第1節 8.行方
代表のリコの話をまとめるとこうだ。
曰く、大量のモンスターに襲われた森の主は、その場にいたモンスターを倒し切ったものの瀕死の状態でほぼ動けなかった。
曰く、大量のモンスターが死んだと思ったら、新たな大量のモンスターを連れた五人の人間が出てきた。
曰く、人間はモンスターを操っていた。
曰く、人間が森の主に何かしらの術をかけたら主は人間の姿に縮んで意識を失った。
曰く、モンスターを率いながら南東の方角に森の主を連れて行った。
曰く、途中でモンスターも人間も、主の姿も消えてしまったため追跡はできなかった。
[って感じよ。あたち、役に立ったかちら?]
「ああ、大助かりだよ。ありがとう。ノイ、チゴの実をこの子にあげてほしい。」
「うん、わかった!・・・はい、どうぞ。新鮮だから、美味しいよ。」
[わぁ!チゴの実だ!嬉しい!ありがとう!]
「ふふっ、どういたしまして。」
チゴの実を頬張っているリコを手のひらに乗せたままアズが難しい顔をする。
「南東……帝国か。やっかいだな、あそこは人間至上主義国だ。他種族の僕らは迫害の対象になる。でもなんで帝国が、僕の母様を・・・?」
私は百面相しているアズのほっぺたを両手で挟んでこっちを向かせた。
「アズ、落ち着いて?まだ人間の国に聞き取りに行ってないじゃない。今その帝国?って決めつけるのは早いよ。」
「そうか・・・うん、そうだね。ごめん、焦っちゃってた。そうだ、リコ。君以外に目撃した生き物はこの森にいるかい?」
[もぐもぐもぐ・・・んっ、いないと思うの。何かの術で彼らの姿、見えなくなっちゃったもの。だからあたちも深追いしなかったってワケ。]
「そうか、ありがとう。あと、この森のモンスターの量に変化はあったかい?」
[おで・・・主いなくなってから、森のこと、調べた。モンスター、明らかに数が減っている。]
マグスの言葉を聞いてアズは確信めいた顔になる。
「そうか・・・ありがとう。これで一つ仮説ができた。・・・その人間たちがいる場所のモンスター量が増加するんじゃないだろうか?」
「それはありえるかもしれないね。そんなに大量のモンスターを操っているなら、数匹逃げ出しても気づかなさそうだもん。」
「でもここ数日モンスターに出会わなかった・・・すでにこの森から移動したって考えられるね。」
そして少し考えると、私に質問してきた。
「ノイなら、南東の国か、反対の国かだったらどっちに先に行く?」
「私なら、か・・・うーん、そうだなぁ、その時の状況によるけど・・・今回だったら、反対の国に行くかも。大胆に連れ去っておいて隠れて移動してるなんて、本当の目的地を隠しているみたいじゃない?」
「!!!・・・確かに、そうかもしれない。ルナは、どう思う?」
[おいらも反対が気になるなぁ]
「うん・・・よし。二対一だから、反対の国に行こうか。」
「えっ、アズのお母さんのことなんだからアズが探したい場所を探してもいいんだよ?」
アズは気持ちのいい笑顔で首を振った。
「どっちにしろ、僕には決められなかったんだ。だから、二人についていくことにする。それが一番後悔しなさそうだから。」
「そっか・・・わかった。絶対、見つけ出そうね!」
「うん。絶対にまた、母様に会うんだ。会って・・・僕に素敵な仲間ができたよって紹介したい。」
[素敵な仲間だって!えへへ、嬉しいなぁ。]
「ふふっ、嬉しいね。」
そうして笑いあっていると、先ほど道案内をしてくれたマグスの長がアズに問いかける。
[坊ちゃん。次の行き先は、エマーブル王国・・・?]
