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第50話「魔法使い」

ボォォォン!!


「な、なんですか!?今の爆発!!」


 洞窟内を響かす爆発音。

 砂煙が視界を埋め尽くし、勇者の姿をもかき消す。


「じ、事件なのだ⁉︎」


「勇者が急に爆発したみたいやけど、どないしたんや?」


 スカバやスウォン、シーカは状況を把握できていないようだ。

 しかし、カフラは勇者が爆発するまでを持ち前の動体視力で視認していた。


「——ミーシャだ、ミーシャの攻撃だ……」


「ミーシャ⁉︎なんや、おらんなと思ってたらミーシャかいな‼︎」


 勇者の後方で動いた影。

 あれは紛れもなくミーシャであった。

 勇者に向かって円筒状に変形した腕をかざしていた。

 そして、そこから燃える物体が勇者に向かって発射され爆発した。


 マオもそうだがミーシャも勇者を見るや否や、襲いかかった。——この2人、一体何が目的なんだ……


「はっはっは‼︎

だから、効かねぇーて言ってんだろ‼︎」


 砂煙の中から勇者の聴き心地の悪い声が聞こえてくる。どうやら、軽口を叩けるくらい余裕で無事のようだ。


バババババ‼︎


ドンッドンッ‼︎


 続けて連発する破裂音。

 そして、鳴り響く爆発音が鼓膜を突き刺すように聞こえる。

 砂煙が収まる気配はなく、勇者やミーシャの姿が見えないが、とんでもない戦闘を繰り広げているのは分かった。

 

「ゴホッ、ゴホッ‼︎

おいおい、全然見えねぇーじゃねぇーか!!

おい、お前!なんとかしろよ‼︎」


「はい……

【蒼穹を裂きし風よ、我が呼び声に応え、万象を穿て――『テンペスト』】……」


 煙の中から聞こえる詠唱と共に、危うく身体が持っていかれそうになるほどの暴風が吹き荒れる。そんな暴風によってたちまち砂煙は連れ去られ、次第に勇者と少女の姿が露わになる。


「な、なんなのだ!!うわぁぁ」


 暴風に耐えかねて、シーカの身体が宙に浮く。

 「やばい。」という焦りと同時に、手はシーカをがっしりと掴んでいた。

 長年の鍛冶で鍛え上げられた握力は伊達ではない。

 

 とうとう、暴風は収まり視界がクリアになる。

 勇者を中心に砂という砂が吹き飛び、舞う砂すら無くなっていた。


「カフラくん、ありがとうなのだ」


「あぁ、それにしてもなんなんだ今の?」


「とてつもない『魔力臭』だったのだ……」


 シーカは鼻を手でグッと抑えている。

 よほど臭かったのか、顔はグシャっと歪んでいた。


「なんや、その『魔力臭』って?」


「私は生まれつき魔力の匂いを感じやすい種族なのだ!」


「なるほどな、あんた獣人族やもんな。

魔力の匂いを感じるって、おもろい鼻してんなホンマに」


「つまり、ものすごい魔力量ってことですか?

だとしたら、さすが魔王を倒した勇者ですね……」


 スカバの発言にカフラは自身が聴き取った声から疑問が生まれる。


 ——あの暴風は、本当に勇者が生み出したものなのか。


 というのも、カフラが聴き取った声は、か細く小さな少女の声。

 とても吐き気すら覚える勇者の声には、感じられなかったのだ。

 仮に、少女だとしてもあんな小さな身体でとてつもない魔法を使えるとは思えない。


 ——年齢はマオくらいか?いや、だとしたらありえるのでは——


「おい!あの澄まし顔どこ行きやがった⁉︎

逃げんなら俺の経験値になってくれよ‼︎」


 勇者は大声で辺りを見渡し、『澄まし顔』を探している。

 『澄まし顔』は間違いなくミーシャのことだろう。

 こんな殺風景な洞窟で隠れる場所なんて——「いや、あるな。」とカフラの視線は粉々に爆散したドラゴンのまだカタチを残している頭部に向いていた。


 生まれつき動体視力のいいカフラには、見える。

 ドラゴンの口の隙間から伸びる黒くて細い円筒状の物体。その物体は、勇者に向いている。


「おいおい‼︎ふざけん——」


パシュン……!


 軽い爆発音が洞窟内を駆け巡る。

 その音は間違いなく、ミーシャがいるであろうドラゴンの頭部からしていた。

 音と同時に勇者は首を横に傾けている。


「なんや?今の音は‼︎」


 スウォンのみならず、シーカやスカバも音の正体が分からない様子であった。


 しかし、カフラはしっかりと視認していた。黒くて細い円筒状の物体の先が爆発したように光り、指一本サイズの『小さな物体』が高速で勇者の頭部へ向かったことを。

 そして、何よりも驚いたのが高速で迫る『小さな物体』を勇者が必要最低限の動きでいとも簡単に躱したことだ。


「はっはっは!まぁまぁやるじゃねぇーか!

おい!お前、あそこ(・・・)だ……」


「はい……」


 勇者は、ミーシャが隠れているであろうドラゴンの頭部を指差す。

 その指示通りに、隣の少女が腕を向ける。


「【地獄の底にて燃え盛る終焉の焔よ、我が血を糧に顕現し、——」


 詠唱を始めると次第に、少女の掲げる手に魔法陣のようなものが形成される。

 詠唱と魔法陣それだけでカフラは理解した。

 この少女があの暴風を巻き起こした正体。

 つまり、魔法使い。


「——すべてを灰燼と帰せ――『インフェルノ』】」


ブゥワァァァァァァ……


 詠唱完了と同時に、ドラゴンの頭が大きな火柱を立てて燃え上がる。

 その中にはミーシャがいるはず。

 肌を焦がすような熱風が少し離れた場所で眺めているカフラにまで届く。

 直撃すれば骨すら残らないだろう。

 果たしてミーシャは、無事なのか……

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