第1節 3.迷子
———・・・
アズが落ち着いたのを見計らって話しかける。
「アズ、落ち着いた?聞きたいことがたくさんあるんだけど……」
[ふう。ごめんごめん。落ち着いたよ。…それで、聞きたいことって何かな]
「まず、何で壊そうって思っただけで壊れたの?私はこれから何かに触るたびに壊そうって考えるだけで壊してしまうの……?」
アズは砂の山になった岩山のほうをちらりと見て、少し考えながら話し始める。
[魔力には、複数の力が宿っているんだ。もちろん、破壊の力もある。今回はそれを使った感じになるかな。まず、無機物には抵抗力がないんだ。だから、無機物に意思を乗せた魔力を込めるとその意志通りになることが多い。だけど、その無機物の大きさや性質によって結果は変わる。魔力を見るのに一番適している無機物がそこら辺にある石や岩、それと鉱物ってこと。ノイはこれだけすごい魔力を持ってるから、多分大体何でも壊せちゃうだろうけど……自分から壊そうと思わなければ壊れることは絶対ないよ。だから、安心して。最初の岩はきっと壊したいっていう意思が少し漏れちゃったんだと思う。]
「そっか………。魔力には複数の力があるって言ってたけど、他はどんな力があるの?」
私は話を頭の中で整理しながら質問を続ける。
[そうだね、人間たちの間でどうなのかはわからないけど、代表的なのは守りの力と癒しの力かな。それぞれ適性があって、適性がない魔力は使えはするけど力は弱くなる。ノイは、さっき僕に回復魔法をかけてくれたよね、あの威力だと、癒しの力にかなりの適性があると思うよ!破壊の力も文句なしだと思う!あとは守りの力だね。これは調べるのが難しいから今すぐ調べることはできないかな…。]
「わかった。教えてくれてありがとう。」
私はその場でしゃがんで、歪な手で目の前の砂をすくいとる。
「これ、ほんとに私が壊したんだね………」
[そう言ってるでしょ?本当にすごいことなんだから!これで魔法もたくさん覚えたら無敵になれるかもしれないよ!]
なぜかどや顔をしながらアズが言う。
その言葉に少し引っ掛かりがあった。
「魔法を……覚える?」
魔法って作るものじゃないんだっけ。そう思ってた私にアズは当たり前の顔をして答える。
[そうだよ?親や先生に教わったり、誰かが使ってるのを見て独学で覚えるんだ。得意不得意はあるだろうけど、ノイならどんな魔法でも覚えちゃう気がするな~]
「アズ、魔法を”創る”ことはしないの?」
[ノイってすっごく世間知らずなところがあるよね。魔法は作れないよ、おとぎ話じゃないんだから。元の魔法を元に派生させることはできるけど、それも一握りの生き物しかできないよ。]
私は驚きすぎて声を失った。
私が持ってる創造魔法のレア度が、まさかのおとぎ話レベルだなんて……。
「ね、ねぇアズ。私、魔法を覚えたいんだけど、どうしたらいいかな。」
[うーん、そうだね……炎系の魔法ならボクがある程度教えられるけど、それ以外ってなったら、人間に教わった方がいいと思う。]
そう言ってアズは小さなロウソクほどの火を出して見せた。
「そっか……じゃあ、やっぱり私、早くエルフになりたいな。そして、魔法を覚えて、この世界を旅してみたい。それが、今の私の目標!」
私は勢い良く立ち上がって宣言した。
アズはニコニコと私を見つめていた。
———・・・
[ところで、聞いてなかった気がするんだけど、どうやってエルフになるんだい?]
洞窟の出口を探して歩きながらアズは疑問を投げかけてきた。
「言ってなかったっけ?うーん、私もこれといって具体的な案はないんだけど……。まず、私の元の体を見せたほうがいいよね。」
私は立ち止まり、元のどろどろの姿に戻った。
[これは………スライム、にしては形がはっきりしていなさすぎる。何の種族なんだろう、スライムの突然変異かな…?]
「アズにもわからないんだ…」
種族がわかるかもと少し期待していた私は少しだけ落ち込んだ。
「まあ種族は置いておいて……この体ね、魔力を込めると形が変えれるんだ。」
丸、四角、三角、そして元のゴーレムのような形に変化させる。
[おおっ、すごい!なるほど、それで形を変化させてエルフのような見た目に、ってことだね。でも、形を変化させれるなら今すぐにでもエルフになれるんじゃないのかい?]
