第12話「3つの顔」
「ここが"ブリッシュミュージアム"か……!」
「うわぁー!でっけぇー!!この中にお宝がいっぱい詰まってるのか!!」
マオとカフラは目の前に広がる巨大な建物に視界を占領される。
「ふん!ここが今日の戦場だな!」
「そうですね、先生!」
シーカはパイプを咥えシャボン玉を吹かす。
ジョンソンは武者震いからか笑みをこぼす。
「皆、作戦は覚えてるな?」
「あぁ!バッチリだぜ!」
「さすが、私の助手第2号、カフラくん!
自信満々だな!それでは行くぞ!」
マオたちは怪盗シャドウとの決戦場、"ブリッシュミュージアム"の中へと向かう。
入り口に入るとさっそく警備員に阻まれた。
「入場券はお持ちですか?」
身に覚えのないモノを一応探してみるカフラ。
「いや、持ってるわけないだろ!」
そんな、カフラにツッコミを入れるマオ。
しかし、シーカはやけに堂々としていた。
「ふん!私に任せなさい!」
シーカは警備員の前まで近づく。
警備員は見下げるようにシーカを見ている。
「私は"シルバーストリート"のリーダー、"ロルド・ウィンソン"の探偵助手をしていた"シーカ・ホームズ"!!」
「は、はぁ、それがどうかしたのか?」
「よし、皆のもの行くぞ!」
シーカは、さも当然のように警備員を抜けようとするが再度阻まれてしまう。
「な、なぜだ!
私は"シーカ・ホームズ"なのだぞ!」
「だから、入場券がないと通れないんだよ!」
シーカは警備員に阻まれ尻餅をつく。
すかさずジョンソンが駆け寄る。
「大丈夫ですか?先生!」
「く、くそ!これは予想外だ!」
「あれ、あれれ!シーカちゃん!」
警備員の奥から声が聞こえる。
徐々に足音は近づき爆発した頭の中肉中背の男の姿が見えた。
「トスティさん……」
声の正体はトスティであった。
この人がトスティ……
確か、シーカの父"ロルド・ウィンソン"の弟さんだったよな……
トスティは一度ジョンソンを睨みつけると我に返ったように笑顔を作る。
「久しぶりだね!シーカちゃん……
お隣の方は新しい探偵助手さんかな?」
ジョンソンはゆっくり立ち上がり、帽子を脱ぐ。
帽子を胸元に置き、紳士に礼をする。
「ご紹介が遅れました。
私は名探偵シーカ先生の助手、"ジョンソン・ジェームズ"でございます」
「丁寧なご紹介ありがとう。
私の名前は"トスティ・ウィンソン"。
まぁ、すでにご存知だとは思うがね……」
「はい、シーカ先生より伺っております。
ここ、"ブリッシュミュージアム"の館長様ですよね」
「チッ……!まぁ、いいか……」
トスティの視線は鋭く、ジョンソンを睨んでいた。
どうしたんだ?この2人。
この感じ、仲が悪い……だけじゃなさそうだな。
続けてマオとカフラに視線を向ける。
その目は初対面にしてはやけに警戒しているように鋭かった。
「あなたたちは?
初めてみる顔だけど……」
「俺はカフラ!"カフラ・デミル"だ!
よろしくな!」
警戒心を解く気もないカフラ。
カフラの純粋さが効いたのか、トスティの表情は少し和らぐ。
「僕はマオ・ノクス……
よろしくお願いします!」
「カフラさんとマオさんですね!
よろしくね!
ところで、シーカちゃんとはどう言う関係で?」
トスティの問いに自信満々にシーカが答える。
「新しく私の助手になった、カフラくん!
そして、"怪盗シャドウ"の捜査に協力してくれる私のと、友達……のマオだ!」
友達という言葉が恥ずかしいのかシーカの耳が少し赤くなる。
「怪盗シャドウ……?
また、あのコソ泥からの予告状が来たのかい?」
シーカはジョンソンの前に手を差し出す。
その意図を読み取り、ジョンソンはカバンから予告状を取り出しシーカに手渡す。
「あぁ、これがその予告状だ……」
シーカはトスティに予告状の内容を見せる。
「"明日の夜。
すべての灯りが油断へと変わるその刻、
我は忍び寄る。
薔薇の名を冠するその石、"ローズジェムを。
怪盗シャドウ"……
なるほど……次の狙いは"ローズジェム"か……」
「夜って書いてるけどいつ頃に来るとかって分かるのか?」
カフラは単純な質問をシーカに問いかける。
「いい質問だ!カフラくん!
この予告状から推理するにズバリPM7:00に怪盗シャドウが現れる!」
「なんだそのピーエム?てやつ」
「PM7:00だ!!
