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第55話「私の為に!」

 毛虫の出現。

 ジョアンナの悲鳴が響く。


 ミミズの出現。

 またもジョアンナの悲鳴が響く。


 なんやかんやあった畑仕事の後……

 収穫した野菜は、俺を含めた大人が回収。

 ユウキ家の氷室へ放り込んだ。


 その間、子供達は遊びの準備。

 いよいよジョアンナも古き日本の遊びに触れる事となる。


 俺達が戻ると、農地では作業を終えた、または中止したユウキ家以外の村民とその子供達も混ざり、『ケイドロ』が始まろうとしていた。

 

 聡明なジョアンナはすぐに『ケイドロ』のルールを憶えたようだ。


「ケン様! 早く! 私はドロボーです!」


 ははは、私はドロボーって……

 普通じゃ、なかなか言えないセリフ。

 でも、ケイドロならOK!


「パパは衛兵ね! 私とジョアンナを捕まえて! じゃあ、ゲームスタート!」


 続いてタバサの声が響き、ケイドロが始まった。

 念の為、補足しよう。


 ケイドロのルールとは……

 まず『牢屋』の場所を決める。

 木陰とか壁際とか、何か目印になるものがある場所がベストだ。

 次に『警官役』と『泥棒役』の二組に分かれる。

 警官役がいくつか数えたら、泥棒役が一斉に逃げる。

 それを、後から警官役が追いかけるのだ。

 

 警官役がタッチしたら、泥棒役は抵抗出来ずに捕まるルールである。

 捕まった泥棒役は牢屋に入れられるが、助けに来た仲間が警官役にタッチされず、捕まった者へ先にタッチしたら牢屋から脱獄が出来るのだ。

 

 警官役が泥棒役全員をタイホしたら勝ちで、役柄を交替して遊びを続ける。

 

 オリジナルのケイドロに、俺達はいくつかローカルルールを加えた。

 こうしたローカルルール採用も、各地では良くあった事だ。

 警察官に馴染みがなくても、村の人はエモシオンの衛兵なら知っている。

 だから、追いかけ役に衛兵をイメージさせたのだ。


 例えばだが、悪い事をしたら衛兵は……「スターップ」と声を掛けて来る。

 その行為をルールに取り入れた。

 衛兵役が「スターップ」と告げたら、泥棒役は3秒間大きな声で数えて、その場に留まらなくてはならない事にした。

 しかし「スターップ」の濫用は出来ず、使用は1回だけとするとか制限も設ける。


「ケン様あ! ジョアンナを捕まえてえ!」

「パパ、私も捕まえてえ!」


 ジョアンナは楽しそうに逃げる。

 タバサも笑顔で逃げる。


 しかし、ここで俺が『本気』を出したら、ふたりともすぐに捕まえてしまう。

 

 ここは手加減しないと盛り下がる。

 ぎりぎりのところで捕まえない。


 でもそんな状況にジョアンナとタバサは焦れたらしい。

 本音は……俺にしっかり捕まえて貰いたかったようだ。


 ふたりとも最後には、わざと捕まってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後、攻守交代?し、俺がドロボー、ジョアンナとタバサが衛兵となり……

 リゼットとクッカも、愛娘軍団も、愛息軍団も、マチルドさんも、入り混じり、

楽しく遊んだ。


 時間はもう夕方5時過ぎ……今日は帰って、夕飯。

 支度は在宅、食事担当の嫁ズがしているはず。

 こうやって、我が家は仕事を分担しているのだ。


 さてさて!

 帰り道、ジョアンナは大いに上機嫌である。

 俺と手をつなぎ、ぎゅぎゅぎゅ!と握って来る。


「ケン様あ! こんな遊びジョアンナは初めてです! ケイドロ、凄く面白かったあ!」


「良かったなあ、ジョアンナ」


「はいっ!」


「それと今夜はお客さんがふたり来る」


「お客様? ふたり?」


「ああ、この前、朝に散歩した時、会っただろ? アンリだ」


「は、はい。アンリ様って、物見やぐらに昇った時、お、お会いした方ですね。お、憶えています」


「奥さんのエマさんも来て、ウチで夕飯を一緒に食べる」


「え? ア、アンリ様が奥様と?」


 やたらに噛むジョアンナは、何故か不安気な表情だ。


「どうした?」


「ケン様、私をアンリ様の家へ行けとか……」


 ああ、ジョアンナは以前のトラウマで、自分がアンリの家庭へ『嫁』か『養子』に出されると心配していたんだ。


「いやいや、違うって。お前が望まない限りどこへもやらない」


「あう! よ、良かったああ!!」


 安堵したジョアンナは、再びつないだ手を、ぎゅぎゅぎゅ!と握って来る。


「アンリも、ジョアンナと同じ、王都の生まれで貴族の子なんだ。それも正式な奥さんの子じゃない」


「……私と同じ」


「ああ、いろいろあって、アンリは以前、心がとても疲れていた。その時俺が相談に乗って力づけた」


「そうなんですか……アンリ様もケン様に助けて頂いたのですか……」


「ああ、でも、アンリは今幸せだ」


「アンリ様が幸せ……なのですか」


「ああ、いろいろあって王都を出たアンリは、俺と知り合った」


「ケン様と……」


「そして隣町のエモシオンで、奥さんとなるエマさんと巡り合った」


「エマ様と……巡り合った」


「アンリは信頼出来る、俺の家族、いや弟みたいな奴なんだ。申しわけないが、ジョアンナの事情を話した」


 俺が一気に事後承諾の経緯を話すと、


「は、はい! ケン様がアンリ様を信頼されてご家族だとおっしゃるなら、構いません!」


 ジョアンナは、笑顔で承諾してくれた。

 礼を告げた俺は自分の考え、そしてアンリ夫妻が来訪する意図を伝える。


「ありがとう! アンリはな、奥さんのエマさんと一緒に、ボヌール村へ来たばかりのジョアンナを力づけたいと言ってくれた」


「そうなんですか!」


「ああ、早いうちにジョアンナと話したいって……幸せなアンリとエマさんふたりの姿を見て、話を聞けばジョアンナはもっともっと元気になる! 俺はそう思うんだ」


「ケン様! わ、私の為に! あ、ありがとうございますっ! ……だ、大好きつ!!」


 ジョアンナはやはり聡明な子だ。

 俺の気持ちをすぐ察し、大きな声でお礼を言ってくれたのである。

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