私は落ち込んだ様子を見せながら、
「残念だけど、なぜかこれ以上人間に近づけれないんだよ……魔力が足りないのか、熟練度?みたいなのが足りないのか、わからないんだけど・・・」
と答えた。
本当に残念だ。
今すぐエルフになれるのならなりたいのに!!
[まぁでもだいたいわかったよ。要は魔力トレーニングをするべきってことだね。僕も子供のころはやってたなぁ、懐かしい!]
そう言ってアズは目の前に魔力の塊を出し、こねこねといじり始めた。
「何をしているの?」
[まぁみててよ。]
しばらくすると形がはっきりしてきた。
それは私が憧れてやまないエルフの大人の姿だった。
「すごい!!私、こんなに細かく魔力をいじれないよ!エルフだ、すごい、かわいい!」
[ふふん、すごいでしょ。これでも僕も母様に天才だって言われるほどの腕は持ってるからね。]
私はエルフの形をした魔力を見ながらアズに尋ねる。
「ちなみに、コツってあるの?」
[あるよ。作るもののイメージを完璧にすることなんだ。骨、筋肉、血管。すべてをあるべき場所に。そこまで細かく作ってこそ、本物と同じような形になる。って、母様が言っていた言葉なんだけどね。]
「すごいなぁ…アズのお母さん、私も会ってみたかったな。そうだ、アズのお母さんって何者なの?話を聞いてるとすごい生き物だったのかなって思うんだけど………」
私はなんとなく興味本位で聞いてみた。
[言ってなかったっけ?・・・そういえば、僕の種族も言ってなかった気がする。改めて自己紹介をするね。僕は竜種。いわゆるドラゴンだね。母様はここら一体の主をしていたよ。じゃあなんで主の子供の僕が迷ってるのかというとね……僕、方向音痴なんだ。]
てへっと音が聞こえそうな顔でそう言ったアズに私は思わずツッコミを入れる。
「いや、どうみてもとかげじゃん!!!」
じゃん、じゃん、じゃん・・・・・・・・・———
———・・・
[反省した?]
「はい、誠に申し訳ございません……もう二度ととかげとは言いません……だから許して、アズぅ」
[もう。竜種はとかげって言われるのを一番嫌うから、覚えておいてね。]
「はい・・・」
私は土下座をしながら必死に謝っていた。
逆鱗に触れたらしい。
もう二度ととかげとは言わないと心に誓いながらアズに質問する。
「それで・・・一つ疑問なんだけど、主をしてたのに何で襲われちゃったの?」
[それがわからないんだよね・・・]
アズはため息をつきながら続ける。
[最近森の雰囲気が良くなかったんだ。モンスターも増えてきて、魔物たちが襲われる事件が増えていたんだ。その調査の矢先、大量のモンスターに襲われて、母様は・・・。僕は、真っ先に母様が逃がしてくれたから逃げ切れたけど、最後の母様の咆哮が聞こえて、それで母様が先に逝ったんだってわかった。夢中で走り続けて、洞窟の中に逃げ込んで、気が付いたらここにいた……って感じかな。]
「そっか・・・。でも、お母さんもアズが生きててくれてうれしいと思うよ。アズは、これからお母さんの分まで生きよう!ね?」
[うん、そうだね。話を聞いてくれてありがとう、ノイ。何の話をしていたんだっけ・・・そうだ、エルフの話をしていたんだ。あ、そうだった!]
