第二百十日目
朝。
空は高く澄み、
ひんやりとした風が頬をなでていく。
縁側ではハクが気持ちよさそうに伸びをしていた。
「今日は畑に行くよ。」
奈緒が軍手を差し出す。
「畑ですか。」
「うん。」
「秋の宝探し。」
その言葉に、
リツカは少し首をかしげた。
◇
町はずれの畑。
夏には青々と茂っていた畝が、
少しずつ落ち着いた色へ変わっている。
土は昨日の雨を吸って、
ほんのりと湿っていた。
「おはよう!」
畑の向こうから手を振るのは、
近所のおじいさんとおばあさん。
「今日は芋掘りの日だよ。」
由美とみーちゃんは、
もう軍手をはめて待ちきれない様子だった。
「リツカさん、競争しよう!」
「競争……ですか?」
「大きいお芋を見つけた人の勝ち!」
「こらこら。」
奈緒が笑う。
「大きさより、折らないように掘るんだよ。」
「はーい!」
◇
畝の前にしゃがむ。
目の前には、
緑色のつると葉。
リツカはじっと観察した。
「葉しかありません。」
「そう。」
奈緒は葉の根元を指さす。
「でも、本当の宝物はこの下。」
土の中。
リツカは小さな移植ごてを手に取る。
そっと土を崩す。
ざく。
ざく。
湿った土の香りが立ちのぼる。
薬草畑とは違う、
やわらかな土の匂いだった。
少し掘り進めると、
指先に何かが触れた。
「……?」
土を払う。
紫色。
つやのある皮が、
少しだけ顔をのぞかせていた。
「見つけました。」
思わず声が弾む。
「焦らない、焦らない。」
奈緒が隣で微笑む。
「周りから少しずつね。」
リツカは頷き、
芋を傷つけないように、
周りの土を丁寧に崩していく。
まるで、
薬草の根を採る時のように。
少しずつ。
少しずつ。
やがて全体が見えた。
「大きい……。」
思わず息をのむ。
両手ほどもある、
立派なさつまいもだった。
「最後は引っ張ってみて。」
奈緒の声に、
リツカはつるをそっと握る。
「……よいしょ。」
ぐっ。
土が少し盛り上がる。
もう一度。
「よい……しょ!」
ぽこん。
土の中から、
紫色のさつまいもが姿を現した。
「取れた!」
みーちゃんが拍手する。
由美も笑顔で親指を立てた。
リツカは両手でさつまいもを抱える。
まだ土がついたまま。
ずっしりと重い。
「土の中に……。」
「こんな宝物が眠っていたのですね。」
奈緒は頷いた。
「見えないところで、
何かが育ってることって、たくさんあるんだよ。」
リツカはその言葉を胸の中で繰り返した。
見えないところで育つもの。
薬草の根も。
人の優しさも。
きっと同じなのかもしれない。
秋風が畑を渡る。
掘り起こされた土の香りが、
どこか懐かしく感じられた。
「さあ。」
フミが籠を持って歩いてくる。
「今日はいっぱい掘るよぉ。」
みーちゃんが元気よく手を挙げる。
「次はもっと大きいの見つける!」
「負けません。」
リツカも珍しく小さく笑った。
秋の畑には、
笑い声がよく似合っていた。




