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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第二百十日目③

畑をあとにすると、


みんなは近くの広場へ向かった。


広場の隅には、


大きなイチョウの木が立っている。


黄金色の葉が、


風に揺れていた。


足元には、


落ち葉がふんわりと積もっている。


「さあ、落ち葉を集めよう。」


奈緒が竹ぼうきを手に取る。


「焼きいもは、


火をつける前から始まってるんだよ。」


リツカも竹ぼうきを受け取った。


しゃっ。


しゃっ。


乾いた音が広場に響く。


赤い葉。


黄色い葉。


茶色い葉。


落ち葉は一か所へ集められ、


小さな山になっていく。


みーちゃんは夢中で葉を集めていた。


「見て!」


両手いっぱいの落ち葉を、


空へ放り投げる。


ふわあっ。


赤や黄色の葉が、


光を受けながら舞い落ちる。


「きれい……。」


リツカは思わず見とれた。


奈緒が笑う。


「秋は遊ぶものでもあるんだ。」



落ち葉が十分に集まると、


町内のおじいさんが小さな焚き火台を運んできた。


「ここなら安心だ。」


火ばさみで落ち葉を整え、


細い枝を重ねていく。


ぱちっ。


小さな火花。


やがて、


細い煙が空へ昇り始めた。


「煙が空にのぼっていきます。」


リツカは目で追う。


青い空へ、


白い煙がまっすぐ伸びていく。


その香りは、


木の香り。


乾いた葉の香り。


どこか懐かしく、


心まで温かくなる匂いだった。


「この匂いがするとね。」


フミが目を細める。


「秋が来たなぁって思うんだよ。」



奈緒は新聞紙を広げる。


「さっき掘ったお芋を持ってきて。」


リツカは籠から、


一番大きなさつまいもを取り出した。


まだ土が少し残っている。


「洗わなくていいのですか?」


「もちろん洗うよ。」


近くの水道で、


みんなで芋をきれいに洗う。


土が落ちるたび、


紫色の皮がつやつやと光った。


「次は新聞紙を水でぬらして……。」


奈緒が手本を見せる。


濡れた新聞紙で包み、


その上からアルミホイルで包む。


「なるほど……。」


リツカも同じように包む。


まるで、


薬草を傷まないように包む時と似ていた。


「包むのにも意味があるのですね。」


「うん。」


「ゆっくり火が入るから、


甘くなるんだよ。」


ゆっくり。


またその言葉だった。


桜も。


柿も。


そして焼きいもも。


急がないからこそ、


一番おいしくなる。



包んださつまいもを、


火のそばへ並べる。


「お願いしまーす。」


みーちゃんが両手を合わせる。


「おいしくなってね。」


由美も笑いながら真似をする。


奈緒とフミも、


顔を見合わせて笑った。


リツカも小さく頭を下げる。


「……よろしくお願いします。」


火は何も答えない。


ただ、


ぱちっ。


ぱちぱちっ。


薪をはじく音だけが響く。


煙はゆっくり空へ昇り、


秋空に溶けていった。


焼き上がるまで、


もう少し。


誰も急かさない。


その待ち時間さえ、


みんな楽しそうに笑っていた。


リツカは焚き火の温もりに手をかざす。


火は熱い。


けれど、


その周りに集まる人の笑顔は、


火よりも温かかった。

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