第五日目②
風呂敷包みを胸に抱えながら、
リツカは商店街へ続く道を歩いていた。
今日は一人だ。
奈緒もいない。
フミもいない。
ハクもいない。
少しだけ心細い。
けれど。
不思議と怖くはなかった。
知っている道だったから。
角を曲がれば魚屋がある。
その先には八百屋。
踏切の向こうに駅。
そして薬局。
全部知っている。
まだ五日目なのに。
リツカは少し嬉しくなった。
商店街へ入る。
開店したばかりの店。
並べられる野菜。
掃除をする店主。
朝の活気があった。
「おはよう」
魚屋のおじさんが声を掛ける。
「おはようございます」
自然に返事が出る。
おじさんは笑った。
「今日は一人か」
「はい」
「偉いなぁ」
何が偉いのか分からない。
けれど。
少し嬉しかった。
歩いていると、
パン屋の前から良い匂いが漂ってきた。
焼きたてのパン。
甘い香り。
香ばしい香り。
リツカは立ち止まる。
思わず見てしまう。
窓の向こう。
たくさんのパン。
丸いもの。
長いもの。
四角いもの。
種類が多すぎる。
「すごいです……」
小さく呟く。
その時。
店の中から女性が顔を出した。
「おはよう」
「おはようございます」
「今焼けたばっかりよ」
そう言って見せてくれたパンは、
まだ湯気が立っていた。
リツカは目を丸くする。
「温かいです」
「温かいよ」
当たり前の会話だった。
でも。
町の人たちは皆、
こうして話しかけてくれる。
それが少し嬉しかった。
「ありがとうございます」
頭を下げて再び歩く。
やがて。
薬局の看板が見えた。
リツカの足取りが少し速くなる。
ちゃんと届けなければ。
頼まれた仕事だから。
自動ドアの前に立つ。
スッ。
扉が開く。
リツカは少しだけ立ち止まった。
やっぱり不思議だ。
五日経っても不思議だった。
そして。
薬局へ入る。
受付の真紀が気付いた。
「あれ?」
「リツカちゃん?」
「こんにちは」
「一人で来たの!?」
驚いた顔。
リツカは頷く。
「お弁当です」
風呂敷を差し出す。
真紀が吹き出した。
「届けに来たんだ」
「はい」
真面目な返事だった。
その時。
奥から奈緒が出てくる。
「どうしたの?」
そして。
リツカを見つける。
一瞬驚いた。
「リツカ?」
「お弁当です」
風呂敷を差し出す。
奈緒は数秒固まった。
それから。
少しだけ笑った。
「ありがとう」
リツカは胸の奥が温かくなる。
ありがとう。
たった一言。
でも。
とても嬉しかった。
異世界では。
薬を作るのが仕事だった。
感謝されることもあった。
けれど。
今日のありがとうは少し違った。
家族に頼まれて。
町を歩いて。
届けたお弁当。
その「ありがとう」だった。
その時。
真紀がいたずらっぽく笑う。
「せっかくだし」
「はい?」
「奈緒先生のお昼休憩まで待つ?」
奈緒が嫌な予感をした顔になる。
真紀はさらに笑う。
「薬局のみんなでお茶しようよ」
リツカはまだ知らない。
この提案が、
薬局の人たちとの距離を大きく縮めることになることを。




