第六話:『海軍大叔父の生活の知恵、泥沼のご馳走』
絶滅したはずのドードーの群れを前に、飢餓で白目を剥きかけていた太一の横で、大叔父が「ふふん」と鼻を鳴らした。
彼は泥まみれの防暑衣の懐から、ガサゴソといくつかの薄汚れた包みや木箱を取り出し、誇らしげに平らな岩の上へと並べ始めた。それを見た太一は、言葉を失って唖然とするしかなかった。
「大叔父さん……それ、どこで……!」
「どこで、だと? 決まっている。さっきあの黒川の野郎に撃ち殺された、陸軍の輜重兵どものトラックの荷台からに決まっとろうが」
並べられたのは、防水紙に包まれた極上の『塩』、濡れずに済んだ貴重な『マッチ』。戦地では何よりも重宝される恩賜のタバコ『ほまれ』の箱と、先ほどまでとっくに底を突いたと思い込んでいた、香ばしい香りの残る『乾パン』の袋だった。
それだけではない。大叔父は、何に使うのかも分からないパサパサとした「軍馬の飼い葉」の藁束まで、ちゃっかりと大量に引ったくって背嚢に詰め込んでいたのだ。
「要領良く立ち回らんで、このレイテで生き残れるか。軍人勅諭にだって書いてあるだろ、『上官の命令をば、直に大君の命令と心得て……』つまり、死んだ上官の物資は、大君から俺たちへの配給と同じだ。……ま、海軍の俺が陸軍の勅諭を都合よく解釈しただけだがな!」
大叔父はカカカと喉を鳴らして不敵に笑うと、胸元の黒ネクタイを緩め、銃剣を器用に使って、沼のほとりに生い茂る熱帯の薪を切り出し始めた。
その視線の先では、丸々と太ったドードー鳥たちが、自分たちが「美味そうな肉の塊」として狙われていることにも気づかず、間の抜けた声で首を傾げている。水辺のシダの根元には、彼らが産み落としたばかりの、ダチョウの卵ほどもある巨大な白い卵がいくつも転がっていた。
「太一、あの自動歩兵をこっちへ寄こせ。あの乾パンの蝋引き袋と、陸軍の飼い葉をあいつの胸板の熱で乾かすぞ。今夜はご馳走だ。塩をきかせた『ドードーの焼き鳥』と、あのデカい卵の『茹で卵』で腹を満たす」
大叔父の言葉に、太一の空っぽの胃袋が激しく鳴った。
自動歩兵が赤い足を泥に沈め、無骨な真鍮色の胸板を覗かせながら、薪を運ぶ大叔父の斜め後ろにぴったりと従う。耳の長いロバも、軍馬の飼い葉の匂いを嗅ぎつけたのか、嬉しそうにトコトコと長い耳を揺らし始めた。
「ほら、のんびりするな。空の色を見てみろ、そろそろまたドデカいスコールが来るぞ。雨が火を消しちまう前に、鳥を仕留めて焼き上げるんだ!」
大叔父の鋭い声が響く。ミラー中佐率いる米軍の包囲網も、十四年式拳銃を血に染めた黒川大尉の追跡も、この夜だけは「美味い飯」の誘惑の前に、一瞬だけ忘れ去られようとしていた。
大道寺コンビと1体のブリキ、そしてロバ。外見は無骨ながらも頼れる仲間たちによる、前代未聞のサバイバルクッキングの火蓋が切って落とされる――。




