第1節 9.エントの町
しばらく歩くと、右手側に地図に描かれたのと同じ、宝石と硬貨のマークが描かれた看板があるお店を見つけた。
「あれかな・・・?なんで文字じゃなくてマークなんだろう?」
「あのお店だね。文字が読めない人間もいるらしいから、絵で看板を描くことが多いらしいよ。」
「なるほどね。確かに、それなら誰が見てもわかるもんね。」
私たちはお店のドアをノックして中に入る。
ドアからはチリンチリンと鈴の音が鳴った。
「お邪魔します。すみません、宝石の換金をお願いしたいのですが・・・」
「はいはい、いらっしゃい。」
奥から出てきたのは眼鏡をかけた初老の男性だった。
男性は少し驚いた顔でずれた眼鏡を治しながら言う。
「こりゃ驚いた。竜種とエルフの子供、それにその子は、色と大きさが違うけど、エシガだね?」
「そうです。すごいですね、すぐにエシガだってわかるなんて。」
「これでも昔は生き物の研究をしていたんだ。こんな綺麗で人馴れしているエシガを見たのは初めてだがね。それで、宝石の換金だったかい?見せてみなさい。」
私は懐から出すふりをして収納魔法から二十個ほど宝石を取り出すと机に置いた。
「ほう・・・これはまた見事な宝石たちだね。さすがは竜種が持ってきただけはある、質がいい。」
「竜種と関係があるんですか?」
「ふむ、お嬢さんは知らないのか。竜種は綺麗なものを集める性質を持っていてね、竜種が欲しがるものは大体価値があるものなんだよ。」
「そうだったんだ!知らなかった。」
ちらりとアズを見るとそっぽを向かれた。
「店主・・・あまり僕の秘密をばらさないでおくれ。少し恥ずかしいよ。」
「はははっ、そうかそうか、秘密だったのか。それはすまないね。それで・・・この額でどうだい?」
そう言ってさらさらと紙に数字を書いて私たちに見せる店主さん。
数えると、125万リルと書かれていた。
「うん、上出来だね。これだけあればしばらくは困らないよ。」
「そうかいそうかい、よかったよ。お金を用意するから少し待ってな。」
そう言って裏に戻る店主さん。
私はこの世界の通貨の価値をまだよくわかってなくて、125万リルが日本円でいったらいくらになるのかわからなかった。
「アズ、アズ。この世界でパンを一つ買うのにどのくらいのリルがいるの?」
「パン?そうだね・・・20リルくらいじゃないかな。」
「そっか、ありがとう。」
日本でパン一つ買うのに200円くらいだから、1リル約10円。
そう考えると125万リルって・・・・・・
「大金じゃんっ!!」
「ん?そうだよ。だから無くさないように、収納魔法に入れておいてね。頼んだよ、ノイ。」
私はこの宝石よりも質がいい宝石を今何百と収納魔法に入れている。
これは責任重大だと、一人頭を抱えた。
「・・・?お嬢さんは何をしているんだい?まぁいいさ、ほら、これで全部あるか確かめておくれ。」
そう言って金板12枚、金貨5枚を机に並べられたので、アズと二人でしっかり数える。
「うん、ちょうどあるよ。ありがとう、店主さん。」
「こちらこそありがとう、お嬢さん。おかげでいい宝石を仕入れれたよ。」
お互いにお辞儀をして、お金をしまおうとしたらアズが待ったをかけた。
「店主、革袋はあるかい?僕とこの子の分で二つあると助かるんだけど。」
「もちろんあるさ。大きさはと用途は?」
「小さめを二つ、用途は財布。いくらだい?」
「二つで1000リルだけど、いい宝石を売ってもらったから900リルでいいよ。」
「ありがとう店主。」
とんとん拍子で話は進んで、換金してもらった金貨を崩して支払い、手元に残ったのは金板12枚、金貨4枚、銀板9枚、銀貨1枚だった。
「ありがとう店主さん!」
ぴぃ![ありがとう!]
「ありがとう店主、またくるよ。」
「あぁ、待ってるな。」
あいさつを交わして私たちは外に出た。
外に出てすぐ、金板10枚と金貨2枚、銀板5枚が入った革袋をアズに手渡された。
「ノイ、この袋の中の金板と金貨だけ収納魔法に入れて、残りはそのまま革袋に入れて持っててほしいんだ。収納魔法のカモフラージュとして使ってほしい。」
「あぁ、なるほど!そのためにこの袋を買ったんだね。」
理解した私は言われた通り金板と金貨だけ収納魔法に入れて、残りはそのまま服の中にしまい込んだ。
「それにしても、お店の中でルナ、すっごく静かだったね。」
「確かに。宝石を見たら騒ぐと思ったんだけど・・・」
[おいらも成長してるからねっ!そ、それに、ノイとアズからもらった宝石があるから、平気だったんだ!]
