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泉の女神  作者: 徒然花
番外編*3
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離れている時間

自分企画『夏のSSS』で書いたものです。

美華ちゃんが一時帰還している間のラルクさん♪

今日はミカが向こうに一時帰る日。すなわち満月だ。

こちらに来てから、満月の度に向こうへと一時帰還を望む彼女。

本当はこちらの世界に留まっていて欲しいのだが、こちらが無理に彼女を引き留めている状況なので、彼女の『帰りたい』という希望は聞かざるをえない。

でもオレは、帰還・召喚を行う度に命が縮む思いをする。


ちゃんと向こうの世界に帰れたのか。


またこちらに召喚できるのか。


失敗して、どこか二度と会えないところに飛ばされてしまわないか。


ミカはオレを振り払うように泉に飛び込む。

それがオレの心を切なくさせる。


そして、いつまでも彼女の消えた泉を見つめ続けてしまうのだ。




ミカの居ない家に帰り、布団に入るも眠れはしない。


ちゃんと帰還できたか。無事にいるか。


そればかりが頭の中をループする。くそっ、気になって仕方ない。先月の帰還の時も、ミカの無事が気になって眠れなかったのだが、結局、今夜も同じことを繰り返したオレだった。




東の空が白み始めた頃。

いつもならば起き出して、ミカが薬草摘みに出かけるのに付き合うのだが、今日は休み。


「……」


何をしていても、ミカを想わない時間がない。

うじうじと考えていても仕方ないので、鍛錬でもするか。体を動かしていると何も考えずに済む。


ひとしきり汗をかいたところで、台所で手が離せないアンに代わって、シエルが朝食のできたことを告げに来る。

軽く水で汗を流してから朝食をとる。


今日は村の子供たちに剣術を指導しに行こう。


そう思い、支度をして家を出た。




午前中いっぱい子供たちに剣術を教えていたが、昼前に村の護衛騎士のティムがやって来た。

薄い茶色の緩いウエーブした髪、少し垂れがちな目、温厚そうな笑みをたたえた口。爽やか系のイイオトコと言われているティム。ま、オレは興味ないが。


「ラルクさん、熱心に指導してますね」

「ティムか。どうした? 暇か?」

「まあ、暇です」

「お前が暇なのはいいことだ」


オレよりも7つ下のティムは、王都で騎士をしていた頃の指導後輩だった。今は王都から派遣されてこの村の護衛騎士をしている。ミカは『おお! 花の駐在さんですね!! 爽やかイケメンさんですね!』とか言っていたが。駐在とはなんだろう?

そんなティムが、先程からオレの指導の様子を壁にもたれながらニコニコと見守っている。

……何だその生暖かい眼は?


「何が言いたい?」

目だけ動かし、ティムを睨む。

「いえ? ただ熱心だなぁって。なんでそんなにシャカリキなのかなぁって」

飄々と言ってのけるティム。ニコニコがニヤニヤに代わってるぞ! そんな生意気な態度をとるやつには。

「……この後飯付き合え」

オレも負けずにニヤリと笑いながらティムに命令する。

「もちろん喜んで!」

奢られるつもりなのだろう、ニヤニヤが引っ込み、取って代わって犬のしっぽが見える気がする。それも千切れんばかりに振りたくった。

「で、その後鍛錬に付き合え」

「……げ」


あからさまにティムの顔が引きつった。

よし、これで午後からの予定も詰まったぞ。




ティム相手に剣術・体術と目一杯体を動かし続けた午後。

陽が傾きかけた時、オレの足元にはティムが転がっていた。ちょっとやりすぎたか。


「加減してくださいっ!」


地面に伸びたまま、ティムが唸っていた。


今日も村は平和だった。




やっと日が沈んだ。

村人たちが三々五々、泉のほとりに集まってくる。

皆、ミカが帰ってきてくれることを願ってのことだ。


静かに水面を見つめる。


しばらくした時、中央辺りの水面に変化が起こった。


波紋。


ミカだ!


すぐにオレは泉に飛び込む。


早く早くミカを確かめたくて――


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