第25話「ロルド殺害事件の真相」
「おぉ、ノルディじゃねぇーか!!
それと……あんたは誰だ?」
「"シルバーストリート"ギルド長の"ロルド・ウィンソン"だ!
そして、お前が手にかけた、そこの少女の父親だ!」
ロルドは倒れ込むシーカを指差す。
勇者ルクスに向ける眼差しは鋭く、怒りを孕んでいた。
ノルディもシーカを見つけると表情を一変する。
「おい、バカ勇者……
ここまで落ちぶれたとはな……。
シーカに何しやがった!!」
「おいおい、勘違いしてるみたいだが俺はただ眠らせただけだぜ?
こんなチビを殺しても、経験値にならねぇしよ!」
「経験値、経験値……
もう、聞き飽きたぜ!」
呆れたノルディ。
しかし、至って真面目な勇者。
名探偵ロルドはある矛盾点を指摘する。
「では、なぜ5人をも女性を殺害したのだ?
全てが自身より、か弱い女性……
魔法石だけが目当てならば殺す必要はなかっただろ!」
「あぁ?
それは、この剣の性能を試すために決まってるだろ?」
勇者ルクスは腰に携えた鞘から剣を引き抜く。
到底、勇者には似合わない悍ましい刀身。
目に見えるほどの禍々しいオーラを感じる。
「お、おい!それって……」
ノルディは明らかに身に覚えのある反応。
それはまるで、禁忌を犯した相手に向ける形相であった。
「あぁ、魔王の剣だ!!
この切り心地、爽快感がたまらないんだ……!」
「お前……
勇者の剣はどうした!?」
「あれはどっかに捨てたさ!
あんなのただの脳筋アイテムだぜ?」
ノルディは拳を握り締める。
その手は震えている。
表情は見えずとも怒りの感情は前面に出ていた。
しかし、それに勝るほどの怒りを隣から感じる。
「ここ"アルビオン"は、我がギルド"シルバーストリート"が0から建設した街。
"アルビオン"の民は皆、"シルバーストリート"の一員だ。
……ギルドの仲間が殺されたんだ。
勇者ルクス……ギルド長としてお前を許すわけにはいかない!」
「はっはっはっ!
お前に何ができるんだ?
俺を捕らえる?俺を殺す?
笑わせんな!俺は"最強"の勇者ルクスだぞ?」
勇者は腹を抱え嘲笑う。
自身の異名"最強"を余程、信頼しているのだろう。
「なんでも来い」なその態度はむしろ、寂しさを感じた。
ロルドの表情は変わらない。
何か対抗する術を持ち合わせているようだ。
「私は"業鏡"のロルド。
たとえ、"最強"だとしても私がいる限り犯した罪は消えない!」
その言葉と共に勇者ルクスは俯き、腕はダラんと垂れ下がる。
その様はまるで動かなくなった人形のようであった。
続けて、ロルドは告げる。
「あなたは5度も尊い命を奪った。
勇者ルクス……死んで償え……!」
動かなくなった勇者ルクス。
しかし、本人から見た世界はまた違っていた。
「なんだ?ここ」
辺りを見渡す勇者。
視界はついさっきまでいた時計台から真っ暗な世界へと変貌する。
辺りには何もなく先も見えない。
突如、後方から衝撃を感じる。
腹部から突き出る刃。
「く、くそ!なんなんだ!」
振り返るとそこには女性の姿。
「誰だ!お前!!」
身に覚えのない女性。
それもそのはず勇者ルクスは最強が故、手応えのない相手は記憶に残らない。
剣を引き抜かれる。
傷口は熱く、大量の血が流れ出る。
次第に感じる寒気。
「……っ!……」
再度、背中に激痛が走る。
今度は切られた感覚。
振り返るとまた、別の女性。
次第に理解する。
「クソモブが……なんで!!」
そう、勇者ルクスが引き起こした"連続女性殺人事件"の被害者女性たちである。
ロルドの異名"業鏡"は、対象の犯した罪を再現する。
いわば、幻ではあるが痛覚や精神的ダメージは本物。
スキルや異名の使用は不可能のため、罪を犯した者には必中の異名。
「出たぜ……"業鏡"のロルド……
5回も殺されたら気が狂っちまうぜ」
「罪は必ず返ってくるんだ。
私がいる限りな……」
ロルドはぐっすりと眠ったシーカを抱き抱える。
「シーカ!起きろっ!シーカ!」
ピクリとも動かないその様は、まさに死んだように眠っている。
ノルディは勇者に歩み寄る。
「罪を償ってる間にコイツは返してもらうぜ?