「すごいよルナ!成長してるね!」
「うん、すごい。ご褒美にアクセサリーはルナが好きなものを買おう。」
[やった~~!!おいら、すっごくわくわくする!]
「ふふっ。じゃあ次は宿屋だね。」
そうして私とアズは行きと同じように手をつなぎ、ルナはアズに抱えられた。
———・・・
「ここかな?」
地図に描かれたものと同じ、ベッドと木のマークがある場所についた。
換金所からとても近く、数分しかかからなかった。
「こんにちは~。」
扉を開くとそこは食堂となっていて、もうすぐ夕方という時間帯的にも少し混みあっていた。
「いらっしゃい!飯かい?宿かい?」
恰幅のいい中年頃の女性がご飯を運びながら尋ねてきた。
「宿で、朝晩の食事付きでとりあえず一週間頼みたい。」
「あらっ、竜種じゃない!竜種がうちに泊まるなんていつぶりかしら。この宿を選んでくれて嬉しいわ。えっと、エルフのお嬢ちゃんも一緒のお部屋でいいのかしら?」
「うん、一緒で大丈夫。いくらだい?」
食事を運び終えた女性はこちらに歩いてきながら計算をする。
「二人部屋でペット付き、朝晩食事の一週間で・・・少しおまけして8500リルよ。ご飯は今食べる?」
「わかった。これでお釣りを頼むよ。今から少し外に出るから、食事は帰ってきたら頼みたい。」
そう言ってアズは革袋の中から金貨を1枚取り出して女性に渡した。
「はいよっ。これ、おつりね。先に部屋に案内するわ、ついてきて。」
女性はポケットから銀貨を5枚取り出してアズに手渡し、鍵を片手に宿の二階に上がっていった。
私たちも女性についていき宿の二階に向かった。
ついた部屋はとても清潔感があり、広くはないけど落ち着く部屋だった。
今世で初めてのベッドに私は少しわくわくした。
「はい、じゃあこれ鍵ね。なくしたら手数料がかかるからなくさないようにね!なにかあったら私、もしくは厨房で料理してるおっさんに声をかけて!」
「わかった。丁寧にありがとう。」
「ありがとうございます!」
ぴぃ![ありがとう!]
三人でお礼を言うと女性は笑顔で下に降りて行った。
「さて、じゃあさっそくアクセサリーを見に行こうか?」
「うん、そうだね!」
[おいら、もう待ちきれないよ!!]
私たちはついたばかりの宿屋を後にしてアクセサリーのお店に向かった。
———・・・
「ここをこっちで・・・ここかな?」
私たちの目の前には大きなお店があった。
看板のマークは地図のものと同じリボンが描かれている。
「それにしても、あの門番さん凄いね。マークが全く同じだよ。」
「そうだね。絵心があるのか、記憶力がいいのか、はたまた両方か・・・。もしかしたら門番になる人はみんな描けたりして。」
「えーっ、みんな描けたらすごすぎるよ!」
[はやく中に入ろうよ・・・]
「わっ、ごめん!そうだね、入ろうか!」
そう言って私たちはドアをくぐる。
中に入ると、色とりどりのリボンやネックレス、ピアスなど、人間も動物も付けれるアクセサリーがたくさん置いてあった。
[わぁぁ・・・!!!すごい!すごいよっ!!きらきらであふれてる!こんな場所、生まれて初めて・・・!!]
