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まるの届け物  作者: 松山 さくら


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5.第一章 真理 エピソード4

 母は、私が一人暮らしを始めてからも、元気そうだった。最近、お菓子作りの教室に通い始めたようで、私が食べさせてもらったのは、サツマイモやカボチャのクッキー。確かに、ほどよい甘さの中にサツマイモやカボチャの味が絡んでいて、美味しかった。上手く焼けたときは、ご近所におすそ分けをしてあげているみたいで、今度はシナモンやラズベリー味にチャレンジしてみるのだという。

 そんな得意げに話す母の話に耳を傾けていた私だったが、ふと気になったことがあって、母から自転車を借りた。

 向かったのは、かつて自転車を走らせてたどり着いたあの公園。子供の頃に乗っていた自転車を見ていて、ふと行ってみたくなった。

 電動アシスト付きのペダルを漕いで、家の前の道路を快調に飛ばす。見えてきた背の高いフェンスに囲まれたそこは、かつて私が通っていた小学校。校舎の配置は昔と変わっていなかったが、屋上に太陽光パネルがぎっしりと並んでいる。日曜日なので、校庭に人影はなく、そのまま通り過ぎて、道なりに進む。子供の頃の記憶では、そのまままっすぐ進んで、角をいくつか曲がった先に、あの公園があったのだが、いくら走っても、ブランコのある公園らしき場所はおろか、サッカーができそうな広場でさえ、見つからない。

 そう言えば、母が前に話していたかな。ここはもともと静かなところだったけど、最近になって一気に知らない人が増えたとか……。確かに、こうやって自転車で走っていても、まわりには真新しい建物が目立つ。昔は原っぱだった場所も、広い道路が突っ切るように通り、同じような形をした家々が、所狭しに並んでいる。良質な子育て環境を求めて、若い世代が転入してきているのだろう。

 結局、同じ場所を何度も行ったり来たりしてみたが、記憶の中の景色には出会えなかった。だからと言って、別にどうってことはないのだが、かつての光景を思い出してしまった手前、それを見つけられずに、なんとなく気落ちしてしまった。

「あら、随分遅かったじゃないの。真理、どこに行ってきたの?」

 帰ってきた私の姿を見て、母が徐に訊く。

「ちょっと、その辺まで行ってきただけ。お母さん、この辺も随分変わったね。学校の向こう側に、知らない家がたくさん建っていて、ここは私の生まれ育った場所なのに、道に迷ってしまいそうでびっくりしちゃったよ」

 よほど、私が目を大きく見開いて話したからか、母は私をなだめるように、落ち着いた口調で言った。

「ここ最近なのよ。家が急に立ち出したのは。もともとは田んぼが広がって、静かなところだったんだけどね。ほら、農業をやっている人たちも、維持するのが大変みたいで、それで少しずつ畑を切り売りしているみたい」

「そうなんだ……なんだか、寂しいね」

 そう答えたのは、本心からだった。見慣れた景色が変わっていくのは、それが時代の変化のせいだとわかっていても、やはりどこか寂しい。特に私の場合は、あの公園がある意味で初恋の場所でもあったから……。あのとき出会った男の子は、今頃どう過ごしているだろうか。

「ちょっと、真理。さっきからぼんやりしちゃって、あなた、やっぱり具合でも悪いんじゃないの?」

 母の言葉にぎよっとしてしまった私は、

「うんん、本当に何でもないよ。ちょっと仕事のことを考えていただけ」

 と、何でもないように装うのであった。


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