俺のモノだからな!」
勇者の持つ魔法石に手をやる。
その瞬間、勇者の手は強く握られた。
起こり得ない状況から咄嗟に距離を取るノルディ。
勇者はニヤリと笑みを浮かべる。
「おいおい、ノルディ……
相変わらず出癖が悪いぞ?
これは俺のモノだ!!」
「お、おい……まじかよ……」
ハラルも自身の異名からの生還者に驚愕する。
「5人も殺害したんだぞ……。
ど、どうやって抜け出した……?」
「俺は"最強"の勇者ルクスだからな!
罪は償ったぜ!こんな感じでなっ!」
ロルドの瞬き1つで勇者の姿が消える。
後方からの衝撃。
腹部からは突き出る刃。
頭の後ろから勇者の声が聞こえる。
「久しぶりに効いたぜ……
鬱陶しいモブは殺しておかないとなっ!」
ノルディですら読みきれない速さ。
あまりの速さに痛みが追いつかない。
剣を引き抜くと大量の血が地面に滴り落ちる。
ようやく状況を理解したのかノルディが動く。
「くそっ!!
【ファントムスタースキルHeist.1:|影に堕ちて、すべてを穿つ《ダークシェイド》】!!」
スキル詠唱後、影で短剣を生成する。
最短距離で勇者に攻撃。
「【|触れんとする刃、すでに空を斬る《オートドッジ》】……」
勇者のスキルにより、不発。
「少しは強くなったようだが、まだ足りないなノルディ……
俺には時間がないんだ!もっと強くなってからまた会おう!
【ドミネーション・ワープ】!!」
「くそっ!逃げんじゃねぇぇ!バカ勇者!」
魔法詠唱により勇者の姿は消える。
何事もなかったかのように静まる現場。
膝から崩れ落ちるロルド。
すかさず駆け寄るノルディ。
「お、おい!ロルド!
しっかりしろ!ロルド!!」
「犯人に殺される……探偵なんて……傑作だな、ノルディ……!」
「何バカなこと言ってんだよ!
しっかりしろよ!ロルド!」
「俺は……もう……助からない……
一つだけ……いいか……」
「諦めんじゃねぇーよ!なぁ!おい!」
「この街を……それと……シーカを……頼んだ……」
「二つじゃねぇーか!まだ余裕あんだろ?
なぁ!ロルド!!」
ロルドの体重を強く感じる。
身体は脱力している。
それが死を意味していることはノルディにも分かった。
親友の死、受け入れ難い現実に奇跡を望むしかできなかった。
「おい!ロルド!
しっかりしろよ!ロルド・ウィンソン!!」
「あれ…私…眠って…」
シーカがゆっくりと起き上がる。
「ロルド…」
シーカは目に見えている現実を処理する。
様々な遺体を見てきた探偵。
ロルドの死は容易く把握できた。
「ロルド!起きろって!なぁ…!こんなんで死ぬ男じゃねぇーだろ…」
身体を揺さぶるノルディ。
まだ、蘇生の奇跡を願っていた。
後方から声が聞こえる。
「はぁ…はぁ、おい、これって…」
そこにはトスティの姿。
その手には"ノルディの挑戦状"を持っている。
「おい…、"ノルディ・ウィリアム"…
おまえこれが狙いで…」
あまりの不運な偶然により冤罪が決まってしまう。
「違う!俺はロルドと一緒に…」
「だから、この挑戦状を渡したんだろ!
兄貴をここに誘い出すために!!」
トスティは怒りで挑戦状をクシャクシャに握り潰す。
雰囲気から分かる誤解。
「ち、違う!俺は、俺じゃなくて…!!」
「お前以外に誰がいるんだ!!」
犯人はもういない、整理のつかない現場。
アリバイも証言者もいない。
「くそっ…!」
ノルディは時計台の塀を登り時計台から飛び降りる。
「俺は影だ……
ロルド……お前の約束は必ず守る……!」
名探偵という光を失った影は新たな光のために生きることを決意した。