ルナが暴走しないようにしっかりと抱えたアズが呟く。
「素晴らしい……」
「アズ?」
「はっ!!!なな、なんでもないよ。そ、そうだ、早く中を見てみよう、ルナも待ちきれなさそうだし。」
「・・・?そうだね。私も、自分用のピアスとか欲しいかも。」
「ノイなら何でも似合うよ。」
「ほんと?ありがと!じゃあ選ぼうか!」
そう言って一歩踏み出した瞬間。
目にもとまらぬ速さで三人の人影が目の前を遮った。
「「「いっらっしゃいませ~~!お客様~~!!」」」
やけにハイテンションな声は、目の前の三人から聞こえた。
赤い髪をツインテールにして結んだ釣り目の少女と、緑の髪を後ろでくくった普通の目の少女と、黄色い髪をそのまま伸ばしている垂れ目の少女だ。
まるで信号機みたいだな、と思っていると再び少女たちが口を開ける。
赤「こんにちは!」
緑「ようこそっ!」
黄「来てくれました~~」
「「「ワンダ・エブリへ!!」」」
緑「人間もっ!」
黄「人外も~~」
赤「着飾らなきゃ!」
「「「やってられない!!!」」」
黄「おしゃれのことなら~~」
赤「ペットのことなら!」
緑「全てのことはっ!」
「「「私たちにお任せをっ!!!」」」
そう締めくくると綺麗に並んでお辞儀をした三人に対し、咄嗟に拍手しかできなかった。
———・・・
いったん落ち着いた後、少女らは改めて自己紹介をしてくれた。
「「「ここはワンダ・エブリです!!」」」
赤「私はロト。主にペット様のアクセサリーを担当しておりますの。」
緑「あたしはリュン。基本全般を担当しているよっ!」
黄「私はルプです~~。人間用のアクセサリーを担当してます~~。」
「「「今日は何をお探しですか?」」」
「私はノイ。こっちがアズで、この子はルナ。今日はルナのアクセサリーを見に来たんだけど、私のアクセサリーもいいのがあったら欲しいなって思ってる!」
私も挨拶をして、目的のものを伝える。
「では、ルナ様はこちらに・・・」
「僕も一緒に見て通訳をしてくるよ。」
「わかった!ルナをお願いね、アズ。」
「任せて。」
そう言って二人はロトさんと右のスペースに移動していった。
「じゃあノイさんは~~こっちに来てください~~。」
「はい!」
「あたしは店番してるねっ!」
「お願いします~~。」
そうして私もルプさんについて左側のスペースに移動した。
———・・・
「ルナ。どんなアクセサリーがいい?リボンとか、ネックレスのようなものとか・・・伸縮する指輪のようなものを足につけてもかわいいかもね。」
[うーん・・・きらきらしたものがいいんだけど・・・アズはどんなものがおいらに似合うと思う?」
「そうだね・・・僕は何でも似合うって思うけど・・・じゃあ、せっかくだからプロの意見も聞いてみるかい?」
[うんっ、聞いてみておくれ!]
「ってことでロト。きらきらしたもので、ルナに似合うものってあるかい?」
「そうですわね・・・数点お持ちしますので、こちらの椅子で少しお待ちいただけるかしら?」
「わかった。」
そう言われて椅子に座って数分。
目の前の机には、机からあふれそうなほどのアクセサリーが並べられていた。
「こちらのアクセサリーは白金の羽によく合うでしょう。こちらは瞳の色と同じもので、こちらは・・・———」
そうして一点一点選んだ理由を挙げていくロト。
しかし、ルナの視線はそちらにはなく、ただ一点を見つめていた。
「ルナ・・・?何か気になるものがあったのかい?」
[うん、あれ・・・あの輪っかについてる宝石が、二人の髪の毛みたいにきらきらしてて綺麗なんだ。おいら、あの輪っかがいいな・・・]
「ロト、そのリングを見せてくれるかい?」
「こちらですわね。こちらは飼い主様お二人の髪色で選んだ一品となりますの。お付けになられますか?」
「うん、一度付けてみたいな。」
「かしこまりました。では、おみ足をこちらに・・・」
「ルナ、足を貸してだってさ。」
[わ、わかった。]
ルナが足を差し出すと、ロトは丁寧にリングをルナの足に嵌める。
リングは自動で小さくなり、ぴったりと装着された。
[わぁ・・・!綺麗・・・!]
「動きずらいとかないかい?」
[うんっ、ないよっ!おいらっ、これがいい!!]
「ロト、これに決定するよ。ちなみになんだけど、これと同じようなデザインの人間用のリングってあるかい?」
「ございますわ。お持ちしますか?」
「頼むよ。人間用のは宝石が付いてなくていいから、ノイの分と・・・あと、僕の分。お願いできる?」
「かしこまりましたわ。少しお待ちくださいませ。」
そう言って席を外したロト。
ルナは自分の足元を見てはにこにこしている。
「ルナ、気に入ったかい?」
[もちろんだよっ!!こんなきらきらで綺麗なもの、おいら、嬉しくて舞い上がっちゃう・・・!」
「せっかくだから、リボンとかも試着してみるかい?」
[いいのかな?]
