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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第二百九十一日目③

雪遊びを終える頃には、


みんなの頬は赤く染まっていた。


「さあ、帰ろう。」


奈緒が玄関を開ける。


「冷えたでしょう。」


家の中へ入ると、


ほっとするような暖かさが迎えてくれた。


靴を脱ぎ、


手袋を外す。


指先はまだ少しかじかんでいる。


「手、冷たいですね。」


リツカが両手をこすり合わせていると、


居間からフミの声が聞こえた。


「もう準備できてるよ。」


居間へ入る。


部屋の真ん中には、


大きな机が置かれていた。


いや、


机ではない。


分厚い布団が掛けられ、


その下からほんのりと暖かな空気が流れてくる。


「これは……?」


リツカは思わず立ち止まった。


みーちゃんが得意そうに胸を張る。


「こたつ!」


「こたつ……。」


初めて見る冬の道具だった。


奈緒が布団を少し持ち上げる。


「足を入れてごらん。」


リツカは恐る恐る足を伸ばした。


布団の中へ、


そっと足を入れる。


「……!」


思わず目を見開く。


冷え切っていた足を、


じんわりとした暖かさが包み込んだ。


熱すぎない。


けれど、


芯まで温まるような優しい熱。


「温かい……。」


思わず声が漏れる。


みーちゃんは笑顔で頷いた。


「でしょ?」


「冬はね、


みんなここに集まるんだよ。」


リツカも腰を下ろし、


布団を膝まで掛ける。


暖かさは、


少しずつ体の奥まで広がっていく。


まるで、


春の日だまりのようだった。



その時。


フミが湯気の立つ急須を運んできた。


「温かいほうじ茶だよ。」


香ばしい香りが、


部屋いっぱいに広がる。


湯飲みを両手で包む。


手も、


足も、


体も温かい。


思わず、


ふぅ……と息が漏れた。


その様子を見て、


奈緒たちは笑う。


「気に入った?」


リツカは素直に頷いた。


「はい。」


少し考えてから、


真剣な表情で言う。


「これは……。」


みんなが顔を上げる。


「人を動けなくする魔道具ですね。」


一瞬、


静まり返る。


そして。


「あはははは!」


奈緒が声を上げて笑った。


由美も肩を震わせ、


フミは目尻を下げながら笑っている。


みーちゃんは机を叩いて大笑いした。


「違うよ!」


「でも、ちょっと合ってる!」


奈緒は笑いながら言う。


「一度入るとね。」


「出たくなくなるの。」


リツカは周りを見回した。


確かに、


誰も出ようとしない。


「……本当ですね。」


「私も、


もう出たくありません。」


その一言で、


また笑い声が広がった。



しばらくすると、


みーちゃんがみかんの入った籠を持ってきた。


「こたつには、これ!」


ころん、と机の上へ置く。


鮮やかな橙色が、


冬の部屋を明るく彩る。


リツカは一つ手に取った。


「これは……。」


「みかん!」


みーちゃんは器用に皮をむいていく。


ふわり。


甘酸っぱい香りが漂った。


「冬になるとね。」


フミが微笑む。


「こたつでみかんを食べるのが楽しみなんだよ。」


リツカも真似をして、


ゆっくり皮をむく。


一房口に運ぶ。


甘さの中に、


ほんの少しの酸味。


さっぱりとした味が、


温かい部屋によく合っていた。


「おいしいです。」


「でしょう?」


奈緒は笑った。


「冬は寒いけど、


寒いからこそ楽しめることもあるんだ。」


リツカは、


こたつの中で足を少し伸ばした。


外では、


雪が静かに降り続いている。


けれど、


この部屋は春のように暖かい。


魔法はなくても、


人はこんな温もりを作れる。


そのことが、


少し嬉しかった。


こたつの布団の中で、


ハクがいつの間にか丸くなって眠っている。


「ハクまで出てきませんね。」


「冬はみんな、こたつの魔法にかかるんだよ。」


奈緒の言葉に、


リツカはくすりと笑った。


窓の外では白い雪。


部屋の中では笑い声。


その穏やかな時間は、


リツカの心にも、静かに冬の温もりを灯していた。

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