第六十三日目
ゴールデンウィーク初日。
朝から快晴だった。
青い空。
柔らかな風。
どこか浮き立つような空気。
しかし。
リツカは少し緊張していた。
なぜなら。
奈緒が昨夜、
こう言ったからだ。
「明日からしばらくお休みだから」
意味が分からなかった。
薬局がやすみ?
日曜日は休む。
それは知っている。
だが。
しばらくって……
今日もリツカは早起き
奈緒は案の定起きてこない
フミは朝ごはんを作っている。
「今日は」
「休みだよ」
「休みって」
「しばらくって」
「お仕事なくなっちゃうんですか?」
リツカは小さく呟いた。
フミは優しくそんなリツカを眺めている。
朝ごはんを食べて
ハクの散歩に行く。
「おはよう、リツカちゃん」
商店街の人が声をかけてくれる。
最初の頃は、
ハクにひっぱられているだけのリツカだったが。
今ではハクもリツカに合わせて歩いてくれる。
商店街はいつもの朝だったが
なんとなく活気があるような
のんびりしているような気がした。
「お休みだから?」
リツカは気になって薬局の前に行ってみた。
「ハクさん」
「薬局はありました」
「しまっています」
「あってよかったです」
リツカはホッとした。
ふと気づいた、
薬局には手書きの張り紙があった。
”5月3日~5月5日
お休みさせていただきます”
しばらくお休み……
「しばらくお休みなんですね」
ハクの散歩の帰り道。
商店街に飾ってあるものに気付いた。
小さな……魚?
色とりどりの
ハクの散歩から帰ると、
奈緒が起きていた。
「おかえり」
「ただいま」
今では自然に言えるようになった。
「奈緒さん」
「どうした?」
「商店街のさかな?がかざってありました」
「あぁ、それはね…」
奈緒は教えてくれなかった。
思いついたように。
「今度、見に行こう!」
それだけ。
その時、フミが
「リツカ、畑行くよ」
「今日はおやすみでは?」
「畑にはお休みはないんだよ」
「行きます!」
リツカは畑で空を見上げる。
青空。
白い雲。
畑にはみずみずしい野菜たち。
「綺麗です」
「お野菜も空も」
フミが微笑む。
風が吹く。
野菜の葉が揺れる。
まるで本当に生きているようだった。
「素敵ですね」
そう呟く。
畑からの帰り道、
「リツカちゃん!」
聞き慣れた声。
由美だった。
もはや驚かない。
「やっぱりきました」
「失礼ねぇ」
由美が笑う。
その隣には小さな女の子がいた。
五歳くらい。
少し恥ずかしそうにしている。
「うちの孫」
由美が紹介する。
女の子はリツカを見上げる。
そして。
「おねえちゃん」
「はい」
「きれい」
リツカが固まる。
奈緒も固まる。
由美も固まる。
女の子は真剣だった。
「おひめさまみたい」
完全な不意打ちだった。
リツカは何と言えばいいか分からない。
頬が少し赤くなる。
「ありがとう」
やっとそう答えた。
女の子は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、
リツカも少し笑う。
縁側でみんなでくつろいでいた時、
由美が言った。
「次は草木染めやろうか!」
「草木染め」
リツカの目が輝く。
植物。
色。
布。
薬草にも通じる世界だった。
奈緒が苦笑する。
「また新しい趣味増えるね」
リツカは少し考えて。
そして素直に答えた。
「楽しみです」
その笑顔は、
この町へ来た頃よりずっと柔らかくなっていた。




