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第42話「アイドル」

「まじで……?」


 自身の拳を凝視するマオ。

 突如湧き出た馬鹿力に頭が混乱する。


 スウォンのスキルはおそらくバフ系。

 あの、歌が耳に入ると格段に身体の状態が良くなった気がした。


「おーーい!マオくんやっけ?

あんたやるやん!!」


 あの、歌声からは想像できないコテコテの関西弁。

 

「もう一発かましたれ!」


 さらに、汚い言葉遣い。

 とても、スキル名には相応しくないキャラクターだ。


 目の前には尻尾を吹き飛ばされたことにより、体制を崩し怯んでいるドラゴン。

 スウォンのいう通りもう一発かますには、絶好のチャンスだ。


「——さぁ、共に行こうよ、空の向こう側。

自由と呼ばれる楽園へ。」

 

 再び、聞こえる歌姫の声。

 不思議となんでも出来る気がする。

 マオは、再度拳を握りしめドラゴン目掛け走り出す。


 スウォンのバフが掛かっているマオには、もはやドラゴンの硬質な肌は意味をなさない。

 しかし、狙うは顔面。


 なんか、1番効きそうだから。


 マオは拳を大きく引きながら、地面を蹴り飛ばす。

 人蹴りでドラゴンの顔面が目の前に迫る。


「いっけぇぇぇー!!」


 大きく溜めていた拳は、遂にドラゴンの顔面目掛け放たれた。


「グルゥウアアアア!!!」


 ドラゴンの顔面は吹き飛び、巨大な身体が大きな地鳴りと共に地面へと倒れ込む。


「すげぇぇぇぇーーぞ!!マオ!!」

 

 カフラの歓喜の声をあげながら駆け寄る。

 マオは照れを隠すためのドヤ顔とグッジョブで答える。

 

「スウォンのおかげだよ!」


 少しの謙遜は入れておこう。


「ええんや、ウチの歌声は世界一やからな!

さてと……ウチは、あのドラゴンの話つけなあかんのや」


 スウォンは、ゆっくりとドラゴンに歩み寄る。

 目の前に到着すると堂々とした佇まいで、こう放った。


「観念したか?ドラゴン!

契約書を書いてもらうだけでええんや?

なんも難しいことあらへん」


 ドラゴンに契約書は豚の耳に念仏ほどに無理がある。

 しかし、無理に追い払わずに一旦話し合いの猶予を設けるのは、スウォンなりの優しさなのだろう。


「おーい、聞いとんか?

なんや、マオ。

あんたやりすぎたんちゃうか?」


 と、振り返るスウォン。


「ま、まぁ思いっきり殴ったけど……って……」


 スウォンの後ろからゆっくりと起き上がる影。


「なんや?変な顔して。

ウチの顔になんか付いとんか?」


「スウォン……後ろ……」


 マオはスウォンの背後の影を指差す。

 

「なんや?ちょっと熱いけど……

うわぁぁぁぁ!!」


 目の前には起き上がったドラゴン。

 そして、その身体は灼熱に燃え上がっている。

 第二形態ってやつか……?


「グルゥウアアアア!!」


 復活の咆哮をかますとドラゴンは首を大きく引く。

 そのポーズは見慣れた灼熱ブレス……のはずだが何か違う。

 口からはドロドロとした液体が垂れ落ちおり、落下地点の地面から湯気が出る。

 

 地面が溶けている。


 マグマか……?

 だとしたら、やばいんじゃ——


「スウォン!危ない!離——」


ブウォッ!!!

 

 マオの忠告も虚しく、ドラゴンから放たれたマグマの塊。

 スウォン目掛け一直線に駆け抜ける。


 地面を簡単に溶かすほどの高温。

 当たれば骨すらも残らないだろう。


「スウォン!!」


「あっつ!!なんや!急に!」


 スウォンの声。

 その五月蠅さが生存確認となる。

 

「ナイスっ!カフラ!」


 スウォンを救ったのはカフラ。

 咄嗟の出来事に不本意にスウォンを抱きしめている。


「それより!やばいんじゃねぇーか!?あれ!」


 安堵も束の間、スウォンに命中しなかったマグマの塊は、目的を探しながら一直線に進む。

 その先には、カフラがスキルで作り出した壁。


「やばい!!」

 

 壁の裏には、クールダウン中のミーシャと介抱するスカバ。

 一滴一滴が、地面を溶かすほどの灼熱。

 その塊が、命中したとなれば2人に危害が及ぶのは間違いない。


 マオは、地面を強く蹴り飛ばす。


 どうする?

 どうやって、あのマグマの塊を防ぐ?


 そんな考えは踏みだしてから思い浮かんだ。

 「身体が勝手に動いた」とはこのことだろう。


「うわわわ!!やばいですぅーー!!」


 壁からひょっこりと顔を出すスカバ。

 マグマの塊が迫っていることをたった今知ったようだ。

 

 スカバとミーシャがいる壁の前へ到着するマオ。

 マグマの塊はもう目の前。

 

 どうする?どうする!?

 殴り飛ばすか?

 いや、マグマの塊なんだ、殴ったとしても腕から溶けてしまいだ。

 くそっ!無策で飛び出してしまった!


 どうする、これやばいんじゃ……。


「マオさん!!」


 スカバの叫び声。

 それもそのはず、無策で飛び込んだマオは身を挺してマグマを全身に浴びることしかできなかった。

 

 ——熱い熱い熱い痛い痛い痛い

 

 全身を駆け巡る熱さは次第に痛みを伴う。

 空気に触れる肌がとてつもなく痛い。

 焼死が死因の中で最も苦しいらしいが、どうやら本当のようだ。

 

 身体が慣れてきたのかプツンッと神経が切れたように痛みが無くなる。

 

 え、俺死んだ……?

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