つまり、夜の7時ってことだ!」
「その7ってのはなんなんだ?」
カフラの言葉にシーカの表情は固まる。
カフラは"時間"を知らないのか?
確かに、俺が暮らしていた村にも時間が無かった……
この世界には"時間の概念"が無いと思っていたがなぜ、この街にはその概念があるんだ?
するとトスティは、カフラの疑問を聞くと何度か話した口ぶりで説明を始める。
「このPMや7:00というものは僕の兄貴、"ロルド・ウィンソン"が作った一日の現在地"時間"のこと。
朝が出て夜を迎える、そしてまた朝を迎える……
その一つのルーティンを朝から昼を12分割、昼から夜を12分割、合計24に区切ったのが"時間"だ。」
「難しくてさっぱりだが、つまり俺が今、1日のどこの場所にいるか分かるってことだな!」
「まぁ、そんな感じだ!」
トスティはカフラとの知能の差を感じたのか異常に噛み砕き説明した。
ロルドはこの街で"時間"の概念を普及させたと言うことか……
しかも、転生前の俺の世界での時間ルールと同じ。
つまり、ロルドは俺と同じ転生者なのか……?
時間の概念を知るマオはシーカに問いかける。
「なぜ、怪盗シャドウがPM7:00に来ると分かったんだ?」
「ふふん!説明しよう!
"すべての灯りが油断へと変わるその刻、
我は忍び寄る。"……
この文が怪盗シャドウが現れる、時間のヒント。
だがこの"すべて"と言う部分がポイントなのだ!」
「すべて……?」
「あぁ、この街は太陽が沈み夜を迎えると自動的に街灯が点火するようになっている。
夜に限り街は街灯に身を委ねる。
基本的にこの街は日光か街灯の光によって照らされている。
しかし、ほんの一瞬闇に包まれる瞬間がある。
それが、太陽が沈み街灯が点火する瞬間だ」
「なるほど……PM7:00。
ちなみに今は何時……」
———ゴォン……ゴォン……ゴォン……ゴォン……ゴォン
"アルビオン"を象徴する時計台から鐘音が鳴り響く。
「鐘の音が5回つまり今はPM5:00だ!」
「つまり、この鐘が7回なった時に……」
「そう……ズバリ、怪盗シャドウの登場ってわけだ」
シーカはスムーズに推理が理解され満足げであった。
トスティは警備員たちに耳打ちをする。
そしてマオたちに提案を始める。
「あのコソ泥が現れるまであと2時間もあるから、うちの中も見ていくかい?」
「このでっけぇー建物の中、お宝だらけなんだろ!見てみたいぜ!!」
トスティの提案にカフラが目を輝かせる。
カフラの反応にトスティは謎めいた笑みを浮かべる。
「ここが、初めての方もいますし僕が簡単に案内するよ!
ささ、皆様コチラへ」
マオたちはトスティの起点でなんとか"ブリッシュミュージアム"の中に入ることができた。
トスティがツアーガイドのように展示品の説明を始める。
マオたちを警戒しているのか怪盗の警戒をしているのか分からないが、最後尾には常に2人の警備員がついていた。
"ブリッシュミュージアム"の中は天井張りで自然光を使い館内を照らしている。
金や銀、巻物や石の宝石が数多く展示されており、その輝きにマオたちは目を奪われ、ところどころ足を止める。
お宝ごとのテーマに沿った部屋も設けられ、
道は迷路のように続いていた。
「そして、ここがローズジェムが展示されている場所だ」
トスティは重い扉を開けて、マオたちを部屋の中へ誘導する。
四角い部屋に中央にはガラス張りの赤ピンクに輝く宝石。
昨日、探偵事務所で行った作戦会議に使用した図面そのままの構造であった。
トスティは重い扉を閉める。
「これが、ローズストーン……」
「すげー輝いてんな……」
マオとカフラは吸い込まれるように宝石に目が奪われていた。
「おい!マオとカフラくん!
作戦を忘れてないだろうな!」
「大丈夫だって!
まだ、そのピーエム?7ってやつになってないだろ?」
———ゴォン……ゴォン……ゴォン……ゴォン……ゴォン……ゴォン……
カフラの発言の直後、合わせたように鐘の音が鳴り響く。
そして、最後の1回———
———ゴォン……
鐘が計7回鳴り響く。
音が鳴り終わると同時に数秒間、部屋は暗闇に包まれる。
そして、一斉に街の灯りが点火する。
暗闇は晴れ視界がクリアになる。
「おい、嘘だろ……」
カフラは目をまん丸に驚愕する。
先ほどまで吸い込まれるように覗き込んでいた宝石が無くなっていた。
この空白の数秒で起こったのは、それだけではない。
「おい!ジョンソンくん!どうしたんだ!ジョンソンくん!!」
そこには、ピクリとも動かないジョンソンが倒れていた。




