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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


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第二百十日目

朝。


空は高く澄み、


ひんやりとした風が頬をなでていく。


縁側ではハクが気持ちよさそうに伸びをしていた。


「今日は畑に行くよ。」


奈緒が軍手を差し出す。


「畑ですか。」


「うん。」


「秋の宝探し。」


その言葉に、


リツカは少し首をかしげた。



町はずれの畑。


夏には青々と茂っていた畝が、


少しずつ落ち着いた色へ変わっている。


土は昨日の雨を吸って、


ほんのりと湿っていた。


「おはよう!」


畑の向こうから手を振るのは、


近所のおじいさんとおばあさん。


「今日は芋掘りの日だよ。」


由美とみーちゃんは、


もう軍手をはめて待ちきれない様子だった。


「リツカさん、競争しよう!」


「競争……ですか?」


「大きいお芋を見つけた人の勝ち!」


「こらこら。」


奈緒が笑う。


「大きさより、折らないように掘るんだよ。」


「はーい!」



畝の前にしゃがむ。


目の前には、


緑色のつると葉。


リツカはじっと観察した。


「葉しかありません。」


「そう。」


奈緒は葉の根元を指さす。


「でも、本当の宝物はこの下。」


土の中。


リツカは小さな移植ごてを手に取る。


そっと土を崩す。


ざく。


ざく。


湿った土の香りが立ちのぼる。


薬草畑とは違う、


やわらかな土の匂いだった。


少し掘り進めると、


指先に何かが触れた。


「……?」


土を払う。


紫色。


つやのある皮が、


少しだけ顔をのぞかせていた。


「見つけました。」


思わず声が弾む。


「焦らない、焦らない。」


奈緒が隣で微笑む。


「周りから少しずつね。」


リツカは頷き、


芋を傷つけないように、


周りの土を丁寧に崩していく。


まるで、


薬草の根を採る時のように。


少しずつ。


少しずつ。


やがて全体が見えた。


「大きい……。」


思わず息をのむ。


両手ほどもある、


立派なさつまいもだった。


「最後は引っ張ってみて。」


奈緒の声に、


リツカはつるをそっと握る。


「……よいしょ。」


ぐっ。


土が少し盛り上がる。


もう一度。


「よい……しょ!」


ぽこん。


土の中から、


紫色のさつまいもが姿を現した。


「取れた!」


みーちゃんが拍手する。


由美も笑顔で親指を立てた。


リツカは両手でさつまいもを抱える。


まだ土がついたまま。


ずっしりと重い。


「土の中に……。」


「こんな宝物が眠っていたのですね。」


奈緒は頷いた。


「見えないところで、


何かが育ってることって、たくさんあるんだよ。」


リツカはその言葉を胸の中で繰り返した。


見えないところで育つもの。


薬草の根も。


人の優しさも。


きっと同じなのかもしれない。


秋風が畑を渡る。


掘り起こされた土の香りが、


どこか懐かしく感じられた。


「さあ。」


フミが籠を持って歩いてくる。


「今日はいっぱい掘るよぉ。」


みーちゃんが元気よく手を挙げる。


「次はもっと大きいの見つける!」


「負けません。」


リツカも珍しく小さく笑った。


秋の畑には、


笑い声がよく似合っていた。

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