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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん
第二日目

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13/31

第二日目⑥

神社を出る頃には、

昼前になっていた。


空はすっかり晴れている。


石段を下りながら、

リツカは何度も周囲を見回していた。


小さな祠。


古い石灯籠。


風に揺れる木々。


知らない文化なのに、

どこか落ち着く場所だった。


「神社好き?」


奈緒が聞く。


「……静かで、

優しい場所です」


リツカは素直に答えた。


奈緒は少し考える。


「まあ、

地元の人もそんな感じかも」


特別な場所というより、

“町にある普通の場所”。


そんな距離感だった。


坂を下りる途中、

また踏切の音が聞こえた。


カン、カン、カン——


今度は、

リツカもそこまで驚かなかった。


遮断機が下りる。


海沿いを、

二両編成の電車が走り抜ける。


窓際には学生。


眠そうな会社員。


買い物袋を持ったおばあさん。


いろんな人が乗っていた。


「……人が、

あんなに入ってるんですね」


「満員だともっとすごいよ」


奈緒が笑う。


想像できなかった。


あの速度で、

あれだけの人数を運ぶ。


魔法なしで。


リツカは改めて、

この世界の“技術”に圧倒される。


その時。


ぐぅぅ……


小さく音が鳴った。


リツカが固まる。


奈緒が吹き出した。


「また?」


どうやら、

考えるとお腹が空くらしい。


リツカは恥ずかしそうに俯く。


「……すみませ」


途中で止める。


奈緒が笑った。


「ちゃんと止められるようになってる」


成長成長、

と軽く言われる。


リツカは少しだけ困った顔で、

でも小さく笑った。


駅前へ出ると、

町は少しだけ賑やかだった。


小さなスーパー。


パン屋。


古い喫茶店。


郵便局。


駅舎の前には、

自転車が並んでいる。


リツカは視線を忙しなく動かした。


情報が多い。


見るもの全部が珍しい。


特に。


ガラス張りの自動ドア。


奈緒が入口へ向かう。


その時だった。


何もしていないのに。


扉がすっと横へ開いた。


リツカが固まる。

「っ!?」


後ろへ半歩下がる。


扉を見る。


誰も触っていない。


なのに開いた。


奈緒が振り返る。

「どうしたの?」


「と、扉が……!」

「開いたね」


「勝手に……!」

リツカは真剣だった。


かなり真剣だった。


「危険ではありませんか?」

「危険じゃない」


「ですが、

誰も触れていません」


奈緒は少し考えたあと、

「自動ドアだから」


と言った。


自動。


ドア。


説明になっていない。


リツカは慎重に近付く。


扉は閉じている。


恐る恐る手を伸ばす。


触れる前に。


また開いた。


「ひゃっ!」


奈緒が吹き出した。


「大丈夫だって」


「生きています」

「生きてない」


そのやり取りを聞いていたレジの女性が、

思わず笑う。


リツカはしばらく観察したあと、


「……便利な魔道具ですね」


と呟いた。


「魔道具じゃないんだけどなぁ」


奈緒が苦笑する。

「入る?」


奈緒がスーパーを指差した。


リツカは少し躊躇する。


けれど。


「……見てみたいです」


好奇心の方が勝った。


奈緒は少し笑う。


「じゃ、

迷子にならないでね」


その一言に、

リツカはものすごく真剣な顔で頷いた。


しかし。


十分後。


「奈緒さん……?」


野菜売り場で、

リツカは早速奈緒を見失った。

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