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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第三百九日目②

神社を出ると、


参道はさっきよりも賑やかになっていた。


「あったかい甘酒ー!」


「焼きたてのお団子ですよー!」


威勢のいい声が、


冷えた夜空に響いている。


提灯の灯りが、


雪の残る石畳をやさしく照らしていた。


みーちゃんは目を輝かせる。


「リツカさん!」


「あっち、お汁粉!」


「こっちは甘酒!」


「迷います!」


奈緒が思わず吹き出す。


「みーちゃんは毎年同じこと言ってるね。」


フミもくすくす笑った。


「結局、全部食べたくなるんだよねぇ。」



「リツカは甘酒、飲んだことある?」


「ありません。」


「じゃあ、一杯だけ飲んでみようか。」


湯気の立つ紙コップを受け取る。


両手で包むと、


じんわりと指先が温まった。


ふわり。


お米の甘い香り。


「お酒……なのですか?」


奈緒は頷く。


「少しだけね。


でも、これはアルコールがほとんどない甘酒だから大丈夫。」


リツカは恐る恐る口をつける。


「……!」


思っていた味とは違った。


やさしい甘さ。


お米そのものの、


ほっとするような味。


「温かい……。」


「飲み物なのに、


ご飯を食べているような気持ちになります。」


「そういう感想は初めて聞いたなぁ。」


奈緒は笑いながら、


自分の甘酒を一口飲んだ。



その隣では、


みーちゃんがお汁粉を頬張っている。


「熱っ。」


「ふー、ふー。」


小さく息を吹きかけながら、


お餅をゆっくり口へ運ぶ。


「おいしい!」


頬いっぱいに笑顔が広がる。


「リツカさんも食べる?」


差し出されたお椀には、


小豆の香りが立ちのぼっていた。


リツカは一口いただく。


「あ……。」


やさしい甘さ。


中には、


餅つきの日についたお餅が入っている。


「あのお餅ですね。」


「うん。」


フミが嬉しそうに頷く。


「みんなでついたお餅だから、


なおさらおいしいんだよ。」


リツカは、


ゆっくりとお餅を噛みしめた。


あの日、


「せーの」と声を合わせたこと。


みんなで笑ったこと。


その時間まで一緒に味わっている気がした。



帰り道。


町は静かだった。


遠くから、


まだ神社の鈴の音が聞こえてくる。


空を見上げると、


冬の星が変わらず瞬いていた。


「リツカ。」


奈緒が歩きながら言う。


「明日は少し早起きしよう。」


「初日の出を見に行くから。」


「初日の出……。」


聞き慣れない言葉を、


リツカはゆっくり繰り返した。


「一年で最初に昇る太陽だよ。」


フミが空を見上げながら微笑む。


「昔からね。


その光には、新しい一年を始める力があるって言われているんだ。」


リツカは東の空へ目を向けた。


今はまだ、


深い夜。


けれどその向こうでは、


新しい朝が静かに準備を始めている。


「楽しみです。」


その一言には、


この町で迎える初めての一年への期待が込められていた。


家へ帰ると、


玄関でハクが大きくあくびをした。


「おかえり。」


奈緒が笑う。


リツカも自然に微笑み返した。


「ただいま。」


その言葉は、


もう少しもぎこちなさがなかった。

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