表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/138

第百九十日目④

閉会式が終わると、


校庭は少しずつ静けさを取り戻していった。


さっきまで響いていた歓声は、


笑い声へ変わっている。


子どもたちは友達と話しながら帰り支度をしていた。


万国旗は、


まだ秋風に揺れている。


「お疲れさまでした」


先生が深く頭を下げる。


大きな拍手が、


校庭いっぱいに広がった。



帰り道。


夕日が町を茜色に染めていた。


電柱の影が長く伸びる。


田んぼも、


屋根も、


川の水面も、


みんな夕焼け色だった。


「疲れたぁ!」


みーちゃんが大きく伸びをする。


その首には、


参加賞の金色のメダルが揺れていた。


「今日は頑張ったね」


奈緒が頭を撫でる。


「うん!」


「転びそうになったけど、転ばなかった!」


誇らしそうに胸を張る。


由美が笑う。


「それが一番すごいよ。」


みーちゃんは照れくさそうに笑った。


少し歩いたところで、


みーちゃんが急に立ち止まる。


振り返ると、


リツカの前まで駆け寄ってきた。


「リツカさん。」


「はい。」


小さな手が、


ぎゅっとリツカの手を握る。


「応援してくれて、ありがとう。」


まっすぐな瞳だった。


「最後、聞こえたよ。」


リツカは目を丸くする。


「あの声で……」


「うん!」


「すごく力が出た!」


その笑顔は、


秋の夕日よりも眩しく見えた。


リツカは静かに微笑む。


「私は……」


少しだけ考える。


薬師として、


人を元気づける方法なら知っていた。


薬を調合し、


傷を癒やし、


病を治す。


けれど今日、


初めて知ったことがある。


言葉にも、


人を支える力がある。


「こちらこそ、ありがとうございました。」


そう言うと、


みーちゃんは嬉しそうに笑い、


再び奈緒たちのところへ駆けていった。



家へ帰る頃には、


空は紫色へ変わり始めていた。


縁側に腰掛ける。


虫の声が聞こえる。


昼間の賑やかさが嘘のように、


町は静かだった。


フミがお茶を運んでくる。


「今日は楽しかったかい?」


リツカは湯飲みを受け取る。


温かい湯気が立ちのぼる。


「はい。」


一言だった。


けれど、


その一言に、


今日一日の気持ちが詰まっていた。


しばらく沈黙が続く。


やがてリツカが口を開く。


「この国では……」


「みんなで喜びを分け合うのですね。」


勝った人だけではない。


最後まで走った人も。


応援した人も。


お弁当を作った人も。


みんなが笑顔だった。


「そうだねぇ。」


フミはゆっくり頷く。


「一人じゃできないことは、みんなでやる。」


「昔から、そうやって暮らしてきたんだよ。」


リツカは夕焼けが消えゆく空を見上げた。


春には桜を眺め、


夏には星を見上げ、


秋には月を眺めた。


そして今日は、


人の笑顔を見つめていた。


季節だけではない。


この町には、


人と人を結ぶ景色がある。


その景色が、


少しずつ自分の心にも根を張り始めている。


夜風がそっと頬をなでる。


どこからか、


また金木犀の香りが漂ってきた。


リツカは目を閉じ、


静かにその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


秋は、


まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