第二百十日目②
「こっちも掘ってみよう。」
奈緒が隣の畝を指さした。
リツカは頷き、
再びしゃがみ込む。
土は朝日を浴びて、
少しだけ温かくなっていた。
葉の根元に手を添える。
そっと土を掘る。
ざく。
ざく。
湿った土が崩れ、
紫色が顔をのぞかせる。
「また見つけました。」
「まだあるよ。」
奈緒が微笑む。
「え?」
リツカは周りの土をさらに払っていく。
すると。
一本だと思っていた芋の横から、
もう一本。
さらにその奥から、
もう一本。
「……!」
思わず手が止まる。
一本のつるに、
いくつものさつまいもがつながっていた。
大きなもの。
細長いもの。
ころんと丸いもの。
どれも形が違う。
「家族みたいでしょう?」
フミが笑う。
「同じつるから育った兄弟なんだよ。」
兄弟。
リツカはそっと芋を見つめる。
同じ土の中で、
寄り添うように育っていた。
大きさは違う。
形も違う。
けれど、
みんな同じ命だった。
「面白いですね。」
「一つだと思っていました。」
奈緒は優しく土を払う。
「人も同じかもしれないね。」
「一人で育ってるように見えても、
いろんな人につながってる。」
その言葉に、
リツカは静かに頷いた。
この町へ来てから、
自分もそうだった。
奈緒。
フミ。
由美。
みーちゃん。
薬局の患者さん。
気づけば、
たくさんの人につながっていた。
◇
「見て見て!」
みーちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
両手いっぱいに、
小さなさつまいもを抱えていた。
「こんなに取れた!」
その中には、
指ほどの細い芋もある。
ころんと丸い芋もある。
「小さいのもあるんですね。」
「うん!」
「これは『子いも』って呼ぶ人もいるよ。」
由美が一つ摘まみ上げる。
「小さいけど、おいしいんだから。」
「大きいのが一番じゃないんですね。」
リツカが呟く。
奈緒は笑って答えた。
「そう。」
「大きいのは焼きいも。」
「小さいのは甘煮にしたり、
天ぷらにしたり。」
「それぞれ得意なことがあるんだよ。」
それぞれ得意なこと。
リツカは小さな芋を掌に乗せる。
薬草にも、
それぞれ役目があった。
熱を下げるもの。
傷を癒やすもの。
痛みを和らげるもの。
どれ一つ、
無駄なものはない。
この小さな芋も、
誰かの食卓を笑顔にするのだろう。
◇
気づけば、
籠はさつまいもでいっぱいになっていた。
「大豊作だねぇ。」
フミが満足そうに笑う。
「これだけあれば、
みんなで食べられる。」
奈緒が籠を持ち上げる。
「今日は焼きいもしようか。」
「やったー!」
みーちゃんが飛び跳ねる。
「落ち葉、いっぱい集めなくちゃ!」
リツカは首をかしげる。
「落ち葉を集めるのですか?」
奈緒はいたずらっぽく笑った。
「秋にはね。」
「落ち葉にも、大事な役目があるんだよ。」
リツカは籠の中のさつまいもを見つめる。
土の中で育った宝物。
その宝物は、
まだ物語の続きを待っているようだった。
秋風が吹き抜ける。
畑の隅で、
一枚の紅葉がくるりと舞い上がった。




