第20話「アルビオン防衛隊と非戦闘員」
———アルビオン防衛チーム
「な、なんだこいつ!?…………グフッ!!」
アルビオン中を駆ける黒い影。
影が通り過ぎるとバタバタと人が倒れる。
攻撃は素人目には全く追えない。
「すごいな……
ノルディさん……俺たちいらなかったかも……」
影の正体はノルディ。
アルビオンを脅かす"ヴァルハラブレイド"の戦闘員を次々と倒していく。
「きゃああぁ!!助けてぇー!!」
「悲鳴……!どこだ?」
視界の先には、子供に覆い被さる母親の姿。
そして、今まさに斬りかかろうとするヴァイキング。
マオとカフラは救出しようと駆け出す。
くそっ!
なんで力が出ないんだ!?
俺のステータスは状況で変化するんじゃないのか?
ソイルが刺され、勇者に飛びかかった時のことを考察する。
あれ以来、あの身体の感覚の実感はない。
高速で横を通り過ぎる影。
「死ねぇー!!」
剣を振り下ろすヴァイキング。
しかし、その刃は母親に触れることはなかった。
母親は中々痛みが伴わない状況に、ふと振り返る。
そこにはノルディの姿。
「あ、ありがとうございます……!」
「わぁ!怪盗シャドウだ!!」
感謝の礼をする母親にキラキラな眼差しの子供。
「お怪我はないかな?」
紳士的に親子に手を差し伸べる。
そこにやっと追いついたマオとカフラ。
「ノルディさん速すぎだよ!」
「絶対間に合わないと思ったぜ!
それで、どこに行ったんださっきの奴は?」
「あぁ、あそこだ」
ノルディが示したのは、20mほど先の家屋であった。
壁に、もたれかかり動かないヴァイキングの姿。
「あれは死んだな……」
「あぁ、死んだ……」
あまりにも無惨な散り際に、マオとカフラは顔を合わせ同情する。
構わずノルディはしゃがみ込み、子供の目線に合わせる。
「今、この街を"ヴァルハラブレイド"と言う悪党が荒らしまわっている。
ここは危険だからあの時計台まで避難するんだ!いいか?」
「この街はどうなっちゃうの?僕の家は?」
「大丈夫!ここは私の街だ!
お宝を盗まれる怪盗なんて見たことあるか?」
「ない……
絶対守ってね!約束だよ!」
「あぁ、約束する!
君も自分のお宝を守るんだぞ!」
子供は自身のお宝を強く握る。
「分かった、怪盗シャドウ!
ママ!時計台に急ぐよ!!」
「ちょっ、ちょっと……
助けていただきありがとうございました!」
子供は母親を引っ張り誘導する。
お宝を守るように。
ヴァイキングの侵攻から約30分。
4人のノルディの影による迅速な対応で、過半数の民間人が時計台へ避難成功。
怒涛の避難誘導にカフラはふと思い出す。
「あれ、一人足らないよな!」
「本当だ、シーカは?一緒じゃなかったけ?」
「シーカなら俺のオリジナルの近くの物陰に、身を潜めているようだな……」
「ビビって隠れてるのか?」
「まぁ、無理ないもないよ……
シーカは戦闘が得意ではないからね……」
突如、街灯の灯りがやけに明るく感じる。
満月の明かりが薄暗い雲によって隠されたのだ。
気分が変わったのか涙を流す。
「冷たっ!?あ、雨?」
次第に大粒の涙へと変わる。
「アルビオンはよく雨が降るんだ。
これくらい普通のことさ」
「だけど、なんか変じゃないか?
あそこから雲が出ているみたいな……」
カフラは雲の発生地点と見られる空を指差す。
———ビシャン!!
指を差したところに巨大な雷が落雷する。
一瞬、アルビオンは朝の明るさに切り替わった。
自然現象ではありえない光景である。
「あそこって……」
「あぁ、オリジナルがいる場所だ……」
———
「やばい!やばい!
アルビオンが!!話と違うじゃないか!」
必死の形相で頭を守り、避難場所を探しているのはトスティ・ウィンソン。
"ヴァルハラブレイド"をこの街に放った張本人ではあるが、どこか計画と違う様子。
ノルディとハラルの戦況を確認するのが1番の安全と考えたトスティは戦況を遠くから視認できる家屋の物陰に身を隠す。
しかし、同じ思考回路の者がもう1人。
「ト、トスティさん!」
「シ、シーカちゃん!どうしてここに!?」
「トスティさんこそ、あのハラルとか言う巨漢の味方じゃないのか?」
「いや、それが……
私は"ヴァルハラブレイド"を利用して"ノルディ・ウィリアム"の殺害をお願いしたんだけど……」
「逆に利用されてしまったと言うわけか……」
俯くトスティ。
トスティはノルディに憎悪を抱いている。
それは、証拠もない行き場を失った兄"ロルド"の死の謎をなすりつけているようであった。
「トスティさん……
本当にロルドを殺害したのは、ノルディだと思うのか?」
「だ、だってあの場にはロルド以外に、シーカちゃんとノルディしか……」
「私にもアリバイはない。
だから、ふと感じてしまうのだ……
私がロルド殺害の犯人なのかもしれないと」
「シーカちゃん……」
「私は獣人族。
人間族のみんなとは違うのだ。」
「でも、シーカちゃんは……兄貴の……」
「"ウェアウルフ物語"て知ってるか?
主人公は満月の夜になると凶暴なウルフに変身し、親を殺してしまう……
私は、事件発生時、意識を失っていた。
その物語が獣人族の話ならば私は……」
———ビシャン!!!!
一瞬、視界の全てが白く塗り潰される。
音の発生場所に目を向けるとそこには、雷を纏ったハラルの姿。
バリバリと電気が地面を伝う。
雷のように発光する様は、畏怖と共に神々しさを纏っていた。
ハラルは斧を大きく振りかぶり、ノルディ目掛け投げつける。
迫り来る斧は高速で回転している。
当たれば身体は真っ二つになるだろう。
ノルディは慌てて上体を大きく逸らす。
上体と地面が平行になるほどに。
あまりにも速いスピードからか、上体を動かす時間しか猶予がなかった。
「あっぶね!」
高速で回転する斧はノルディの鼻先スレスレを通り過ぎる。
しかし、髪先まで、躱し切る余裕は無かった。
安堵は束の間。
次の攻撃が迫っていた。
ノルディを殴り下すかのように構えるハラル。
そのスピードは雷そのものであった。
「やべぇ!!」
ノルディは咄嗟に影を手に集める。
受け切る体制だ。
しかし、相手は雷。
雷から発せられる光は影をも消し去る。
「まずい!影が……!」
手に集めた影の盾は、
無惨にも消え去ってしまった。




