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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第百三十二日目②

浴衣作りが始まった。


まず最初に必要なのは。


採寸だった。


「採寸?」


「身体の大きさを測るの」


奈緒が説明する。


リツカは頷く。


なるほど。


必要そうだった。


その時。


フミが引き出しから細長いものを取り出す。


くるくる巻かれている。


数字が並んでいる。


「これは?」


「メジャー」


「めじゃー」


初めて見る道具だった。


フミが引っ張る。


するすると伸びる。


長い。


とても長い。


リツカの目が少し輝く。


新しい道具は好きだった。


薬師である。


知らない道具を見ると興味が湧く。


その時。


わふ。


ハクも興味を持った。


伸びる紐だと思ったらしい。


がぶっ。


「駄目です」


即座に捕獲された。


不満そうだった。


採寸が始まる。


肩幅。


腕の長さ。


身長。


裾の長さ。


フミが測る。


奈緒が記録する。


リツカは動かない。


まるで薬草標本だった。


「もう少し力抜いて」


「はい」


抜いている。


だが。


相変わらず姿勢が良すぎた。


由美ならきっと笑っただろう。


採寸が終わる。


机の上に数字が並ぶ。


それを見ながら、


フミが反物を広げた。


藍色。


深い夏の空のような色。


「切るよぉ」


リツカは少し驚く。


切る。


こんな綺麗な布を。


躊躇なく。


フミは裁ちばさみを入れる。


しゃっ。


小気味良い音。


布が分かれる。


「すごい」


思わず呟く。


薬草を刻むのと少し似ていた。


必要な形へ整える。


無駄なく。


丁寧に。


その後。


しつけ糸で仮止めをする。


ここからはリツカの仕事だった。


針を持つ。


糸を通す。


縫う。


一針。


また一針。


真剣だった。


とても真剣だった。


奈緒が覗く。


「どう?」


「曲がりました」


「大丈夫だよ」


「曲がりました」


「誰も見ないって」


リツカは首を横に振る。


「私が見ます」


奈緒が笑う。


らしい答えだった。


縫い目をほどく。


やり直す。


また縫う。


少しずつ。


少しずつ。


布が形になっていく。


夕方。


居間には静かな時間が流れていた。


針が進む音。


風鈴の音。


遠くの蝉の声。


夏の音だった。


その時。


フミがぽつりと言った。


「服もねぇ」


「?」


「薬も同じなんだよ」


リツカが顔を上げる。


フミは縫いかけの布を撫でた。


「誰かを大事に思って作るとね」


少し笑う。


「ちゃんと伝わる」


リツカは黙って聞いていた。


薬もそうだった。


ただ効けばいいわけじゃない。


その人に合うように。


少しでも楽になるように。


願いながら作る。


だから。


同じなのかもしれない。


服も。


薬も。


誰かを想う気持ちで作るもの。


窓の外を見る。


夕焼けだった。


藍色の布が赤く染まって見える。


完成まではまだ遠い。


けれど。


リツカは少し楽しみになっていた。


この布が。


どんな姿になるのか。


そして。


数日後。


浴衣作り最大の難関がやって来る。


帯選びである。


由美が本気を出す。


誰も止められない。

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