表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/138

第二百三十日目

焼きいもを楽しんでから、


数日が過ぎた。


朝。


玄関を開けたリツカは、


思わず肩をすくめた。


「寒い……。」


吐いた息が、


白く空へ溶けていく。


庭の草には、


小さな露が光っていた。


「もう朝は冷えるねぇ。」


フミが毛糸の肩掛けを羽織りながら、


庭へ出てくる。


「秋も終わりだよ。」


リツカは空を見上げた。


高かった空は、


どこか冬の色を帯び始めている。



朝食を終えると、


奈緒が物置の戸を開けた。


「今日は冬支度。」


「冬支度?」


「うん。


寒くなる前に、


いろいろ準備するんだ。」


物置の中には、


夏の間しまわれていた道具や、


冬に使うものがきちんと並んでいる。


厚手の毛布。


湯たんぽ。


火鉢。


大きな土鍋。


「こんなにたくさん……。」


「冬は寒いからね。」


奈緒は笑いながら、


湯たんぽを取り出した。


「これは夜のお供。」


「お湯を入れて布団に入れると、


朝までぽかぽかなんだよ。」


リツカは丸い金属の湯たんぽを手に取る。


ひんやりとしている。


「お湯だけで温かくなるのですか?」


「そう。」


「魔法は使わないけど、


ちゃんと朝まで温かい。」


リツカは微笑んだ。


この世界の人たちは、


魔法がなくても、


知恵で暮らしを豊かにしている。


それが、


少し誇らしく思えた。



午後。


みんなで縁側の障子を外し、


丁寧に拭いていく。


由美は窓を磨き、


みーちゃんは雑巾をぎゅっと絞る。


「リツカさん、見て!」


雑巾を持った手は、


もうびしょびしょだった。


「私より雑巾のほうが水を飲んじゃった!」


「それでは拭けませんね。」


リツカが笑うと、


みーちゃんも声を上げて笑った。


庭では、


ハクが落ち葉を追いかけている。


風が吹くたび、


一枚、


また一枚。


赤い葉が舞い、


冬の足音を知らせていた。



夕方。


縁側に腰掛ける。


温かいほうじ茶が湯気を立てている。


「最近、


暗くなるのが早くなったね。」


奈緒の言葉に、


リツカは西の空を見た。


山の向こうへ沈む夕日。


夏よりずっと早い。


「本当ですね。」


「一日が短くなりました。」


「でもね。」


フミが湯飲みを包み込むように持ちながら言う。


「冬は夜が長いぶん、


みんなでゆっくり話せるんだよ。」


その言葉に、


リツカは静かに頷いた。


急いで過ごす季節もある。


ゆっくり過ごす季節もある。


どちらも大切なのだ。


ふと、


庭の柿の木を見る。


葉はほとんど落ち、


枝だけになっていた。


けれど、


寂しいとは思わなかった。


春になれば、


また新しい葉が芽吹くことを、


もう知っているから。


リツカは湯飲みを両手で包み、


その温もりを感じた。


季節は巡る。


人も、


暮らしも、


少しずつ変わっていく。


その変化を楽しめるようになった自分が、


少しだけ嬉しかった。


すると玄関のほうから、


みーちゃんの元気な声が響いた。


「お母さーん!」


「学校でね、


『もうすぐクリスマスですね』って先生が言ってた!」


奈緒とフミは顔を見合わせ、


思わず笑う。


「そろそろツリーを出そうか。」


「つりー……?」


また、


リツカの知らない冬が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