第1節 4.外の世界
「やっっと外だあああ!!!」
私たちはついに洞窟の外にたどり着いていた。
これも全部ルナのおかげだ。
時は少しさかのぼる・・・———
———・・・
「ねぇ、そういえばさ、鳥さんには名前はないの?」
鳥さんを先頭に三匹で洞窟を歩きながら私は尋ねる。
[名前・・・?なんだい、それ?きらきらしてる?]
「ノイ、人族くらいしか普通名前は使わないよ。」
「そうなんだ。そっか、名前ないのか・・・」
私は名前がないことに少し寂しさを感じた。
前までの私は自分の名前が嫌いで、名前なんていらないって考えてたのにな。
アズと名前を呼びあうようになって名前の良さがわかってしまった。
「名前っていうのは、その生き物を表すための自分だけの特別な呼び名だよ。ねぇ鳥さん。よかったら、私が名前を付けてもいいかな。」
私は思いついたままに、そう言葉をこぼした。
[呼び名……おいらに呼び名をつけてくれるの?もう”白いの”じゃなくなるの?いいよ!きらきらしたものにしてね!]
そう言って鳥さんはうきうきしながら歩く。
私は改めて鳥さんを観察する。
白いけど、光にかざすと金色に光るプラチナのような羽。
エメラルド色の綺麗な瞳。
見た目は前世でいうシマエナガに似ている気がする。
大きさはバスケットボールより少し小さいくらいだろうか。
なんだか月のようだなと感じた私は、ある名前を思いつく。
「ルナ・・・ルナはどう?私的に響きも好きなんだけど・・・」
[ルナ・・・ルナ・・・・・・]
鳥さんは少し考えこむと、すぐにぱぁっと明るい表情になった。
[ルナ…うん、気に入った!おいら、今日からルナって名乗るよ!ありがとう、ノイ!]
嬉しそうなルナを見て私もうれしくなる。
そうして私たちは魔法のことやこの世界のこと、二人のことなど、色々な話をしながら出口に向かった・・・———
———・・・
「やっっと外だあああ!!!」
そうして冒頭に戻る。
私たちはようやく出口にたどり着いた。
これも全部ルナのおかげだ。
ルナはすごかった。
全ての分かれ道を覚えていたのだ。
そのおかげで一度も迷わずにたったの数時間で外に出ることができた。
「ルナ、ありがとう!!ルナのおかげで外に出られたよ!」
[ふふん、おいらにかかればこんなのちょちょいのちょいさ!]
どや顔するルナはとても可愛かった。
外は薄暗く、今が夜であることがわかる。
だけど、月明かりと星の輝きのおかげでそこまで暗いとは思わなかった。
「わぁ、月が・・・!二つある・・・?!!」
空には大小二つの月が浮かんでおり、異世界感を感じた。
星も、満天の星空とはこのことを言うんだと思ったくらい輝いていた。
「綺麗……」
「あんまり気にしたことなかったけど、確かに夜空って綺麗だよね。」
[うんうん。おいらも、夜は好きだよ!]
二人も賛同してくれて、なんだかうれしくて、仲間っていいなって思った。
ふと周りに生えてる木を見ると、茶色に緑色が混じっている人間の握りこぶしほどのサイズの鳥がたくさんいるのが見えた。
「ん・・・?あれ、あの鳥、なんだかルナに似てない?」
鳥を観察していた私はふとそう思った。
それを聞いて、アズがハッとしたような顔をした。
「君、もしかしてエシガかい?白金で魔力持ち、しかもこのサイズのエシガは初めて見たから気づくのが遅くなったけど……」
[そうだよ。おいら、エシガ。みんなは茶色と緑なのにおいらだけ白いから、みんなに白いのって呼ばれて避けられてたんだ・・・]
「エシガって?」
私は初めて聞く単語に疑問を浮かべて尋ねる。
「エシガは、この森に生息している動物だよ。」
「この世界、動物もちゃんといるんだね!魔物だけかと思ってたよ。そうだ、動物と魔物の違いってなに?」
「魔力を持っているかいないかだね。それでいうと、ルナ……君は魔力を持っているみたいだね。多分、突然変異か何かで魔物化しているんだと思うよ。」
[そうなんだ。おいら、知らなかったよ。誰も……教えてくれなかったから。おいらだけ白いのは、避けられるのは、なんでだろうって思ってたんだ・・・。]
少し悲しそうな顔をしながらルナは呟く。
[おいらは・・・ひとりぼっちなんだな。]
その時、たくさんの声が聞こえてきた。
[白いのが帰ってきた。]
[白いのがなにか連れてきた。]
[主の子供だ。子供だ。]
[生きていたんだ。子供も、白いのも。]
[もう一匹は何だろう?]
