欲望
人類が、この宇宙のすべてを解明してから百年。
文明は、静かに終わりへ向かっていた。
かつて人類は、未知を求めて進化してきた。
戦争を終わらせるために。
病を克服するために。
宇宙の果てへ辿り着くために。
そしてついに、人類は「三次元空間・一次元時間宇宙」のすべてを知り尽くした。
その瞬間、世界から“未知”が消えた。
新たな発見は存在しない。
解き明かす謎もない。
達成すべき目標も残されていない。
人類は、文明を発展させる理由そのものを失った。
望むものはすべて手に入る。
答えはすべて存在する。
もはや努力する必要すらない。
――自由だった。
あまりにも自由すぎた。
「この宇宙のすべての情報」という、究極の自由を手にした人類は、
やがて生きる意味を失っていく。
文明は徐々に停滞し、精神は摩耗し、人類社会は静かに崩壊へ向かい始めた。
このままでは、人類そのものが終わる。
そう判断した人類統合管理機構――
《組織名仮1》は、ついに禁断の計画へ着手する。
目指したのは、この宇宙の外側。
三次元空間一次元時間の外に存在するとされる、高次元宇宙だった。
しかし、その領域へ到達するには、人間の肉体はあまりにも不完全だった。
三次元空間に最適化された肉体。
一次元時間しか認識できない知覚。
有限の脳、有限の寿命。
高次元宇宙へ到達するには、
“人間”という存在そのものを捨てなければならない。
そこで《組織名仮1》が導き出した結論は、一つだった。
人類を、より高次の存在へ進化させる。
個としての肉体を捨て、
個人としての意思を統合し、
この宇宙の全情報を継承した、別次元対応存在へと変貌する。
それはもはや、人類ではない。
――“神”だった。
この計画は、「神化計画」と呼ばれた。
生きる意味を失っていた多くの人類は、この計画を受け入れた。
終わりの見えない虚無の中で、彼らは新たな目的を求めていたのだ。
だが、その計画に強く反発する者たちも存在した。
彼らは叫んだ。
それは進化ではない。
人類という生物の終焉だ、と。
個人の意思を捨て、
人生を捨て、
人間であることを捨てる。
それは、人類の未来ではなく――
人類そのものへの反逆だと。
こうして、人類を“神”へ変えようとする《組織名仮1》と、
それを阻止する反神化組織《神滅連邦》による、
人類史上最大の戦争が幕を開ける。
組織名仮1というのが登場しましたが、その名の通り仮の名前なので、今後考えます。