「いいと思うよ、そのためのお店だからね。」
話しているといつの間にか戻ってきていたロトにリングを見せられる。
「こちらはいかがでしょうか?ルナ様のお付けになっているリングとお揃いのものでありながら、シンプルなデザインに抑えられていて日常使いもできますの。もちろん伸縮機能もついてますので、どの指でもお使いいただけますわ。」
「うん、いいね。これを二つとルナの今付けているリングを貰うよ。この二つはこっそり買いたいから今支払ってもいいかい?あと、それとは別で、他に似合うものがあるか見たいから試着してもいいかな?」
「もちろんでございますわ。二つのリングでお値段こちらになります。ルナ様はまず、こちらのリボンなどいかがでしょう・・・———」
僕はリング二つ分で金板1枚を支払い、おつりの金貨6枚とリングを懐にしまった。
そしてルナはいろいろなアクセサリーを試着して、追加で二つのアクセサリーを選んだのだった。
———・・・
一方その頃。私はというと・・・
「わぁ、これもかわいい!わっ、こっちも・・・!このかっこいいのもいいなぁ・・・!」
「どれもお似合いです~~。かわいい系もいいですが~~、かっこいい系もお似合いになられますね~~。」
「えへへ、そうかな。あっ、これもかわいい・・・———」
試着しては褒められて、褒められては試着して。
私はもう自分では選べないくらいお気に入りのアクセサリーがあった。
「どうしよう、どれもかわいくて悩んじゃう……。でも、これは絶対買いたい・・・!」
そう思って再び手に取ったのは、アズとルナの色の宝石が付いたピアスだった。
とても可愛くて、普段からつけていてもよさそうなデザインで、このお店で一番のお気に入りだ。
「それにしても、こんなドンピシャで二人の色のアクセサリーがあるなんて・・・!」
「お店に来た瞬間に~~、このピアスのことを思いました~~。多分ノイ様に買われる運命にあったんだと~~、思います~~。」
「えへへ、嬉しいな。・・・そうだ、ルプさん。このピアスと同じデザインのピアスとネックレスってあったりする?」
「そうですね~~。少しお待ちください~~。」
そう言うとゆったりとお店の奥に消えていくルプさん。
私は待ってる間に候補のピアスたちを選別すべく鏡を見ながら奮闘した。
戻ってきたルプさんが手に持っていたアクセサリーは私が選んだピアスと同じデザインで、宝石がついていないものと、宝石がついたものがあった。
ピアスは私が買おうとしているものと同じ色の宝石が付いていて、ネックレスは青色の宝石のみだった。
「うーん、どうしよう・・・!私の色が入った宝石を贈るのはちょっと重いかな・・・」
「いいんじゃないでしょうか~~。私だったら~~、嬉しいですよ~~」
「そ。そうかな・・・うーん、よし!決めた!ルプさん、この宝石が付いた方のピアスとネックレス、買います!二人への贈り物にしたいから、こっそり今お会計したいんだけど、いいかな・・・?」
「もちろんです~~。お値段こちらになります~~。」
私は提示された6万リルを支払い、二つのアクセサリーをなくさないようにこっそり収納魔法にしまった。
その後しばらくしたらリングをつけたルナと、アズが戻ってきた。
「おかえり!いいアクセサリーはあった?」
[あったよ!見て見て!このリング、二人の髪の色の宝石が付いてるんだ!]
[わっ、ほんとだ!それが気に入ったの?」
[これじゃなきゃ嫌だったんだ!でもね、これ以外にもアズがアクセサリーを買ってくれたんだ!見ておくれよ・・・———]
「ルナ、宿に帰ってからにしよう?その方が落ち着いて話せるよ。」
「はっ!そうだね、そうしよう!嬉しすぎておいら、我を失ってたみたいだよ。]
へへっと笑うルナは、とってもいい笑顔でかわいかった。
「ノイはどうだい?」
「私は・・・ちょっと迷走しちゃって。一個は決まったんだけど、残りがどれも良すぎて選べなかったんだ。・・・そうだ、よかったらアズとルナでひとつずつ選んでくれないかな。」
「いいのかい?じゃあ遠慮なく。」
[おいらもきらきらしたの選ぶぞ~っ!]
そうして二人はものの数分でピアスを選んでくれて、私とルナの分のアクセサリーのお会計、合計14万リルを私のお財布(収納魔法)から支払い、その日は宿に帰ることになった。
思ったより金額が高くなってしまったので、この町を出るときにもう一度換金所に行くことになった。
そして帰り際、アズが少し心残りがある顔をしてワンダ・エブリを見つめていたのが気になった。




