第百六十四日目
迎え火の翌日。
夜。
神社の境内には提灯が並んでいた。
赤い灯り。
黄色い灯り。
風に揺れている。
「今日は夜店だけ」
奈緒が言う。
「祭りではないのですか」
「うん」
「お盆だから」
静かな集まりだった。
盆踊りもない。
大きな花火もない。
けれど。
人はたくさんいた。
家族連れ。
子どもたち。
お年寄り。
皆ゆっくり歩いている。
その空気が心地良かった。
境内には小さな屋台。
ラムネ。
綿菓子。
冷やしきゅうり。
射的。
ヨーヨー釣り。
由美は当然のように走って行く。
奈緒は当然のように追い掛ける。
いつもの光景だった。
リツカは少し遅れて歩く。
すると。
境内の端で、
一人のおばあさんが団扇を配っていた。
手作りだった。
朝顔。
金魚。
ひまわり。
夏の絵が描かれている。
「好きなの選びな」
そう言われる。
リツカは並んだ団扇を見る。
その中に。
ひまわりの団扇があった。
一面の黄色い花。
麦わら帽子の日を思い出す。
自然と手が伸びる。
「これにします」
おばあさんが笑う。
「いいねぇ」
「元気が出る花だ」
リツカは団扇を受け取る。
風を送る。
ぱたぱた。
少し涼しい。
その時。
神社の石段から町を見る。
提灯の灯り。
人々の笑い声。
遠くの家々の明かり。
穏やかな夜だった。
派手ではない。
特別でもない。
けれど。
リツカは思う。
こういう夜を、
ずっと覚えているのかもしれない。
大きな出来事よりも。
何気ない夏の夜を。