[わからない・・・不気味だ。不気味だ。]
[僕たちとは違う白いの。あっちいけ、あっちいけ。]
ルナを拒絶する言葉と、私とアズのことだった。
[もうおいらは白いのじゃないよっ!おいらは、ルナっていうきらきらした名前を貰ったんだ!もう白いのって呼ばないで!]
ルナは必死に反論をするが、エシガ達に効果はない。
[名前……名前って何?]
[わからない。不気味。不気味。]
[あっちいけ。あっちいけ。]
[白いのも、よくわからないやつも、みんなみんな、あっちいけ。]
[あっちいけ。あっちいけ。]
ただひたすらに白いの、あっちいけ、を繰り返すエシガ達。
その言葉にルナは泣く寸前だ。
私はあまりの見ていられない光景に、洞窟内にいた時から思っていたことをルナに提案することにした。
「ルナ。もしよかったらなんだけど・・・私たちと一緒に旅をしてみない?」
[旅・・・?それっておいらに仲間ができるってこと?もう、ひとりぼっちじゃ、なくなる・・・?]
「うん、そうだよ。これから先、どこに行くにも一緒。どうかな、ついてきてくれる?」
ルナは泣きそうな顔で、なのにとびっきりの綺麗な笑顔で返事をした。
[もちろん…っ!!ぜひ、おいらも連れて行っておくれ!]
その顔を見て私も嬉しくなる。
誘ってみてよかった。そう思えるほど素敵な、綺麗な笑顔だった。
これで私を入れて三匹の仲間が集まった。
これからまだまだ何かに出会える、そんな予感がする。
———・・・
私たちはとりあえず夜が明けるのを待つことにした。
いくら月明かりがあるとはいえ、夜は暗い。
暗い中ご飯を探して歩きまわるのは、あんまりいい案ではないと満場一致したからだ。
適当に開けた場所を見つけた私たちは枝を集めて火を起こした。
魔物もモンスターも獣の場合が多く、火を怖がるものが多いからだそうだ。
それに、夜は気温が低くなりやすいから暖があった方がいいってアズが言っていた。
洞窟内で火を起こさなかったのは、密閉空間で火を起こすと危ないってアズのお母さんが言っていたかららしい。
多分、酸素濃度のことを言っているのかなって、前世の記憶を思い出しながら私は思った。
「よし、こんなものかな。」
アズは焚火の様子を見ながらそう言った。
私とルナはアズが火を起こす様子を見ていた。
「アズ、ありがとう。火起こし完全に任せちゃってごめんね。」
「大丈夫だよ。ノイの火魔法はまだ覚えたてだから暴走する可能性もあるし、ルナはそもそも火魔法を使えないからね。役割分担さ。」
[おいらも、魔力があるなら何か魔法が使えるのかな・・・今のままじゃおいら、役立たずだよ・・・]
そう言って少し落ち込む様子を見せるルナに、アズは言った。
「覚えられるよ。なんなら僕が教えよう。それに、君には君にだけの特別な魔法がきっとあるよ。例えば、そうだな・・・その、体になんでも収納しているところを見ると、次元魔法的なものを持っているかもしれないよ。」
そう言ってルナをなだめるアズに、ルナはぱっと顔を上げて反応する。
[ほんとかいっ?!おいら、魔法が使えるようになるんだ!嬉しい、嬉しいよ!ありがとう、アズ!!]
