第1節 7.今後の目標
朝、太陽が昇り始めてすぐ、アズが目を覚ました。
「おはよう、アズ。まだ寝てても平気だよ?」
「ううん、もう大丈夫。竜種はもともと睡眠が短いんだ。これでも結構長く眠った方だよ。」
「そうなんだね。あ、そうだ!ルナ、すごい寝相でびっくりしちゃったよ!あれは笑いをこらえるのが大変だね。」
「そうだろう?あらかじめ離れた場所で眠っていてよかったよ。そうだ、ちょっと川で顔を洗ってくるから、少し待ってて。」
「わかった!いってらっしゃい!」
私はまだ眠っているルナを見つめながら、アズの帰りを待った。
戻ってきたアズは手に魚を三匹持っていた。
「あ、それ。昨日私たちが獲った魚?」
「そうだよ。昨日、今日の朝ご飯にするって言っていただろう?ルナが起きる前に焼いておいて、焼けてから起こしたらすぐに食べられるかなって思って持ってきたんだ。」
「なるほど。確かに、ルナはその方が嬉しいかも。」
「じゃあ焼いてくるね。そうだ、魚も鉄板で焼いた方が美味しいのかい?」
「いや、魚は直火でもいいと思う。」
「そうか、じゃあ枝に刺して焼いてくるよ。」
「うん、ありがとう。」
そうして、暫くしないうちに魚の焼けるいい香りがしてきた。
その香りを嗅いだルナが、寝ぼけながら魚のほうに寄っていったのは面白かった。
火が危ないからすぐに起こしたけど、ずっと見ていたいかわいさだったな。
これからは料理する前に起こしたほうがいいねってアズと話し合って決めた。
「それじゃあ・・・いただきます!」
「[いただきます!]」
「ん……!このお魚、じゅーしーで、脂がのっててとっても美味しい!油が溢れて口の中が洪水起こしてるよ!」
枝に刺さったままの魚にかぶりついた私は思ったままの感想を口にした。
「うん、とっても美味しい。二人とも、魚を獲ってくれてありがとう。」
[へへっ、おいらが二匹獲ったんだよ!すごいだろう!]
「うん、すごいよ。さすがルナだね。」
[えへへ。おいら、褒められちゃった。・・・へへっ。]
ルナはしばらくの間照れていたけど、思い出したようにまた魚を食べ始めて頬をぱんぱんにしていた。
———・・・
「ごちそうさまでした!」
「[ごちそうさまでした!]」
ごちそうさまも昨日の夜二人に教えたらすぐに使ってくれるようになった。
私の言葉を聞いて、使ってくれることが、とても嬉しく思ったな。
食べ終わった後の片づけをして、昨日の鉄板やお皿の汚れを川できれいに洗い流して、収納魔法にしまった。
そしてルナを呼び、三人で火を囲んで座る。
「ルナ、聞いてほしい話があるんだ。」
[うん。アズの話ならおいら、何でも聞くよ!]
「ありがとう。実は・・・———」
そうしてアズは母親とはぐれてしまったこと。母親は死んでしまったと思っていたこと。でももしかしたら希望もあるかもしれないこと。
そして、
「これから母親を探す旅にをしたいんだ。希望は薄いのかもしれないけど、何もせずにただ嘆くのはもうやめよう、って思ったんだ。ノイのおかげなんだけどね。」
「私は特に何もしてないよ?」
「・・・まぁ、ノイがそういうなら、それでいいよ。僕はずっと感謝をしているけどね。それで・・・どうかな、ルナ。僕は…僕たちは、君もついてきてくれたら嬉しいなって思ってるんだけど・・・。」
そう言ってアズは顔を上げてルナを見てぎょっとする。
昨日のアズより泣いていたからだ。
[そんな……そんなの悲しすぎるよう……よし。おいらでよければなんでも協力するよ!おいらもアズのかーちゃんを探しに行く!!アズ、こんな大事な話、次からはちゃんとおいらにもすぐに言ってよ!]
