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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第五日目 ⑤

「町のみんなに教えなきゃねぇ」


由美は満面の笑みだった。


リツカは少し嫌な予感がした。


「何をでしょうか」


「今のことよ」


「今の?」


「公園の男の子」


リツカは首を傾げる。


「熱があっただけです」


「それを見つけたんでしょう?」


「顔色が悪かったので」


由美は感心したように何度も頷く。


「やっぱりすごいわぁ」


「普通です」


「普通じゃないのよ」


どうやら納得してもらえないらしい。


由美は買い物袋を持ち直す。


そして。


「じゃあねぇ」


そう言って去っていった。


嫌な予感だけを残して。


リツカは少し考えた。


何か起きる気がする。


だが。


何が起きるのかは分からない。


結局そのまま帰宅した。


玄関を開ける。


「ただいま戻りました」


「おかえり」


フミの声が返る。


いつものやり取り。


なぜだろう。


少し安心した。


夕方。


奈緒も帰宅する。


「ただいまー」


「おかえりなさい」


そして。


奈緒は開口一番こう言った。


「リツカ」


「はい」


「今日、公園で何かした?」


リツカが固まる。


早い。


あまりにも早い。


「どうして知っているのですか」


奈緒が吹き出した。


「やっぱり何かあったんだ」


「……」


しまった。


先に聞かれてしまった。


奈緒は鞄を置く。


「由美さんから聞いた」


やはりだった。


由美である。


リツカは少し遠い目になった。


「速いですね」


「由美さんだからね」


フミも笑っている。


どうやら由美は前科があるらしい。


事情を説明する。


公園。


男の子。


熱。


奈緒は静かに聞いていた。


そして最後に頷く。


「うん」


「リツカらしい」


「そうでしょうか」


「そうだよ」


奈緒は少しだけ微笑んだ。


「困ってる人がいたら放っておけないでしょ」


リツカは考える。


確かにそうだった。


薬師だった頃も。


夜中に呼ばれれば起きた。


遠くの村まで薬を届けた。


できることがあるならやった。


それが当たり前だった。


奈緒は冷蔵庫からお茶を出す。


「でも」


「はい」


「無理はしないこと」


リツカは首を傾げる。


「無理?」


「全部一人で背負わない」


奈緒の声は優しかった。


「困った時は相談」


「はい」


「約束」


「約束します」


真面目な返事だった。


奈緒は少し安心する。


リツカは優しい。


優しすぎるくらいに。


だからこそ心配だった。


その日の夕食は唐揚げだった。


リツカは大喜びした。


まだ食べたことが少ない。


外はさくさく。


中は柔らかい。


とても美味しい。


「好きです」


「よかった」


フミが笑う。


そして翌日。


奈緒の予想通り。


星波町では新しい噂が生まれていた。


『公園で子どもの異変に気付いた薬師さん』


『とても優しい娘さん』


『奈緒ちゃんのところにいる子』


噂は海風より速かった。


そしてその噂がきっかけで、


リツカは思いがけない人物と出会うことになる。


星波町でたった一人の、


漢方薬店の店主と。


第五日目 ⑥ 町の薬屋 へ続く

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