戦争
開戦当初、《神滅連邦》の戦力は《組織名仮1》の十分の一にも満たなかった。
兵器数。
艦隊規模。
工業生産力。
支配領域。
そのすべてにおいて、《組織名仮1》は圧倒的だった。
誰の目にも、勝敗は決しているように見えた。
しかし戦争開始から数か月後、事態は大きく変化する。
この宇宙に存在する地球外起源文明――
すなわち、人類以外の知的生命体たちが、次々と《神滅連邦》への協力を表明したのだ。
彼らは、人類の“神化”を危険視していた。
もし単一文明が神へ到達すれば、
宇宙の均衡そのものが崩壊しかねない。
それを阻止するため、長い歴史の中で互いに争い続けてきた異星文明までもが、一時的な共闘を選択した。
こうして戦争は、
「人類の内戦」から、
「宇宙全体を巻き込む存亡戦争」へと変貌していく。
その結果、《神滅連邦》と《組織名仮1》の戦力差は、ついに互角にまで縮まった。
――だが。
それでもなお、《組織名仮1》には、他文明が決して覆せない絶対的優位が存在していた。
それが、圧倒的工業力。
そして、《未来予測器(仮)》の存在である。
《未来予測器(仮)》は、人類がこの宇宙のすべてを解明したその日に建造された超演算システムだった。
その原理は極めて単純で、同時に狂気的だった。
この宇宙に存在するあらゆる物質、エネルギー、重力、量子情報、生体反応、思考傾向――
つまり、「宇宙の全状態」を入力値として未来を演算する。
例えば、一人の人間が後ろ向きに歩いているとする。
進行方向には石が落ちている。
その人物の歩幅、重心移動、筋肉反応、心理状態、周囲の重力変化までを完全再現すれば、
その人物が数秒後に石へ躓き、転倒する未来を極めて高精度で予測できる。
《未来予測器(仮)》は、この計算を宇宙規模で行っていた。
恒星活動。
艦隊移動。
文明間外交。
個人の感情変化。
そのすべてを演算し、未来を導き出す。
さらに恐ろしいのは、この装置が“固定された未来”を見ているわけではないという点だった。
未来予測の結果によって誰かが行動を変えれば、
その変化した行動すら新たな入力情報として再演算される。
つまり、《未来予測器(仮)》は常に未来を書き換えながら、
最も確率の高い未来へ収束し続ける自己更新型未来観測機関だった。
百年前の完成以来、
この装置が予測を外した記録は一度も存在しない。
敵艦隊の進路。
反乱発生の日時。
暗殺計画。
戦争の勝敗。
すべて、《組織名仮1》は知っていた。
そして、その未来演算能力を支えていたのが、人類文明の異常な工業力だった。
《組織名仮1》は、惑星そのものを工場化していた。
無数の自動生産機構。
恒星エネルギー採掘施設。
自己増殖型艦隊建造群。
一つ艦隊を壊滅させても、数日後には同規模艦隊が再建される。
撃破しても、撃破しても、敵は尽きない。
まるで宇宙そのものが、《組織名仮1》を増殖させているかのようだった。
さらに、《神滅連邦》は最悪の情報を掴む。
《組織名仮1》はすでに、人類を統合し、“神”へ変換する超巨大装置――
《神化器》の建造を開始していた。
完成すれば、人類文明は不可逆的に変質する。
もはや武力による制圧は不可能。
そう判断した《神滅連邦》は、戦争目的を根本から変更する。
「人類の神化阻止」ではない。
最終目標はただ一つ。
――この宇宙に存在する、可能な限り多くの生命と物質を保存すること。
神の誕生後にも、何かを残すために。
未来予測器の名称も未定なので後日考えます。




