第23話「雷神vsファントム」
「な、なんなんだ!これは!?」
ノルディから放たれた黒い物体は高速でハラルに突進する。
轢かれたと言う表現が近い衝撃音。
とうとう、家屋の壁にぶつかる。
「ピアノ……!?」
ノルディから放たれた黒い物体の正体はピアノ。
目を見開き驚愕するシーカ。
その表情は登場したピアノの場違い感ではなく、身に覚えのある姿形からであった。
「ガハッ……ガハッ……!!」
ノルディは大きく咳き込む。
ハラルによってもたらされていた首への圧力は解除され、まともに空気を取り込むことができたのだ。
駆け寄るシーカ。
「ノルディ……大丈夫か……?」
「あぁ……こんくらいなんとも無いぜ……
名探偵がいる限り俺は死なねぇよ……」
「やっぱりあの、ピアノって……」
シーカの言葉を遮るように聞こえるハラルの声。
「はは!そうでなくてはな!
"ノルディ・ウォリアム"!!
それでこそ、本物の戦士だ!」
ハラルは腕を振り下ろすと豪快な音が響き渡る。
へしゃげたピアノ。
ハラルの異名"|Last Viking"により800人分のステータスが上乗せされた一撃は金属の塊をも簡単に破壊する。
「こんなに、心踊る戦闘は初めてだ……
"ヴァルハラブレイド"の戦士として最強の一撃でお前を屠ることを誓おう!」
頭上の雲はハラルを中心に渦巻き始めた。
空気中がビリビリと電気を帯びる。
「な、なんなのだ!?」
逆立つ毛、ビリッと感じる空気。
風が吹き荒れ、雨は強く降り注ぐ。
明らかに異様な雰囲気にシーカの本能は危険信号を出したのだ。
様々な死闘を経験した元勇者パーティ、ノルディ。
危険信号という曖昧なものではなく、さらに詳細な戦況を把握する。
「これはやばいかもな……
【ファントムスタースキルHeist.1:|影に堕ちて、すべてを穿つ《ダークシェイド》】……」
最大の一撃が来ると読んだノルディは、影で身体を覆った。
ハラルから逃げるように伸びる影。
家屋、さらには小石まで。
そこら中の影を集められるだけ集める。
「【ヴァイキングスキルSaga.2:|雷神の怒り、その身に宿す《トール・ボルト》】!!」
とうとうスキルを詠唱したハラル。
黒い雲は渦を巻いている。
ハラルを引き立てるかのように動く天候。
シーカはある異常な現象を目の当たりにする。
「雷が……集まっている……」
まるで、ハラルが避雷針かのように群がる雷。
雷を手懐けるその様は、雷神と呼ぶに相応しかった。
「時は満ちた……
楽しかったぞ……"ノルディ・ウィリアム"!!」
ハラルはニヤリと笑い、空に手をかざす。
渦巻いていた雲の中心が光り輝く。
そこから、まるで巨大なレーザービームのような雷がハラルに落雷する。
「これは、想像以上だな……
おい!シーカ!!」
ノルディはシーカの襟元を掴む。
小さな獣人は思ったよりも軽い。
身体は宙を浮いた。
「お、おい!何するのだノルディ!!」
「なるべく遠くまで避難しろ!!」
ノルディはシーカを投げ飛ばす。
ハラルから遠ざけるように。
どんどん、ノルディが小さく見える。
視界の建物は前へ前へと通り過ぎる。
ふと後ろを振り返ると、家屋の壁。
「や、やばい!ぶつかる!」
咄嗟に頭を守るシーカ。
背中に当たった壁の感触は予想外に柔らかい。
どこか冷たく、その奥に深い優しさを感じた。
スキル"|影に堕ちて、すべてを穿つ《ダークシェイド》"はありとあらゆる影の操作が可能。
シーカの着陸位置を予測し事前に影のクッションを生成することは朝飯前。
「よし、シーカの避難成功っと……
そんじゃあ、久しぶりに賭けてみようか。
俺の足に……」
ノルディは準備運動を始める。
最高速度でハラルを仕留めるためだ。
失敗すれば死。
しかし、恐怖は感じない。
失敗という言葉の経験が少ないからだ。
軽くほぐし終わると地面を蹴り飛ばす。
手には影で生成した短剣。
高速で後ろに流れる景色、顔面にぶつかる風。
それを感じる頃には、目の前にはハラルの姿。
短剣が胸元に迫る。
その角度は、確かな心臓の位置に向いていた。
「……チッ……!まじかよ……!!」
ノルディが影で生成した短剣はハラルに近づくや否や逃げるように剣先から消えていく。
光は影をも喰らう。
そして、雷には光が伴う。
雷神と化したハラルの前では無惨にも影は存在でき得なかったのだ。
ハラルがニヤリと笑う。
「雷神とファントム、どうやら神は私に味方したようだ!
さらばだ、All Taker!!
雷撃放出!!」
———ビシャャャャン!!!
ハラルが叫ぶと爆発したように放出される雷撃。
"雷撃放出"は"|雷神の怒り、その身に宿す《トール・ボルト》"使用時に発動可能なハラルのスキル。
雷を身体に帯電させ一気に放出。
その威力はMPに依存する。
800人のステータスが上乗せされているハラルから放たれた一撃は地面を抉り、家屋は破滅。
アルビオンを半壊させうる威力を誇っていた。
投げ飛ばされたシーカは遠目にその状況を確認する。
ふと、ある人物の安否が気になる。
「トスティさん!!」
物陰に隠れているトスティ。
そこは、電撃範囲内であった。
ハラルの一撃はただの電気ではなく、何もかもを消し去るレーザービームと化している。
物陰などあってないようなものだ。
「や、やばいやばい!うわぁぁぁ!!」
トスティに迫る雷撃。
地面は抉れ、目の前の家屋が倒壊していく様が見える。
少しでも触れればたちまち灰と化すだろう。
しかし、対抗手段を持ち合わせていないトスティは何もできない。
視界は真っ白なフラッシュに包まれた。
「……!?……」
死んだと思われた身体は未だ健在。
理由は前方の黒い影。
手を広げ、雷撃を受け止めている。
とっくに影の鎧は崩れ落ちていた。
周囲の影を集めに集め、消え去ったそばから足していく。
それは、自衛というよりトスティを庇っているようであった。
おかげでトスティは無傷。
雷撃は次第に収束し消滅した。
辺りはまだ、バリバリと電気が残っている。
バタンッと地面に崩れ落ちる影。
影の正体は当然、ノルディであった。