突然何かをひらめいたらしいアズに私は問いかける。
「どうしたの?」
[僕、人化の術使えるんだった。もしかしたら人化の術が参考になるかもしれない。見るかい?僕のニンゲンの姿。]
「えっ!!見たい見たい!アズの人間の姿、絶対かわいいだろうな~!」
私は目をキラキラと変化させてアズを見つめる。
私の予想では、ツン要素があるショタっ子か、中性な感じのショタっ子か、それともあんなショタっ子や、こんなショタっ子・・・・・・・
妄想にふける私を置いてけぼりにしてアズは光に包まれた。
すぐに光は収まり、そこにいたのは、ある程度筋肉が付いた、少しクールな印象がある大人の男性だった。
「・・・だれ?」
「はぁ、ノイ。君、どんな姿を想像していたんだい?」
「だ、だって!アズは小さくてかわいくて、きっとショタっ子だと思ってたんだもん!!」
「ショタ・・・?が何かはわからないけど、僕だってもう成人しているんだ。いつもの姿も、母様がかわいいって言ってくれて好きだったっていうのと、燃費がいいからっていう理由だけで選んでるだけだからね?本来の僕は、けして小さくないよ。」
まさかの事実に、私は膝から崩れ落ちてしまった。
———・・・
「とりあえず、これが人化の術だよ。どんな術なのか教えてあげるから、いつまでも落ち込んでないでこっちにおいで。」
私はため息を一つつくと、立ち上がってアズをまじまじと見る。
深い海のような髪の毛が後ろで軽く結ばれていて、服はゆったりとしたローブのようなもの。
目は澄んだ空のようにきらきらとしていて、腕や頬には所々鱗が残っている。
簡単に言うなら、すっごいイケメンだ。
「すごい、ほんとに人間だ・・・。ところどころ鱗があるのはどうして?」
アズは腕にある鱗をなでながら答える。
「竜種はどうしても自分が竜種だということに誇りを持ってしまうんだ。だから、完全に竜種だという要素をなくすことを嫌うものが多いかな。僕はそこまで気にしないけど、鱗は気に入ってるから残しているんだ。」
「そうなんだ。きらきらしてて綺麗だね。私も好きだな。」
「ふふっ、ありがとう、ノイ。じゃあさっそく教えようか?・・・って思ったけど、僕のおなかがそろそろ限界かもしれないんだ。ご飯を探すためにも、洞窟から出るために歩きながら話そうか。」
「うん、そうだね!賛成!でも、どうやって出口まで行くの?アズは方向音痴だし、私も初めての場所だし・・・」
アズは少しどや顔をしながら答えた。
「大丈夫!僕の鱗を所々落としていったんだ。それをたどれば外に出られるはずだよ。」
「ヘンゼルとグレーテルみたいだね。それなら確かに大丈夫かも!」
「ヘン…グレ……?が何かはわからないけど、大丈夫だと思うよ。さぁ、行こうか。」
そうして私たちは歩き出した。
歩きながらアズは様々な魔法について教えてくれた。
炎の魔法はもちろん、水魔法のことも教えてくれた。
炎で森を焼かないようにお母さんに教えてもらったそうだ。
そして目的の人化の術。
思ったより難しいけれど、これもエルフになるために必要な情報だと思うと、真剣に話を聞けた。
私はまた一歩エルフに近づけた気がして、内心で舞い上がっていた。
だから、少し気が付くのに遅れたのかもしれない。
「たくさん教えてくれてありがとう、アズ!・・・ところでさ。まだ話の途中だけど、ひとつ気になったことがあって・・・聞いてもいい?」
「うん?どうしたの?」
「アズ・・・さっきから同じところぐるぐるしてない?」
アズの顔が笑顔のまま固まった。
「アズ・・・正直に答えてね。迷ってる?」
「・・・・・・はぁ、うん、そうだよ・・・。なぜか鱗が見つからないんだ・・・。ぼ、僕は悪くないよ?鱗がないのが悪いんだから。」
言い訳するアズに少し笑みが漏れた。
何でも教えてくれるアズだけど、たまにドジっ子みたいになるところもアズの魅力のひとつなのだ。
「ふふ、ううん、いいの。大丈夫だよ。じゃあ私も一緒に探すから、次からはもう少し早く言ってね?」
「わかった。ごめんよ、ノイ。」
「大丈夫だから、謝らないで。さっ、探そ!」
そこから手分けして探したが、鱗は中々見つからない。
「うーん、どこにあるんだろう・・・アズのほうはどうかな、声かけてみようかな。」
そう思ってアズの方向に振り向いた直後のことだった。
ぴええええええ!!!
[やめてぇぇぇ、食べないでえええ!!!放して放して!!!!]
そう、叫び声が聞こえたのは。
———・・・
「それで・・・この子は?」
目の前にはアズに掴まれている小鳥のような生き物がいた。
「こいつが僕の鱗を勝手に回収していたみたいなんだ。丸々としているし、僕の非常食にしようかなって。」
[やめてぇぇぇ、食べないでぇぇぇ・・・]
「ほら、見て、ノイ。こいつの体、どうなってるのかわからないんだけど、色々なものが収納されてるんだ。ここに・・・ほらこれ、僕の鱗だよ。」
[おいらは美味しくないよぉぉぉ・・・だから見逃してぇぇ・・・!]
