6.第一章 真理 エピソード5
「ねぇねぇ、今年のクリスマスはどこかに行くの?」
「うん……ちょっとね」
「え~っ、ちょっとって、どうせ彼氏と一緒なんでしょ」
昼休みに同期たちの声が、省エネのために照明が落とされたオフィスに響き渡る。
「真理は、どう過ごすの?」
聞いていないふりをしてスマホをいじっていると、一人の同期から話を振られた。
「えっ、あぁ……特に予定はないかな」
私がそう答えたのが面白くなかったのか、同期たちは「ふぅ~ん」と答えただけで、二人だけの会話に戻っていく。ただ、正直に答えただけなのだが、それからも彼女たちがあまりに楽しそうに話しているものだから、私はなんとなくその場に座っていられなくて、トイレに行くふりをして、席を立った。
向かったのは、自動販売機が重低音を響かせる休憩室。幸い、中には誰もいなかった。欲しくもないのに、微糖の缶コーヒーを買ってみる。しかも、ホットにするつもりが、出てきたのはブラックのアイス。隣り合わせに並んでいるので、ボタンを押し間違えただけなのだが、こんな些細なことでも運に見放されているみたいでやるせない。そう言えば、今朝テレビで見た星占いでは、おとめ座が最下位だった。たかが星占いだし、信じている訳ではないけど、なんとなく毎朝目がいってしまう。
ここのところ、仕事でもいいことがない。ただ席に座って、お金の勘定とパソコンの画面とにらめっこをするだけの毎日。誰かと会話することもないし、誰かから感謝されることもない。
そもそも、働くのはどこでもよかった。実家を出て、独り立ちがしたかったから。それでも、本当は旅行会社に就職したかった。旅行商品を企画して、お客さんに喜んでもらいたかった。
そんな、やりがいのある仕事なんて、本当はどこにもないのかも知れない。どんな仕事だって、思い通りにならないことがほとんどだろうし、同期たちのように、お金だけを稼ぐものと割り切って仕事をやった方が、楽なのかも知れない。だけど、それではなんとなくもの足りないような気がして……私って、ただ理想が高いだけなのかな。それとも、誰かに自分のことを見ていて欲しいだけなのかな。「今のままでいいんだよ」って、誰かに認めてもらいたい。そうしたら、頑張れるような気がするから。
午後の始業を告げるチャイムが鳴った。「はぁ~っ」と、大きくため息をつくと、買ったままのコーヒーの缶を持って、休憩室を出たのだった。