そう言って今にも小躍りを始めそうなルナを止めて、アズは言う。
「そのためにも今は休もう。僕が火の番をするから、二人は先に眠ってて。」
そう言ってアズは焚火の前に座る。
「えっ、アズだけに火の番をさせるわけには・・・」
「大丈夫だから。ほら、早く休まないと朝になっちゃうよ?」
反論をしようとしたが被せるように同じようなことを言われて、しぶしぶ私は横になる。
ルナはすでに眠る体制に入っていて、すぐに寝息が聞こえてきた。
「じゃあ、休むけど・・・なにかあったら絶対声をかけてね?」
「わかったよ。じゃあおやすみ、ノイ。」
「うん。おやすみ、アズ。」
そう言って私は目を閉じた。
だけど、私はアズに言ってないことが一つあった。
それは、私はこの世界に生まれてから睡眠という休息を必要としていないこと。
適当に時間がたったら起きてアズと一緒に火の番をしよう。
そう思った時だった。
「うっ……ぐす………母様…………」
小さな、本当に小さな声でアズが泣いているのが聞こえてきた。
「母様……なんで、どうして………」
私は今更ながらに気が付いた。
アズは、アズのお母さんと離れ離れになってから今まで、一人で落ち着く時間を持てていなかったことに。
狼に襲われて、すぐに私と会ったから、一人でお母さんを思い浮かべる時間がなかったことに。
(配慮が足りなかった・・・アズを追い詰めたのは、私が原因でもある・・・)
私は少し考えて、今夜はこのまま寝たふりをすることにした。
明日のアズの様子を見て、この話を掘り起こすか、聞かなかったことにするか決めようと思う。
そうして私は、アズの小さな泣き声を聞きながら、目を閉じ続けたのだった。
———・・・
明け方頃、アズは少しその場を離れた。
少ししたら帰ってきたので、そのタイミングで私は起き上がった。
「おはよう、アズ。昨夜は……その、大丈夫だった?なにもなかった?」
「ん、おはようノイ。大丈夫だよ。特にモンスターも魔物もこなかったから、のんびり火を見てたよ。」
嘘だ、とは言えず、そっかと返事をした。
ふと、アズの全身が濡れているのに気が付いた。
「あれ、近くに水場があったの?」
「ううん、少し顔を洗いたくなって、水魔法を使ったんだ。けど・・・少し威力を間違えて、このありさまさ。」
そう言って苦笑いをしながら頬をかくアズ。
その目元は少しだけ赤くなっていて、涙の痕を消したかったんだと察した。
それ以上はこの話題に触れない方がいいと思った私は、ルナのほうを見て話を切り替えた。
「それにしても、ルナ、すごい寝相だね・・・。話してるのに全く起きないし、いびきも・・・・・・」
ルナは、ぐーぐーと大きないびきをかきながら、大の字で寝ていた。
最初に眠りについていたはずの場所からはだいぶ離れていて、寝ながら移動したんだと思った。
「ふふっ、そうだね。見ていて面白かったよ。ころころと色んな方向に転がっていくんだ。ノイも今度起きといて見てみなよ。」
「うん、そうする。笑い転げないように気をつけなきゃだね。」
そう言ってくすくすと笑う私たち。
話しているとだんだん太陽も登ってきて、辺りはすっかり明るくなっていた。
「そろそろルナを起こしたほうがいいよね?」
「そうだね。おーい、ルナ。もう朝だよ。起きて、ご飯を探しに行こう。」
ルナはむにゃむにゃとしながら目を開ける。
意外と寝起きは良さそうだ。
[うーん、朝・・・?僕を起こしたのは誰・・・はっ、そうだ!おいら、昨日仲間ができたんだ!お、おはよう!ノイ、アズ!……へへっ、朝の挨拶なんて、初めてかもしれない……]
ルナはうれしそうな顔をしながら起き上がる。
「ふふっ、おはよう、ルナ。」
「おはようルナ。さて。ご飯を探そうと思うんだけど・・・ルナは何を食べていたんだい?」
[おいら?おいらは、そこらの木の実を食べていたよ。探さなくても……ほら、すぐに見つかるんだ!味は、まぁ、美味しいとは思ったことないけど・・・]
そう言ってすぐそばに生えていた木の実をぱくりと食べて見せるルナ。
アズは少し考えた顔をしたが、すぐに元通りになった。
「わかった。ノイは?何を食べるの?」
「私は、多分魔力がご飯なんだ。空気中にある魔力を食べればいいから私のことも気にしないで。」
「そっか、わかった。じゃあ、問題はボクだね・・・」
そういうと、アズの背中に急に翼が生えた。
「えっ?!翼?元の姿になかったのに、どうして・・・?!」
「ははっ、竜種なんだから翼くらいあるよ。飛ぶ時くらいしか出さないけどね。ちょっと待ってて。」
アズは翼を使い空に飛び上がった。
しばらく辺りを見回して、すぐに何かに気づいたような顔で降りてきた。
「ルナ、君の力を借りたい。あっちの方角に向かいたいんだけど、ボクが先頭で歩くと確実に反対方向に行ってしまうんだ・・・」
太陽とは反対の方角に向かって指をさすアズに、ルナは方向を確認するとすぐに了承した。
ルナを先頭に私たちは歩き出した。
私は、これからの旅がどんなものになるのかに思いをはせながら歩く。
———・・・
この時、人間たちの間ではある二つの噂が広がっていた。
曰く、西の森の主が死んだ、と。
曰く、西の森の主を別の場所で見たものがいる、と。
人間たちは噂する。
私たちには聞こえない場所で。
しばらくは金土日18:00投稿になります。
よろしくお願いします。