「うん、そうだね。案内してくれるかい?」
「もちろんだ・・・。ついてきて・・・」
そう言うとマグスは歩き始めた。
リコ達にお礼を言ってチゴの実を少し置いていき、私たちはマグスについていく。
「それにしても、リコ達があんなに激しく喋るなんて思ってなかったな。この能力のおかげで知ることができたよ、ありがとう、ノイ。」
「ふふっ、いいんだよ!」
[おいらも、他種族の声を聴いたのは二人を除いて初めてだったけど、新鮮だったなぁ!]
「役に立ててるみたいでよかったよ!」
そうして道中、いつものように魔力トレーニングや魔法の練習をしながらマグスについていった。
———・・・
「今日はここらへんで休もうか。」
そう言って立ち止まった場所は近くに小川が流れている場所だった。
「夜ご飯はどうする?シイノの肉を食べる?」
「んー・・・シイノはとっておこう。魚を捕まえてくるからちょっと待ってて。」
「アズ、それなら私も・・・———」
[坊ちゃん。おでが、獲ってくる・・・。]
「お、いいのかい?じゃあ頼んだよ、マグス。」
そう言ってマグスに任せて戻ってくるアズ。
「ただい・・・ノイ?どうしたんだい、ふくれっ面になって。かわいい顔が台無しになってしまうよ?」
「むむむ・・・・・・なんでもない!」
私は心の中で密かに対決のゴングを鳴らした。
「アズ、お魚私が焼k・・・」
[坊ちゃん。魚、焼けた・・・。]
「アズ、マッサージでも・・・」
[坊ちゃん。いつもの寝る前のトレーニング。やる・・・?]
「アズ、デザート・・・」
[坊ちゃん。寝る前のおやつ、持ってきた・・・。]
「アズ・・・」
[坊ちゃん。]
——————・・・
か、完敗だ……。
なにをやろうとしても先回りされてしまう。
だてに長年お世話係をしてきているだけある・・・。
私はマグスに勝つことを諦めて、おとなしくお世話をされることにした。
「ノイ、どうしたんだい?さっきから変だよ?」
「ううん、なんでもないの。ちょっと勝てない強敵がいただけだから。」
「敵・・・?どこだい?!今すぐ僕が倒しに・・・———」
「大丈夫!概念みたいなものだから!」
「・・・?よくわからないけど、危険はないんだね?」
「うん。だから大丈夫だよ。」
アズはほっと息をつくと安心した顔になる。
「ノイが大丈夫ならいいんだ。そうだ、そろそろ寝ようと思うんだけど、ノイはどうする?また起きてるかい?」
「うん。私は起きてるよ。だからマグスさんも、ルナも・・・って、ルナはもう寝ちゃってるのか。」
「そうなんだよ。ご飯を食べておやつを食べたら、すぐに寝てしまった。慣れない旅で疲れているのもあるんだろうけど、多分お腹いっぱいになって眠くなってしまったんだと思う。」
「ふふっ、かわいいね。」
「うん、そうだね。ノイが起きてるんだったらマグスには寝るように伝えてくるけど、それでいいかい?」
「うん、大丈夫だよ。」
「わかった。それじゃあ、おやすみ、ノイ。」
「うん、おやすみアズ。いい夢見てね。」
私は焚火の前で座ったままアズを見送る。
アズはマグスに寝て大丈夫なことを伝えると、ルナとは離れた位置に横になった。
マグスはみんなから離れた位置に向かい、その場に座って寝始める。
体が大きいから横になって眠るということをしないようだ。
今日も色々あったな。
アズのお母さんが生きていることがわかってとりあえずよかったけど、まだどこに向かったのかわかってないから安心はできない。
私は今日も魔力トレーニングや魔法の練習をしながら朝になるのを待った・・・———
———・・・
次の日、マグスは日が出始める前に起き、魚を獲ってきて、アズが起きる前に食事の準備を完璧に終わらせていた。
これは勝てないな、って心の中だけで思ったのは内緒だ。
そしてみんなが起きて、食事をして、今日も移動しながらトレーニングをした。
———・・・
一週間ほど同じ工程を繰り返した。
ひたすら歩きながらトレーニングをし、寝て起きて食事をして、また歩く。
そうしていると、景色がだんだん変わってきたように感じた。
「わ、なんか木が少なくなってきた?」
「そうだね。木が少なくなってきたってことは・・・もうすぐエマーブル王国につくと思うよ。」
「そうなんだ!楽しみだな。そうだ、エマーブル王国ってどんなところなの?」
そういえば聞いてなかったなと思いアズに聞いてみる。
「数回だけ入ったことがあるんだけど、比較的治安もいいし、他種族にも寛容な国だよ。エルフも少ないけどいるし、ノイの人化の参考になるんじゃないかな。」
「そうなんだ!ふふっ、本当に楽しみ!」
[アズ、おいらが入っても平気なのかい?]