そう言ってルナは涙をぬぐって凛々しい顔で宣言した。
私はアズと一瞬見つめあって、
「ね?言ったでしょう?ルナに怒られちゃうよって。」
「ふふっ、ほんとだね。次からは……うん。次からはちゃんと話すよ。ごめんね、ルナ。ノイ。」
そう言って頭を下げるアズに、私とルナは笑いあいながらアズの肩をぽんっとした。
そうして、これからも三人で旅をすることが決まった。
「さて。じゃあ今後の目標を立てたいわけだけれど・・・どんな感じで行動すればいいとか、何か案ある?ノイ。」
「そうだなぁ・・・」
私は少し考え、昨夜も言ったことを言う。
一つ目。付近の動物や魔物などに目撃情報を聞く。
二つ目。人間の国に行き聞き取り調査を行う。
三つ目。この森の中だけじゃなく、別の場所も探してみる。
今のところこんな感じだろうか。
「そういえば、アズってお母さんと何かのつながりがあったりするの?」
「あるけど、今は全く感じ取れない・・・それもあっていなくなっちゃったんだって思ってたんだけど・・・距離が離れてたらつながりが遠くなるから感じれなくなることがあるのを忘れていたんだ。だから、この森じゃないどこかにいる可能性はあるかな。」
少し考えながらアズは答えた。
「なるほど、わかった。じゃあ、この森の住人にはどこに向かったのかわかるって生き物を探そう!そのあとに人間の国だね。それで探しに行く方向を決めよう!」
「わかった。ありがとう、ノイ。僕のために、たくさん考えてくれて…」
「ううん、いいんだよ。だって、仲間でしょ?助け合わなきゃだよ!」
[その通りだよアズ!おいらもたくさん力になるからね!]
「二人とも、ありがとう。じゃあ・・・とりあえず今日の目標は知性がある動物や魔物を探すことだね。現在地が多分……うん。ちょっと見てくるね。」
そう言うとアズは翼を出し空に飛びあがる。
そしてしばらくしたら降りてきてある方向を指さす。
「ルナ、あっちの方向に洞窟があるからそこに向かってくれるかい?」
[わかった!]
そうして今日の私たちの行動が決まった。
向かう道中は歩きながら魔力トレーニングをしたり、アズの講義を聞いたりしていた。
数時間ほど歩いただろうか。目の前に洞窟が見えてきた。
[ついたよ、アズ!ここであっているかい?]
「うん、完璧だよルナ、さすがだね。ありがとう。」
[へへっ、いいってことよ~]
どや顔をし始めるルナをなでながら私はアズに尋ねる。
「ここになにがあるの?」
「ここは、僕と母様が拾い集めた人間の武器とか何に使うのかわからないものや宝石・・・まぁ、色々集めたものが入っているんだ。せっかくノイの収納魔法があるから、使えそうなものを持っていこうかなって思ってね。」
「なるほど!私も中を見ていいの?」
「いいよ。ただ、だいぶ散らかってるから、足元には気を付けて。」
「わかった!ありがとう。」
私はルナが物に埋もれないようにするために抱えて持って、アズに続いて洞窟の中に入った。
洞窟の中はすごかった。
金銀財宝とはこのことを言うんだ、ってくらいの様々な宝石や鉱石、武器等であふれていたからだ。
[きらきらだ~~!!!おいらもっ、おいらもほしい!!!]
そう言って腕の中から飛び出そうとするルナを何とかなだめて、私はアズに話しかける。
「アズ、すごいね、これ。どのくらい収納すればいいかな?」
「全部行けたりするかい?しばらくここには戻らないだろうから、盗られるくらいなら自分たちで持っておきたいんだけど・・・。それに、人間の国に行くときの資金になるだろう?」
「わかった。アズがそういうなら、全部収納するね。」
そう言うと私は片っ端から収納魔法に仕舞っていった。
少しルナの叫び声がうるさかったけど、我慢してもらわないとアズが差し出してくれた宝石が全部なくなる気がしたから心を鬼にして絶対にルナを放さなかった。
「よし。全部仕舞えたよ!」
「ありがとう、ノイ。あいかわらず凄い収納魔法だね。あとどれくらい余裕あるんだい?」
「うーん、今の量が後十回はいけるかなぁ・・・。」
「ほんとに規格外だね・・・。……ところで。」
「急に小声でどうしたの?」
「いいから。・・・ルナの落ち込みがひどいから、何か一つ宝石を渡してあげてくれないかい?」
「アズがいいなら、いいよ。うーん、どれにしようかな・・・あっ、この宝石、ルナの瞳の色と一緒だ!これにしよう・・・———」
「待って。ノイ、まさか、収納したものすべて把握でもしてるのかい?」
「え?うん、そうだよ。思い浮かべるだけでどんなものが入ってるか頭に思い浮かぶんだけど・・・もしかしてこれも、普通じゃない?」
アズは小さくため息をついた。
「うん、普通じゃない。ノイ、君は、少し能力を隠して生きたほうがいいかもしれない。変な奴らに狙われる可能性がある。」
「うっ、それは困る・・・うん、わかった。これからは二人の前でだけ能力の話をするよ。」
「うん、それがいい。・・・ノイ。ルナが溶けてきているから、早く宝石を・・・」
「あっ!うん、わかった!!」
私は急いでルナに駆け寄り、こっそりと話しかける。
「ルナ、実は、ひとつだけルナに渡そうと思って収納してない宝石があるんだけど・・・受け取ってくれる?アズからの許可ももらってるよ。」
ぱああああああ、と、幻聴が聞こえてくるほど露骨に笑顔になったルナに思わず吹き出してしまった。
[なっ、何で笑うんだい?!それより、宝石!きらきら!!]