絶妙に嚙み合ってない会話が繰り広げられる。
「アズ・・・非常食はかわいそうだよ。鳥さんも、食べないでって言ってるし、見逃してあげよう・・・?」
「ん?・・・あ、そうか。ノイは別の生き物の言葉がわかるんだったね。そうか、食べないでって言ってるのか・・・。ノイ、言葉を翻訳してもらうことってできるかい?」
「うん、もちろんだよ!あ、でも待って。」
私はふと思いついたことを試してみようと思った。
それは、私の持つ能力を他の生き物も使えるようにするもの。
私の創造魔法があればいける気がしたのだ。
私はイメージをする。
私とアズが魔力の糸のようなものでつながって、そこから私の能力を分け与えるような。
そんなイメージを。
「アズ、今から私がやることを拒絶しないでほしいんだけど、いい?」
「ん?うん、大丈夫だけど・・・何をするの?」
「できてからのお楽しみ!」
私は魔力の糸をアズに絡ませるように伸ばした。
「ッ!」
一瞬抵抗があったけど、すぐにそれもなくなって、魔力の糸はアズに馴染んでいった。
「どう、アズ?変な感じとかしない?」
「うん、平気、だけど・・・随分と大胆なことをするね、ノイは。」
「え?なに?どういうこと??」
アズが何やら少し照れたような顔をしていることに気づき、私は不思議そうな顔になる。
「なにって・・・自分の魔力を相手とつなげるのって、魔物の間じゃプロポーズと同じだよ。知らなかったの?」
「え・・・えええ?!!」
私は、もし今人間の体だったら顔が真っ赤になっていっと思う。
そ、そんな大胆なことをしていたなんて・・・!!
「ち、違うのアズ!いや、嫌いとかそういうわけじゃないんだけど・・・ぷ、プロポーズとか、そういうことは全く考えてなくて・・・!!」
「ははっ、大丈夫。ノイが世間知らずなのは今に始まったことじゃないから、そうだろうと思ってたよ。」
「も、もうっ!からかわないで…!そ、それで、どう?言葉はわかるようになった?」
いまだに助けて、食べないで、おいしくないを連呼している小鳥を見ながら私は尋ねた。
「うん、わかるようになったみたい。ありがとう、ノイ。これ、すっごく便利だね。」
そう言ってアズは手につかんだ小鳥を顔の前に持ってきた。
「ねぇ、落ち着いて。食べないから、話を聞かせて。どうして僕の鱗を拾ってたんだい?」
[食べないd・・・食べない?ほんと?おいら食べられない?]
小鳥は涙にぬれた顔をきょとんとさせた。
「うん、食べないから。だから質問に答えてくれると嬉しいな。」
[食べないなら、おいら、ちゃんと答えるよ!!だから、離してくれないかな?]
そう言ってうるうると瞳を潤ませてアズを見る小鳥。
「逃げないならいいよ。逃げたら食べちゃうからね。」
[ひっ、逃げない、逃げないよお!!]
アズはおびえた様子の小鳥をつかんでいた手を開き、手の上に乗せなおした。
「それで、どうして僕の鱗を拾っていたんだい?君のせいで僕たちは今迷子なんだ。」
[お、おいら、きらきらしたものに目がなくて・・・綺麗だなぁって、つい拾っちゃったんだ。大事なものだったなんて知らなくて・・・許してくれよお]
そう言って瞳をうるうるさせて懇願し始める小鳥。
「うん…まぁ、綺麗だって言ってくれるのはうれしいから、許すよ。僕も、非常食って言ってごめんね。でも、どうしようかなぁ、これじゃ外までの道がわからないな・・・」
非常食という言葉に一瞬おびえた小鳥は、すぐにハッとした顔になる。
[外・・・?洞窟の外に出たいのかい?それならおいらがわかるよ!!案内してあげようか?]
「いいのかい?それは助かるよ!じゃあこれで僕の鱗を拾ったことはチャラにしてあげる。」
そういって翼と手で握手を交わして和解した様子の二人(二匹)をみて、不思議な気持ちになる。
前世でも、この世界に生まれた時も、私は一人だった。
でもこれからは違う、なんだかそんな気がした。
次回投稿は6/19(金)18:00です。




