2.第一章 真理 エピソード1
「真理、最近どう、元気にしてる?」
電話をかけてきたのは、中学校時代の友人の美里だった。
「うん、なんとかね」
そう答える私の声は沈んでいる。それもそのはず、少し前に大学時代から付き合っていた彼氏と別れたところだったし、仕事ではへまをして、上司から叱られてばかり。新卒で総合病院の経理の部署に配属されてから三年目になるが、仕事に慣れてきた頃から、度々失敗を犯すようになった。新人の頃は、「真理ちゃん」と呼んで、丁寧に教えてくれていた先輩たちも、今ではみんなそれぞれ自分のデスクのパソコンに向かってばかりいて、わからないことがあっても気安く訊けない。三年目なんだから、できて当たり前だと思われているのだろう。
「なんだか、声が暗いよ。何かあった?」
「えっ、うんん、大丈夫。なんでもないよ」
相変わらず、美里は勘が鋭い。ほんの一瞬、話そうかと思ったが、寸でのところで思い留まった。中学時代、美里とは学校で一番の仲良しではあったが、私と違ってややお節介なところがあったので、特に私が落ち込んでいるときは、ずばずばと私の心の中に入ってきた。それでいて、聞くだけ聞いて、「そんなことに、いつまでもクヨクヨしていたら駄目」と、最後にはスパッと言い切るものだから、私はかえって心に負った傷を広げられてしまうようで、話さなければよかったと、いつも後になってから後悔していた。
まぁ、美里なりに、私のことを元気づけようとしてくれていたのだろうけど、私の方にそれを受け入れる余裕がなかったってことかな。そう、私は、小さなことでも気にしてしまう性格で、それは大人になった今でも変わっていない。
だから、同じサークルで知り合った彼氏の態度が、お互いに社会人になってから少しずつ変わっていくのを、私は逐一気にしていたし、それが私との間に溝を作って広まっていくように感じてならなかった。もっとも、彼にはそんな意識は毛頭なく、ただ年齢相応に接してくれていただけなのだろうが、私には彼のそんな変化を受け入れることができなかった。
要するに、私って、子供なんだろうなと思う。誰かに構ってもらいたくて、それでいて、私のことをわかって欲しくて……。
それから美里は、恋愛のことや仕事のことを、聞いてと言わんばかりに話し続けた。その話しぶりが、いかにも幸せそう。私は、そんな美里の話に、ただ相槌を打つことしかできなかったが、きっと、私と違って幸せな日々を送っているんだろうなと思った。
「今度、久しぶりに会わない? お互いに仕事を持ってからは、なかなか会えていないでしょ」
「うん……そっ、そうだね」
私は、あえて声のトーンを下げて答える。これだけ私が一方的に話を聞かされた上に、まだ会って話そうというのだろうか。だけど、そんな真理のことを、どこか憎めないところがあって、私はすでに真理のペースに乗せられていた。
「やったぁ。そうこなくっちゃ。それじゃあ、真理、こっちに帰ってくるときは連絡してね」
そう美里が明るく言ったのを最後に、電話を終えた。