「ふふふっ、わかったわかった。ほら、見てこの宝石。とってもきれいなエメラルドだよ。まるで、ルナの瞳みたいだなって思って選んだんだ。」
[おいらの・・・瞳・・・?]
「うん、そうだよ。ルナの瞳は、この宝石よりももっともっときらきらしているけどね。」
[おいらの、瞳・・・~~、・・・~~げる・・・]
「え?なんて?」
「~~!!そっ、その宝石、ノイにあげるって言ってるのっ!!ノイに持っててほしいんだっ、お、おいらの瞳を、その宝石よりきらきらして綺麗だって言ってくれた、お礼・・・。]
顔を赤くしてそういうルナに愛おしさがこみあげてきて思わず抱きしめてしまった。
「ありがとうっ!!一生大事にするね!!じゃあ、そうだな・・・」
私は頭の中で収納魔法の中を見て、二つの宝石を選んだ。
「じゃあ、代わりに、これ。アズの瞳の色の宝石と、私の瞳の色の宝石。よかったら、これを持っててくれる?」
[い、いいのかい・・・?こんな、綺麗なきらきらを、おいらが持ってても・・・]
「うん、いいんだよ。ルナの瞳の色の宝石をくれたお礼。」
[あ、ありがとうっ、ノイ!!おいらも、一生大事にする!へへっ。]
そう言うといそいそと体の中に宝石をしまうルナ。
いつ見ても不思議な光景だ。
「ノイ。宝石は渡せたかい?」
「うん!でも流れで私も宝石をもらっちゃったんだけど、いい・・・?」
「全然いいよ。むしろ、欲しいと思ったものは全部あげるよ。それだけ二人には感謝してるから。」
「アズ・・・ありがとう。大事にさせてもらうねっ!」
私はもう一度頭の中で宝石を見る。
欲しい色の宝石があったためそれを手のひらに出す。
「アズ。これ・・・ルナと私の瞳の色の宝石なんだけど・・・。よかったら、これをアズにも持っててもらいたいの。ダメかな・・・?」
「それくらい全然かまわないよ。綺麗だね・・・やっぱり宝石はいいな。」
そう言って宝石を様々な角度から見て、懐に仕舞ったアズ。
私も追加で一つアズの瞳の色の宝石を取り出して、なくさないように、自分の体の心臓部分に宝石を埋め込んだ。
元がどろどろだから私の体には物を入れても大丈夫なのだ。
「さて・・・じゃあそろそろ次の目的地に向かおうか。」
「うん、賛成!」
[おいらも大丈夫だよ!]
