこには赤子の姿があった。

フサフサの毛に犬のような耳が生えている。


「獣人族……なのか?」


ロルドは羽織っていたインバネスコートを脱ぎ、獣人の赤子に包めながら抱き上げる。


「あいつ、とうとう赤子まで手をかけたのか……?」


ロルドは少しの怒りを抱え、集合場所へ向かった。

向かった先は"アルビオン"の中心地にある時計台。

この街の象徴と言ってもいい。

ロルドは時計台の中に入り頂上を目指した。


「はぁ……はぁ……はぁ……そろそろ、集合場所変えてほしいな……」


ロルドは螺旋状の階段を使い時計台を登る。

10分ほどかけてようやく頂上へ到着する。

到着すると、時計台の塀に腰掛ける男の姿があった。

黒のマントにフードを深く被っている。

フードの陰で素顔がよく見えない。


「おぉー!ロルド!

今回は早かったな!どうだ?分かったかな?」


「あぁ、"ブリッシュ・ミュージアム"の屋上だろ?」


ロルドはパンパンに膨らんだカバンから一枚のカードを取り出す。

そのカードにはこう記されていた。


———

"過去は下に眠り、現在は上に立つ


積み重ねられた時の上で、

人は空を見上げる。


貴様らが過去に囚われるなら、

我はその上で笑っていよう。"


ノルディ・ウィリアム

———


「"過去"は博物館、"現在"はお前が置いた宝……

"その上で笑っていよう"ということは地上より高い位置。

つまり、屋上……そうだろ?」


「はははっ!さすが名探偵ロルド・ウィンソン!

今回のお宝は"ブリガンテ"から掻っ攫ってきたんだ。

ここらじゃそこそこ有名なギルドだから、お宝もそこそこいいのが入っていたんじゃ……?

……って、なんだ?その赤ん坊。

おい、ロルドお前……俺より先に結婚……」


「そんなわけないだろ!

この子がお前が持ってきた"お宝"だ。

いつも言っているが、中身を確認してからだな……」


「いや、だってお前と一緒に見たいじゃん!

何が入ってるのか分からないワクワクを、

分けてあげてんだよ!」


「余計なお世話だ!

そもそも、私たちがこんなところで遊んでいるなんてことがバレたら……」


「遊びじゃねぇーよ!

これは真っ当なギルド同士の……」


「おぎやぁー!おぎゃあー!」


ロルドとノルディを仲裁するように赤子が泣き出す。


「こ、これはどうやったら泣き止むんだ!?」


ロルドは全く無縁だと思っていた存在に取り扱いが分からない。

ロルドは押し付けるようにノルディに赤子を渡す。


「お、俺も分かるわけないだろ!!

よしよーし、よしよーし……

これでいいのか……?」


ノルディは不器用にリズムをとり赤子をあやす。


「おぎゃぁー!おぎゃぁー!!」


赤子はさらに音量を上げて泣き出す。

ノルディは諦め、ロルドに送り返す。


「ど、どうすれば……いいのだ……」


「そうだ!

笑かしてやったらいいんじゃないか?」


「笑かす……?わ、私はそんな高度なこと……」


「適当でいいんだよ……ちょっと、動くなよ?」


「おい、ちょっと!!」


ノルディはロルドのパンパンに腫れたカバンの中を漁り出す。


「えーと、これじゃなくて……

あっ!あった!これこれ!」


ノルディが取り出したのはロルドの大きな虫眼鏡であった。


「おーい、行くぞぉ……」


ノルディは大きな虫眼鏡の屈折を使い顔の大きさを変える。


「きゃはっ!きゃははっ!!」


ノルディの虫眼鏡を使った変顔に赤子は笑顔になる。


「ほらな、笑かせばいいんだ!!」


「さ、さすがだなノルディ……

それはそうと、この赤子を元の親へ返しに行かないと!」


「また、あの危なっかしいギルドに行くのか?俺はやだね!

第一、そこにこの子の親がいるとは限らないだろ?」


「確かに……

"ブリガンテ"は世界中の街を襲っては金品を盗んでいる連中だからな……」


「きっと、この子の親はもう"ブリガンテ"に殺されてるじゃねぇーか?」


「……そうか、返し場所がわからないとなれば保護するしかないか……

ノルディ、お前……」


何かを察したようにノルディは首を大きく横に振る。


「俺が赤子の世話なんてやだね!!

そもそも、俺のギルド"ゴールデンゴースト"は街を持ってないんだ!

ギルド間での戦闘も多い……

それに比べてお前のギルド"シルバーストリート"は街を持っている。

お前が保護した方がこの子のためだろ?」


「確かに……

ノルディにしては筋が通った意見だ……

分かった……この子は私が保護しよう」


ロルドの選択に満足げに笑みを浮かべる。


「ふん!

結婚おめでとうな……ロルド!」


「私はまだしてない……行ってしまったか……」


ノルディは地面の影に入り込むようにして姿を消した。

ロルドは赤子を見つめ、頭を撫でる。


「おぎゃあー!おぎゃあ!!」


「あわわ!虫眼鏡!虫眼鏡!」


ロルドは赤子をあやしながら探偵事務所に戻った。


探偵事務所のドアを開けると手間にある革のソファへ赤子を下ろす。


「そう言えば名前は……

って赤子に分かるわけないな……」


ロルドは壁一面に広がる本棚から一冊の本を手に取る。

パラパラと本をめくる。


「よしっ、決めた!」


本を閉じ、革のソファの横で膝をつく。

顔の位置は赤子と同じ高さに合わせる。


「私の好きな伝説上の人物"シーカー・オール"。

そして、私が探偵として憧れた"シャーロット・ホームズ"から頂いて……

お前の名前は"シーカ・ホームズ"でどうかな?」


赤子はロルドのインバネスコートに包まれて大きな虫眼鏡を握りしめて眠っていた。

その様は、自身の名前を受け入れているかのようであった。


「気に入ってもらえて何よりだ……」


ロルドは持っていた本をデスクに置き、デスクチェアに腰掛ける。

デスクに置いた本は窓から差し込む夜空の光で照らされる。

本の表紙には、"カフラマン伝説"の文字が記されていた。

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