2話「ワイバーン」
夜空の下。
四人は焚き火を囲んでいる。
戦士が肉を焼いている。
「これで、またパワーが出るぜ!」
「また食い意地張って…でもあとで分けてね」
魔法使いは勉強している。
『禁断極限呪文の理論』という黒い本だ。
僧侶が明日の予定をノートにまとめている。
道具のストックも帳簿につけている。
勇者が皆を見て微笑んでいる。
魔法学校の食堂での思い出が蘇る。
勇者と僧侶はチェスを指している。
いつもギャラリーが出来る。
二人の試合に食堂のおかずを賭ける生徒までいた。
「今日は勇者が勝つよ!」
魔法使いはいつも勇者の応援側だ。
「いつも、僧侶の方が勝率が良いぜ」
自然と僧侶を応援する戦士。
「チェックメイトです!」
誇らしげに宣言する僧侶。
悔しそうに頭を抱える勇者。
「これで50勝、43敗で僧侶が勝ち越しだ!」
戦士がギャラリーを煽る。
「そんな見世物じゃないんだからさ…」
不満げに勇者の肩に手を置く魔法使い。
「そういえば。課題終わったの戦士?」
にやりと笑う魔法使い。
「うっ、嫌な事思い出させやがって…」
辺りの生徒が数人凍り付いた。
そんな楽しい思い出が昨日の事のようだった。
満天の星空が眩しい。
朝、森に差し掛かる。
木漏れ日が顔に差し込む。
緑の湿気を帯びた空気が少し清涼感を出している。
敵だ。
ネバネバした液体の塊。
スライムが三体、こちらを見ていた。
雑魚だが倒すのは平和のため。
戦士が斧で斬りかかる。
躱すスライム。
勇者が後ろに回り込み剣で斬り捨てた。
魔法使いが火球を放つ。
蒸発するスライム。
1匹逃げる。
追う戦士。
森の中で追跡。
「待ってください、そっちは!」
僧侶が珍しく大きな声で呼びかける。
戦士の絶叫。
崖から落ちた。
3人で崖下を見る。
青ざめた。
戦士は無事だが状況は絶望的。
落ちた先は、岩だらけ。
そこには、ワイバーンの群れ。
巣。
「今助けるぞ」
勇者が顔を引きつらせながら、飛び降りる。
「無理だよ!いっちゃダメ!待って!」
青い顔のまま魔法使いも続く。
僧侶も覚悟を決めて降りた。
戦士はワイバーンに斬りかかるがびくともしない。
ワイバーンが戦士に尻尾を叩きつける。
戦士は吹き飛ぶ。
魔法使いの火球も、翼の一振りでかき消される。
僧侶が白い光を放ち、戦士の傷を治している。
「このままではまずい、極大呪文を使うしか無い!」
全員の顔がひきつる。
「ダメだよ!あれがMPの消費が凄いから滅多な事では使うなって魔法の先生が…」
魔法使いが泣きそうになりながら言う。
「このまま全滅するよりマシだ!」
渋い顔で全員が目線を合わせ頷いた。
全員の身体から光の粒子が舞い上がる。
勇者の周りに光が集まる。
光が大きくなっていく。
剣を構えた勇者が空を思い切り斬ると。
光の奔流が放たれた。
さらに光は拡大していき、ワイバーンたちを飲み込んでいく。
数体が光の粒子になり消滅し、生き残りは飛んで逃げた。
勝利の高揚感。
しかし、その後来た感覚。
(気持ち悪い…)
口元を抑える。
全員が同じだった。
魔法使いに至っては地面に手をつき、今にも戻しそうだ。
「あれだけの魔法だもの、デメリットぐらいあるだろう…」
ふらふらしながらも戦士は、倒したワイバーンを踏みつけ始めた。
思い切り何度も。
「魔物にだって尊厳はあるんだぞ?」
口元を押さえて勇者が言う。
「うるせえなぁ、説教か?」
青筋をたてて戦士が言い返す。
「あなたが前に出すぎたから危険だったんですよ?」
青ざめた顔で警告する僧侶。
「そうよ、勇者まで危なかったじゃない!」
ふらふらと立ちはだかり魔法使いも責める。
「俺がもっと早く敵を倒せば弟も死ななかった。
俺はもう違う。すばやく勝ち続ける。」
戦士は時々思い出す。
血まみれの弟。
助けを呼ぶ声。
自分は間に合わなかった。
目を閉じるたびに思い出す。
あの日だけは、何度夢に見ても変わらない。




