表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/138

第百六十二日目②

夏市の帰り道。


午後の日差しは少し傾いていた。


けれど。

まだ暑い。

十分に暑い。


「休憩しようかねぇ」

フミが言った。

誰も反対しなかった。


特に由美は即座に賛成した。

暑さに弱かった。


商店街の端。

少し古い木造の店があった。

暖簾が揺れている。


店先には風鈴。

ちりん。

優しい音だった。

「こんにちはー」

フミが声を掛ける。


奥から、

白髪のおばあちゃんが現れた。

「いらっしゃい」

穏やかな笑顔だった。


長い時間を生きてきた人の顔だった。

「相変わらず元気そうだねぇ」

「フミちゃんもねぇ」

二人は楽しそうに笑う。


昔からの知り合いらしかった。

店の中へ入る。

木の机。

木の椅子。

古い柱。

どこか懐かしい空気だった。


その時。

由美が元気よく言った。

「かき氷!」

待っていましたと言わんばかりだった。


おばあちゃんが笑う。

「今日は暑いからねぇ」

メニューが置かれる。


リツカは見る。

いちご。

レモン。

メロン。

宇治金時。

分からない言葉が混ざっていた。


「宇治金時とは何ですか」

奈緒が少し考える。

「大人のかき氷」

説明になっていなかった。


しばらくして。

運ばれてくる。

リツカの前に置かれたのは宇治金時。


思わず見つめる。

山だった。

白い氷の山。

その上に緑色。

さらに小豆。

不思議な見た目だった。


「溶ける前に食べて」

奈緒が言う。


リツカは匙を持つ。

一口。

しゃり。

冷たい。

とても。

頭が驚く。

口の中に涼しさが広がる。


そして。

抹茶の香り。

ほんのり苦い。

その後に甘さが来る。

さらに小豆。

優しい甘さだった。


リツカは目を瞬かせる。

「美味しいです」

奈緒が笑う。

「でしょ」

由美はすでに半分食べていた。


早かった。

異常に。

店の外では蝉が鳴いている。


みんみんみん。

風鈴が鳴る。

ちりん。

氷を削る音が聞こえる。


しゃっ。

しゃっ。

夏の音だった。


リツカはもう一口食べる。

冷たい。

けれど。

不思議と心地良い。


その時。

店の壁に飾られた写真が目に入った。


昔の商店街。

祭りの写真。

運動会。


たくさんの人々。

笑顔ばかりだった。

「昔の写真ですか」

おばあちゃんが頷く。


「そうだよ」

「この町もずいぶん変わったからねぇ」


写真を見る。

何十年も前の景色。

今とは違う。


けれど。

笑っている人たちは同じだった。


リツカは思う。

町も変わる。

人も変わる。

季節も変わる。


でも。

変わらないものもある。

きっと。


こうして誰かと笑う時間は、

昔も今も同じなのだろう。

かき氷を食べ終える頃。

外から風が吹いた。


風鈴が鳴る。

ちりん。

その音に、

店のみんなが少しだけ空を見上げた。


夏の青空が広がっている。


そして遠くには、

大きな入道雲が見えた。

奈緒がぽつりと言う。


「もうすぐお盆だね」

フミが頷く。


由美も少し静かになる。

リツカだけが首を傾げた。

また知らない言葉だった。


「お盆とは何ですか」

フミは優しく微笑む。

「大切な人が帰ってくる日だよぉ」


リツカはその言葉を、

しばらく胸の中で繰り返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