そうして洞窟を後にして外に出た。
またアズが空に飛びあがって次の目的地を定め、ルナに案内してもらうことになった。
「それにしても、ルナ、ごきげんだね。」
「多分、さっきの宝石がよっぽどうれしかったんじゃないかな。」
「ふふっ、選んだかいがあったよ。」
スキップでもしてるのかなと思ったくらいぴょんぴょん跳ねながら歩くルナ。
かわいいけど、舗装された道路でもない森の中では少し危険だ。
「ルナ、周りをちゃんと見てね?足元も、木の根っことかがあるから・・・」
[大丈夫だよっ、なんたっておいらは今無敵だからね・・・———]
ルナが私たちのほうを向いて後ろ向きで歩き始めた瞬間。
どしんっ。と、大きな音とともにルナが私たちのほうに転がってきた。
「ルナっ?!大丈夫?!怪我は・・・あぁよかった、けがはしてなさそう。いったい何が・・・———」
そこで前を見た私は固まった。
目の前には、全長五メートルはありそうな大きな、ほんとに大きな熊のような生き物がいたからだ。
幸いなことに目の色は茶色で、モンスターではないことがわかる。
「なん・・・え、でかい・・・熊・・・・・・?」
「あぁ、やっと出会えた!久しぶりだね!」
驚いている私を置いてけぼりにしてアズは気さくに話しかける。
[・・・??なぜ、坊ちゃんの声が聞こえ、理解ができる。]
「少し特殊な能力を使っているんだ。こうして話すことができてうれしいよ。」
[おでも、嬉しい。・・・。坊ちゃん。知らせたいことがある・・・。]
「なんだい?何かあったのかい?」
[主が・・・連れ去られた。おで、直接見てない。けど、リコ達が見たって。身振り手振りで教えてくれた。詳しくはわからない。坊ちゃん、リコのとこ、案内する。直接、話す方が、いい。]
あまりの衝撃的な内容にアズも私も開いた口が塞がらない。
まさか一発目で当たりを引くなんて。
「つ・・・連れ去られたのは、本当なのか?死んでは・・・いない・・・?」
[おでが聞いた話だと、そうなる・・・。とりあえず、案内する。ついてきて・・・。]
そう言って、どしん、どしん、とゆっくりと移動を始めた。
アズは放心状態だったが、すぐにハッとした顔になって移動を開始した。
「あ、アズ・・・その、この方はどなた?」
「あ、ああ、ごめん、説明してなかったね。今回の目的地だった、僕と母様の世話をしてくれていたマグスの長だよ。マグスっていうのは魔物で、耐久力や、この身長ながら隠密が得意っていう性質があることで有名だね。そして、リコっていうのは小さな動物だよ。比較的賢い部類の動物だから話もちゃんと聞けると思う。」
「なるほど、教えてくれてありがとう。あまりにも大きかったのと、突然現れたように見えたからびっくりしちゃった。」
[ね、ねぇ・・・二人にはあの大きな生き物の言葉がわかっているのかい・・・?おいらだけわからない・・・魔法の練習したらわかるようになる・・・?]
少ししょんぼりした様子のルナが問いかけてきて、言語理解の力を使えるようにするのを忘れていたと気づいた。
「あっ!!忘れてた!!そうだよね、ごめん。ルナ、今から私がやることを拒絶しないでね。」
[う、うん、わかった!]
返事を聞いた私は、アズの時と同じように言語理解の力が使えるようにするために魔力の紐を作ってルナに絡みつかせた。
一瞬ビクンっとしたルナだったがそのまま受け入れてくれて、魔力の糸はルナに馴染んでいった。
「よし、これで言葉がわかるはずだよ。」
[ありがとう!ノイ!]
そのあとも歩き続けて約一時間がたったころだろうか。
[ついた・・・。ちょっと、待て・・・。]
そういうと、大きすぎない声で遠吠えをするマグス。
その声を聴いて複数の小さな生き物が木から降りてきた。
[あっ、坊ちゃんだ!]
[坊ちゃん!坊ちゃん!]
[聞いて!あのね、あのね。]
[あたちが先に言うの!]
[違うよ!あたちだよ!]
[主が連れ去られちゃった!]
[[[あ~~!!!あたちが言いたかったのに!!!]]]
騒がしく喋り続けているこの生き物は、先ほど話していたリコという動物だろうか。
見た目はリスに似ていると私は思った。
「あー・・・ごめん、代表者一匹を出してくれるかな?直接現場を見たのはどの子だい?」
[坊ちゃんの言葉がわかる!?]
[なんで?どうして?]
[嬉しい!あたち、これからは坊ちゃんとお話しできるのね!]
[お話しするのはあたちだよ!]
[いーや!あたちだから!邪魔しないで!]
[あたちが目撃しまちた!]
[[[あーーー!!!抜け駆けずるい!!!]]]
「ははっ・・・とりあえず、君が目撃したんだね。」
アズは、唯一自分から目撃したと名乗り出たリコを手のひらに乗せる。
「じゃあ、当時のことを聞かせてくれるかい?」
そうしてリコに当時の状況を聞き出すことに成功したのだった・・・———




