第二百十日目③
畑をあとにすると、
みんなは近くの広場へ向かった。
広場の隅には、
大きなイチョウの木が立っている。
黄金色の葉が、
風に揺れていた。
足元には、
落ち葉がふんわりと積もっている。
「さあ、落ち葉を集めよう。」
奈緒が竹ぼうきを手に取る。
「焼きいもは、
火をつける前から始まってるんだよ。」
リツカも竹ぼうきを受け取った。
しゃっ。
しゃっ。
乾いた音が広場に響く。
赤い葉。
黄色い葉。
茶色い葉。
落ち葉は一か所へ集められ、
小さな山になっていく。
みーちゃんは夢中で葉を集めていた。
「見て!」
両手いっぱいの落ち葉を、
空へ放り投げる。
ふわあっ。
赤や黄色の葉が、
光を受けながら舞い落ちる。
「きれい……。」
リツカは思わず見とれた。
奈緒が笑う。
「秋は遊ぶものでもあるんだ。」
◇
落ち葉が十分に集まると、
町内のおじいさんが小さな焚き火台を運んできた。
「ここなら安心だ。」
火ばさみで落ち葉を整え、
細い枝を重ねていく。
ぱちっ。
小さな火花。
やがて、
細い煙が空へ昇り始めた。
「煙が空にのぼっていきます。」
リツカは目で追う。
青い空へ、
白い煙がまっすぐ伸びていく。
その香りは、
木の香り。
乾いた葉の香り。
どこか懐かしく、
心まで温かくなる匂いだった。
「この匂いがするとね。」
フミが目を細める。
「秋が来たなぁって思うんだよ。」
◇
奈緒は新聞紙を広げる。
「さっき掘ったお芋を持ってきて。」
リツカは籠から、
一番大きなさつまいもを取り出した。
まだ土が少し残っている。
「洗わなくていいのですか?」
「もちろん洗うよ。」
近くの水道で、
みんなで芋をきれいに洗う。
土が落ちるたび、
紫色の皮がつやつやと光った。
「次は新聞紙を水でぬらして……。」
奈緒が手本を見せる。
濡れた新聞紙で包み、
その上からアルミホイルで包む。
「なるほど……。」
リツカも同じように包む。
まるで、
薬草を傷まないように包む時と似ていた。
「包むのにも意味があるのですね。」
「うん。」
「ゆっくり火が入るから、
甘くなるんだよ。」
ゆっくり。
またその言葉だった。
桜も。
柿も。
そして焼きいもも。
急がないからこそ、
一番おいしくなる。
◇
包んださつまいもを、
火のそばへ並べる。
「お願いしまーす。」
みーちゃんが両手を合わせる。
「おいしくなってね。」
由美も笑いながら真似をする。
奈緒とフミも、
顔を見合わせて笑った。
リツカも小さく頭を下げる。
「……よろしくお願いします。」
火は何も答えない。
ただ、
ぱちっ。
ぱちぱちっ。
薪をはじく音だけが響く。
煙はゆっくり空へ昇り、
秋空に溶けていった。
焼き上がるまで、
もう少し。
誰も急かさない。
その待ち時間さえ、
みんな楽しそうに笑っていた。
リツカは焚き火の温もりに手をかざす。
火は熱い。
けれど、
その周りに集まる人の笑顔は、
火よりも温かかった。




