13.第三章 雄一さん エピソード3
クリスマスイブのスーパーは、昼間から混雑しているようだった。店の入口には大きなツリーが飾られ、賑やかな音楽が客たちを出迎えている。サンタクロースに扮したアルバイトの店員が、作り立てのフライドチキンやオードブルを売っていた。ほんの一瞬、その場の雰囲気につられて買ってしまいそうになったが、私はポケットから取り出したメモを片手に、食品売り場へと足を向ける。
玉ねぎにレタス、鶏肉にチーズと、たちまち買い物かごがいっぱいになってしまった。こうやって食材を買い込むのも、いつ以来だろうか。全部で、七千五百円。ちょっと買い過ぎてしまったかなと思いながらも、今日はクリスマスイブだからと自分に言い聞かせて、重たい袋を提げて、アパートの部屋へと戻る。
部屋を掃除して、テーブル代わりの炬燵机に、百円ショップで買ってきたクロスをかける。真ん中に、手のひらサイズのツリーを置くと、なんだか華やいだ気分になれた。
さっそく、買ってきたものを袋から出して、調理を始める。ネットで検索したレシピは、動画も添えられていてわかりやすい。スパイスの効いた唐揚げにポテトサラダ、具だくさんのシチューにとろけるチーズのピザと、思っていたよりも簡単に料理が完成した。それらを炬燵机の上に並べてみる。うん、なかなかいい雰囲気が出ている。
ワインは冷蔵庫で冷やしているし、温かいムードを演出するためのキャンドルも立てた。あとは、夜が訪れるのを待つだけ。
そうやって、待ち続けた夜がやってきた。風が強く吹きつけて、結露で曇った窓を揺らしている。天気予報では、雪がちらつくかも知れないと言っていた。この部屋の中とは違って、外はすでに冷え込んでいるだろう。
早く帰ってきて欲しい。ひょっこり帰ってきたら、この腕で思いっきり抱きしめてあげよう。ギュッと強く、全身に温かさを感じながら。
どれほどの時間が経っただろうか。いつしか、BGM代わりにつけていたテレビの音楽番組は、お笑い番組に変わっていた。大して面白くもないギャグに、客たちの冷ややかな笑いが浴びせられる。たまりかねてチャンネルを変えてみたが、他にやっている番組は、どれも面白くはなさそう。イブの日に、殺人事件をテーマにした刑事ドラマなんて少しも似合わない。
テレビを消すと、部屋の中はシーンと静まり返ってしまった。物音一つしない部屋。いや、わずかに聞こえてくるのは、置時計の針が進む音。それも、意識すればするほど、耳について離れなくなってしまって、時間が経つのがやけに遅く感じられる。
一刻も早く帰ってきて欲しかった。寂しくて押しつぶされてしまいそう。いてもたってもいられなくて、わずかに開けたままにしていた窓の隙間から、外の様子を眺めていた。
不意に、チャイムの音が聞こえた。その音にはっとなりながらも、次の瞬間には首を傾げてみる。まさか、猫が自分で部屋の前のインターホンを押すはずはないし、こんな日に訪れてくる人と言えば、宅配便の人ぐらいだろうか。もしかしたら、実家から何かを送ってくれたのかも知れない。例えば、お米とか。最近、実家に顔を出していないから、母が気を利かして送ってくれたのだろう。
そう思った私は、整理ケースの中から印鑑を取り出すと、慌てて玄関の扉へと向かった。
覗き穴から見てみると、誰かが立っているようだったが、身体が半分ほど隠れていて、よくわからない。着ている服装から、どうやらよく見かける宅配便の人ではなさそう。
私は、かけ忘れていたチェーン錠を引っかけると、「はい」と小さく言いながら、シリンダー錠をまわしてドアを開けた。