「うん、大丈夫。ただ、ペット扱いにはなってしまうから、何か目印をつけなければいけないんだけど・・・中に入ってから専用のお店に行ってみようか。多分、持ってないって言えばお店の場所を教えてくれるよ。」
[じゃあおいら、きらきらしたものがいいなぁ。あるかな?]
「きっとあるよ。」
[わぁ、楽しみになってきた!]
そういってルナはまた小躍りしながら歩く。
「ルナ、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ!」
[大丈夫だいじょう・・・ぶへっ]
どしんっ、と音がしてルナが転がる。
なんか既視感あるなぁと思いながらルナを助け起こして前を見ると、マグスが立ち止まっていた。
[坊ちゃん・・・おでの案内、ここまで。あそこに王国が見える。まっすぐ歩く、できるか・・・?]
そう言ってマグスが指した方向を見ると、町のようなものが小さく見えた。
「大丈夫。今の僕には頼れる仲間がいるからね。」
そう言って私たちを見るアズ。
「マグス、ここまでありがとう。しばらくの間、僕らは母様を探しに旅をする。その間、森のことを頼む。」
[任された・・・安心して行ってくるといい。」
「マグスさん。ここまでありがとう!」
[ありがとう!!]
[いい・・・これがおでの仕事・・・]
そう言うと、マグスは踵を返して立ち去っていく。
その背中に向かってありがとうともう一度言って、私たちはすでに見えているエマーブル王国に向かって歩き始めた・・・———
———・・・
ルナを先頭に半日ほど歩くと、大きな門が見えてきた。
門の前には人がたくさんいて、順番待ちをしているようだった。
「わ、すごい列。これは何の列なの?」
「入国審査の列だね。僕たちも並ぼう。」
そう言うとアズは列の最後尾に向かったので私たちもついていく。
ルナは人間に比べたら小さいから、はぐれないように私が抱えた。
[に、人間がいっぱいだよ・・・!こんなにたくさんの人間を見るのは初めて!]
「ふふっ、そうだね。私もこの世界に来てから初めての人間だな。」
そう言ってルナと一緒に周りを観察する。
「ノイ、僕の洞窟にあったもので、こんな形のコインと板のようなものはなかったかい?金銀銅と色があるんだけど・・・」
そういって魔力で形を作るアズ。
私はそれを見て、収納魔法に該当するものがあるかを探す。
「うん・・・あるよ。これ、お金?」
「そうだよ。名前はリル。1銅貨1リルで、10枚ごとに上のものに変わっていくんだ。順番は、銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板、ミスリル硬貨。ミスリル硬貨は滅多に表に出てこないから覚えなくてもいいかな。じゃあ問題。金貨一枚は何リルだい?」
「1万リルだね!」
「そう!やっぱりノイは賢いね。それで、この門を通るのに、人間一人につき100リル必要なんだ。ペットは一匹につき50リル。だから僕たち全員が通るのに250リル必要なんだけど・・・」
私は収納魔法の中から銀貨を二枚、銅板を五枚取り出してアズに見せる。
「うん、完璧だね。さすがノイだ。」
「えへへ、ありがとう。」
[おいらも覚えたほうがいいかい?]
