第五日目 ③
「薬局のみんなでお茶しようよ」
真紀の一言で、
話はあっという間に決まった。
奈緒は少し困った顔をしている。
「仕事中なんだけど」
「昼休憩くらいいいでしょ」
真紀は気にしていない。
他のスタッフたちも笑っている。
「リツカちゃん来たなら歓迎会だよ」
「急だなぁ」
奈緒が苦笑する。
リツカは状況についていけていなかった。
歓迎会。
何か特別な儀式だろうか。
「歓迎されます」
真面目に言う。
真紀が吹き出した。
「うん、歓迎する」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
さらに笑いが起きた。
休憩室へ案内される。
薬局の奥にある小さな部屋。
机。
椅子。
冷蔵庫。
電子レンジ。
リツカは電子レンジを見つめる。
「温める箱です」
「覚えたんだ」
奈緒が笑う。
少し誇らしかった。
机の上にはお茶とお菓子。
皆が集まる。
真紀。
受付の佐伯さん。
事務の森さん。
薬剤師の高橋先生。
そして奈緒。
リツカは少し緊張した。
こんなに大勢と話すのは久しぶりだった。
「リツカちゃんって何歳?」
「二十です」
「若い!」
「奈緒先生より若い!」
「それは当たり前」
奈緒が即答する。
部屋に笑いが広がる。
リツカも少しだけ笑った。
最初の頃なら、
何を話していいか分からなかった。
でも今は違う。
この人たちは怖くない。
皆優しい。
高橋先生がお茶を飲みながら聞く。
「星波町には慣れた?」
リツカは少し考えた。
そして頷く。
「はい」
「好きな場所もできました」
「おお」
「どこ?」
リツカは迷わず答える。
「海です」
奈緒が少し嬉しそうな顔をした。
「あと神社です」
「クロがいるから?」
「はい」
皆が笑う。
どうやらクロは町でも有名らしい。
その時。
真紀が思い出したように言う。
「そういえば」
「?」
「リツカちゃんって薬草詳しいんだよね?」
リツカは頷く。
「仕事でしたので」
高橋先生が興味深そうに身を乗り出す。
「どんな勉強してたの?」
リツカは少し考えた。
どう説明すればいいだろう。
異世界の薬草学。
毒草。
調合。
全部話すわけにはいかない。
けれど。
話しているうちに、
自然と目が輝き始める。
薬の話だった。
好きだったもの。
長い時間をかけて学んだもの。
皆は驚きながら聞いている。
そして奈緒は気付く。
リツカがこんな顔をするのは、
薬の話をしている時だけだった。
生き生きしている。
楽しそうだった。
その姿を見て、
奈緒は少し安心した。
異世界の知識は、
この世界では役に立たない。
そう思い込んでいるのかもしれない。
けれど違う。
リツカの中には、
確かに積み重ねてきたものがある。
それは消えていない。
昼休憩の終わりを知らせる時計が鳴る。
皆が立ち上がる。
「また来てね」
「はい」
「次はお菓子もっと用意しとくから」
「ありがとうございます」
何度も頭を下げるリツカ。
真紀が笑う。
「本当に真面目だなぁ」
帰る前。
奈緒はそっとリツカに声を掛けた。
「楽しかった?」
リツカは少し考える。
そして。
小さく微笑んだ。
「はい」
「皆さんと話すのは楽しいです」
奈緒も笑う。
薬局の休憩室。
ただのお昼休み。
けれどリツカにとっては、
この世界に居場所が増えた日だった。
そしてこの帰り道。
公園で遊ぶ子どもたちの中に、
ある小さな異変を見つけることになる。




