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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第二十五日目②

桜の下。

シートの上には料理が並んでいた。


唐揚げ。

卵焼き。

おにぎり。

煮物。

サンドイッチ。

団子。


どこからこんな量が集まったのか分からない。

リツカは真剣な顔で考えた。


町の備蓄だろうか。

そんなことを考えていると。


「はいはい!」

由美が立ち上がった。


嫌な予感がする。

奈緒も同じことを思ったらしい。

少し遠い目をしていた。


「今年もやります!」

由美が宣言する。

「お弁当争奪じゃんけん大会ー!」


わあああっ。

なぜか歓声が上がる。


リツカだけが状況を理解していない。

「奈緒さん」

「なに?」

「戦いですか」


奈緒が吹き出した。

「戦いじゃない」

「争奪と聞こえました」


確かに聞こえた。

奈緒は否定できなかった。


由美が説明を始める。

「各家庭、自慢のおかずを持ち寄っております!」

パン屋のおばさんが胸を張る。

「今年はサンドイッチ負けないわよ」

魚屋のおじさんも負けていない。

「うちの唐揚げは最強だ」


なぜ皆そんなに真剣なのだろう。

リツカには分からない。


由美が両手を上げる。

「勝者から好きなおかずを選べます!」

歓声。

「負けた人は後!」


さらに歓声。

完全に祭りだった。


そして。

由美がリツカを見る。

「もちろん参加!」

「私ですか」

「もちろん!」

リツカは困惑した。

何をするのだろう。


すると。

真紀が近寄ってくる。

「じゃんけん知らない?」

「知りません」


真紀が固まった。

「本当に?」

「はい」


由美まで固まった。

星波町に衝撃が走る。

じゃんけんを知らない人間がいた。


由美は使命感に燃え始めた。

「よし」

「今から教える!」

なぜか拍手が起きる。


リツカは椅子に座らされる。

由美が手を出す。


「これがグー」

「石」

「なるほど」


「これがチョキ」

「鋏」

「はい」


「これがパー」

「紙」

リツカは頷く。

理解はできた。


しかし。

次の説明で止まる。

「石は鋏に勝つ」

「はい」

「鋏は紙に勝つ」

「はい」

「紙は石に勝つ」

「……?」


リツカが固まった。

奈緒が吹き出す。

「そうなるよね」


「待ってください」

リツカは真剣だった。

「紙が石に勝つのですか」

「勝つ」

「なぜですか」

誰も答えられない。


由美も考える。

真紀も考える。

魚屋のおじさんまで考える。


結果。

「昔からそうだから」

「理不尽です」

即答だった。


大爆笑が起きる。

「理不尽て」

「でもそうなの!」

リツカは納得していない。


だが。

どうやらこの世界では、

理不尽なルールが受け入れられているらしい。


数分後。

じゃんけん大会開始。

由美が宣言する。

「最初はリツカちゃん対源蔵さん!」


源蔵が笑う。

「容赦せんぞ」

「受けて立ちます」

なぜか戦う雰囲気になっている。


「じゃーんけーん」

全員が声を揃える。

「ぽん!」


源蔵。

グー。

リツカ。

パー。


一瞬静寂。

そして。

大歓声。

「勝ったー!」

「リツカちゃん勝った!」


リツカは目を丸くする。

「紙が石に勝ちました」

まだ納得していない。

奈緒は笑いすぎて涙が出ていた。


桜吹雪が舞う。

笑い声が響く。

そしてリツカは、

人生で初めて手に入れた勝利の報酬として、

魚屋のおじさん特製の唐揚げを獲得した。


その後。

なぜか七連勝する。

星波町最強のじゃんけん初心者が誕生した瞬間だった。

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