「いや、ルナはそもそもほかの人間と会話できないから、覚えてもあまり意味がないかもしれない。でも、覚えたいならちゃんと教えるよ。」
[うーん・・・おいら、一人で行動するつもりもないから、別にいいかな。]
そんな感じで話していると私たちの番が来た。
目の前に立ちふさがるのは長身で茶髪のいかつい顔をした男性だ。
「はーい、次の方~・・・えーっと、エルフの嬢ちゃん、かな?それと・・・、っ?!りゅっ、竜種?!こりゃ珍しい組み合わせだ・・・。それと、これは・・・」
「突然変異のエシガです。」
「突然変異?!それに、滅多に人に懐かないことで有名なエシガがこうもべったりと・・・すごいなあんたら。名前は?あぁ、竜種はいい、嬢ちゃんだけで・・・」
「僕の名前はアズだよ。ちゃんと僕にも聞いてほしいな。」
「名前持ちの竜種?!ほんとに珍しいな。それで、嬢ちゃんは?」
「私はノイです。」
私とアズが名乗るとなにやら紙に書き記している。
「よし。通行料は持ってるか?」
「はい。250リルです。」
「おお、ちっちゃいのによくできた嬢ちゃんだ。よしよし後は・・・あんたら、この国は初めてか?」
「僕は何回か来たことあるけど、この子たちは初めてだね。」
「そうか。今な、少し国が荒れてるんだ。いつもなら居ない、少しガラの悪い奴もいるから攫われないように気をつけろ。それと・・・ほかに何か聞きたいこととかあるか?」
アズはルナをちらりと見ながら言う。
「実はこの子につける目印用アクセサリーが欲しいんだ。きらきらしたものがいいんだけど、いいお店を知っているかい?あと、宝石類を換金できるお店と、ご飯が美味しい宿も知りたいな。」
「なるほど、ちょっと待ってろよ・・・」
そう言って門番さんは紙にさらさらと手書きの地図を描いて渡してくれた。
「この印が宿で、こっちはアクセサリー、それでこっちが換金所だ。全部大通りに面した治安がいいところを描いておいたぜ。ついでに、おすすめの洋服屋にも印をつけたから、よければ寄ってみてくれ。それとこの木札が入国審査をちゃんと受けた証だ。この国から出ていくときに門番に返してくれ。じゃあな!エマーブル王国、そしてこのエントの町を楽しんで!」
そう言うと目の前からどいてくれて、私たちは無事エマーブル王国のエントの町の中に入れたのだった。
「わぁ、すごい・・・!!」
目の前の景色は前世でいうヨーロッパに近いと感じた。
街並みが前世で一度行ったことがあるイギリスのロンドンような感じなのだ。
しかし前世とは違うところがあった。
それは、様々な種族の人が歩いていたことだ。
頭から耳が生えている獣人や、小さな、恐らくドワーフ族の人、ごく少数だがエルフもいるのが確認できた。
きらきらとした目で周りを見ていると、ふふっと笑い声が聞こえた。
振り向くと、アズが微笑んでいた。
「もー、何で笑うの?」
「ごめんごめん、あまりにも二人の行動が一緒だったから。」
その言葉を聞いてルナを見ると、さっきまでの私と同じように周りを見渡していた。
「ふふっ、ごめん、これは笑っちゃうね。ルナは人間の国初めてだもんね、気になるよね。じゃあさっそく動こうか?えーっと・・・」
さっきの門番さんが書いてくれた地図を見てみると、だれが見てもわかるようなわかりやすい地図が描かれていた。
「えっと、一番近いのは換金所だね。その次は宿・・・うん。最初に換金して、その後宿をとってからアクセサリーを見に行こう!」
「うん、そうだね、それがいいと思う。」
ルナは無言で頷いてくれた。
人通りが多く、今までのようにルナが案内をすることができないため、私が案内をすることになった。
アズにルナを抱えてもらい、まだ子供の姿の私もはぐれないようにアズと手をつなぐ。
そうして私たちは換金所に向かって歩き出したのだった。




