第二日目⑥
神社を出る頃には、
昼前になっていた。
空はすっかり晴れている。
石段を下りながら、
リツカは何度も周囲を見回していた。
小さな祠。
古い石灯籠。
風に揺れる木々。
知らない文化なのに、
どこか落ち着く場所だった。
「神社好き?」
奈緒が聞く。
「……静かで、
優しい場所です」
リツカは素直に答えた。
奈緒は少し考える。
「まあ、
地元の人もそんな感じかも」
特別な場所というより、
“町にある普通の場所”。
そんな距離感だった。
坂を下りる途中、
また踏切の音が聞こえた。
カン、カン、カン——
今度は、
リツカもそこまで驚かなかった。
遮断機が下りる。
海沿いを、
二両編成の電車が走り抜ける。
窓際には学生。
眠そうな会社員。
買い物袋を持ったおばあさん。
いろんな人が乗っていた。
「……人が、
あんなに入ってるんですね」
「満員だともっとすごいよ」
奈緒が笑う。
想像できなかった。
あの速度で、
あれだけの人数を運ぶ。
魔法なしで。
リツカは改めて、
この世界の“技術”に圧倒される。
その時。
ぐぅぅ……
小さく音が鳴った。
リツカが固まる。
奈緒が吹き出した。
「また?」
どうやら、
考えるとお腹が空くらしい。
リツカは恥ずかしそうに俯く。
「……すみませ」
途中で止める。
奈緒が笑った。
「ちゃんと止められるようになってる」
成長成長、
と軽く言われる。
リツカは少しだけ困った顔で、
でも小さく笑った。
駅前へ出ると、
町は少しだけ賑やかだった。
小さなスーパー。
パン屋。
古い喫茶店。
郵便局。
駅舎の前には、
自転車が並んでいる。
リツカは視線を忙しなく動かした。
情報が多い。
見るもの全部が珍しい。
特に。
ガラス張りの自動ドア。
奈緒が入口へ向かう。
その時だった。
何もしていないのに。
扉がすっと横へ開いた。
リツカが固まる。
「っ!?」
後ろへ半歩下がる。
扉を見る。
誰も触っていない。
なのに開いた。
奈緒が振り返る。
「どうしたの?」
「と、扉が……!」
「開いたね」
「勝手に……!」
リツカは真剣だった。
かなり真剣だった。
「危険ではありませんか?」
「危険じゃない」
「ですが、
誰も触れていません」
奈緒は少し考えたあと、
「自動ドアだから」
と言った。
自動。
ドア。
説明になっていない。
リツカは慎重に近付く。
扉は閉じている。
恐る恐る手を伸ばす。
触れる前に。
また開いた。
「ひゃっ!」
奈緒が吹き出した。
「大丈夫だって」
「生きています」
「生きてない」
そのやり取りを聞いていたレジの女性が、
思わず笑う。
リツカはしばらく観察したあと、
「……便利な魔道具ですね」
と呟いた。
「魔道具じゃないんだけどなぁ」
奈緒が苦笑する。
「入る?」
奈緒がスーパーを指差した。
リツカは少し躊躇する。
けれど。
「……見てみたいです」
好奇心の方が勝った。
奈緒は少し笑う。
「じゃ、
迷子にならないでね」
その一言に、
リツカはものすごく真剣な顔で頷いた。
しかし。
十分後。
「奈緒さん……?」
野菜売り場で、
リツカは早速奈緒を見失った。




