第13話 教会が用意した「第二の聖剣」が、勇者の一撃で真っ二つになりました
翌朝、フェルム村の住人たちは、集会所に集まって教会の嘘を見ることになった。
王都や大きな町には、教会からの布告や王家の式典を映す《告知鏡》という魔道具が設置されている。フェルム村にも一台だけあったが、十年以上前から物置に放り込まれ、芋の籠を置く台として使われていた。
「まさか、これを直す日が来るとは思わなかったよ」
俺は曇った鏡面を布で拭きながら、裏側の術式を確認した。
湿気で魔力線が腐食し、映像を受け取る水晶も一部が割れている。壊れた部分だけを交換するなら、新しい水晶が必要だ。しかし、村にそんな高価なものはない。
「直らないのか?」
背後から覗き込んでいたバルドが尋ねた。
「映像だけなら何とかなります。ただ、音声まで戻すには、割れた水晶を繋がないといけません」
「つまり、いつものやつだな」
「いつものやつ?」
「材料が足りない、時間もない、でもラウルならやるんだろう、というやつだ」
「俺だって無理なときは無理だと言いますよ」
「その台詞は、せめて作業を始める前に言え。もう道具を広げてるじゃねえか」
俺は割れた水晶の欠片を銀線で繋ぎ、隙間へ砕いた魔石を詰めていった。完全な修復にはならないが、今日一日だけ持たせるなら十分だ。
隣では、ヘスティアが鏡の裏側へ顔を近づけている。
「この線、曲がってるよ」
「そこは音を少し遅らせるための線だ」
「どうして遅らせるの?」
「映像と音が別々の場所から届くから、そのままだと口の動きと声がずれる。昔、調整されていない告知鏡を見たことがあるけど、王様が口を閉じてから『国民の皆よ』って喋り始めて、演説が全部腹話術みたいになっていた」
「王様、腹話術できるの?」
「できないと思う」
「見たことないのに、どうしてできないって分かるの?」
「……ヘスティア。悪いけど、その質問はあとにしてくれ」
こういうとき、子供の疑問は容赦がない。
俺が修復を進めていると、集会所へ入ってきたハンネが、鏡の前に椅子を並べ始めた。
「本当に全員で見るつもりですか?」
「見たい奴だけだよ。私は見る。敵がどんな嘘をつくか知らなきゃ、反論のしようもないからね」
「嘘だと分かっているものを、わざわざ見る必要があるのか?」
昨日、俺たちを村から出すことに賛成していた農夫が、集会所の入口で立ち止まっていた。
「教会の話を聞けば、余計に怖くなるかもしれん。国中の人間があっちを信じたら、俺たちが何を言っても無駄なんじゃないか」
「だったら、なおさら見な」
ハンネは椅子を置きながら答えた。
「見ない間に嘘が真実になったら、あとで『知らなかった』と言うしかなくなる。怖いものを直視すれば勇気が湧くなんて綺麗事は言わないよ。怖さが倍になることもある。でも、知らないまま決めるよりはましだ」
「俺は、まだラウルたちを村に置いていいのか迷ってる」
「迷えばいい。村長の私だって、正しいことをしているかなんて分からない。ただ、迷っている奴が話に加わるのをやめたら、声の大きい者だけで全部決まっちまう。それが一番困るんだよ」
農夫は返事をせず、空いている椅子へ腰を下ろした。
やがて、告知鏡の修復が終わった。
鏡面に触れて魔力を流すと、白い靄が晴れ、城塞都市ラディアの中央広場が映し出される。
映像は少し揺れ、音声には雑音が混じっていた。それでも、広場を埋め尽くす群衆の姿は見えた。商人、兵士、冒険者、子供を肩車した父親。数千人は集まっているだろう。
「こんなに……」
セラが呟いた。
彼女は集会所の後ろに立ち、告知鏡から少し距離を取っていた。見たくないのなら工房にいてもいいと伝えたが、最後まで見届けると言って聞かなかった。
「やめたくなったら言ってくれ。鏡を消すから」
「ありがとうございます。ですが、見ます。わたくしの代わりとして作られた剣が、どのように扱われるのか知っておきたいのです」
午前の鐘が鳴り、広場の喧騒が収まった。
壇上へ現れたクレメンスが、群衆へ向かって両手を広げる。
『親愛なるラディアの民、そして告知鏡を通して見守る王国の皆様。本日、我々は神の奇跡を目撃することになります』
増幅された声が、集会所に響いた。
『勇者ユリウスへ授けられた聖剣セラフィナは、魔王軍との苛烈な戦闘によって損傷しました。その修復を任された者が、残念ながら己の欲望に負け、聖剣を持ち逃げするという悲しい事件が起きたのです』
「魔王軍との戦闘で壊れたことになってるぞ」
バルドが呆れた声を出す。
「俺が欲望に負けたことにもなっていますね」
「何が欲しかったんだ?」
「未払いの給料です」
「それは欲望じゃなくて正当な要求だろう」
告知鏡の中では、クレメンスの話が続いている。
『犯人は聖剣へ禁じられた術式を施し、あたかも人間の意思を持つかのように偽装しました。そして、聖剣は勇者を拒んだという、到底信じ難い主張を広めようとしております』
「最初から、わたくしの言葉を偽物にするつもりなのですね」
セラの手が、服の裾を強く握る。
「これまで声を封じていたのも、そのためかもしれない」
俺が言うと、セラは苦しそうに笑った。
「喋らなければ意思がない証拠にされ、喋れば偽装された証拠にされる。これでは、何をしても教会の主張が正しいことになります」
「嘘ってのは、そのくらい雑なほうが広まりやすいんだよ」
ハンネが顔をしかめた。
「複雑な本当の話より、誰か一人が欲に負けましたって話のほうが覚えやすいからね。人間は、自分が分かりやすいと思った話を、正しい話だと勘違いすることがある」
壇上のクレメンスが片手を上げる。
『しかし、神は我々をお見捨てにはなりませんでした。聖務院には、初代聖剣の製造時から受け継がれてきた、もう一振りの剣が存在していたのです!』
白い法衣を着た神官たちが、細長い箱を運んできた。
蓋が開かれる。
銀色の刀身が陽光を反射し、広場中から歓声が上がった。
『第二の聖剣――セラフィナ!』
「わたくしの名前を勝手に使わないでください」
セラは小声で抗議した。
告知鏡の向こうへ届くはずもない。
箱から取り出された剣は、確かによく似ていた。
刀身の長さも、鍔の形も、柄に刻まれた紋様も、細部までセラフィナを模している。遠目に見るだけなら、本物だと信じる者がいてもおかしくない。
しかし、セラとヘスティアの表情は暗かった。
「同じ銀……」
ヘスティアが呟く。
「わたしを作った炉で溶かされた神銀だと思う。でも、急いで形にした。火から出して、ちゃんと休ませてない」
「分かるのか?」
「うん。金属の中に、熱が残ってる。外は冷たいのに、中だけまだ喧嘩してるの。これで強い魔力を入れたら、熱が逃げようとして割れるよ」
セラも告知鏡へ近づき、偽物の刀身を見つめた。
「根元に亀裂があります。昨日より伸びている」
細く、髪の毛ほどの亀裂だ。
告知鏡の荒い映像では、言われなければ気づけない。けれど一度見つけると、それが鍔の下から刀身の中央へ向かって、確実に伸びているのが分かった。
壇上へ、ユリウスが姿を現した。
白い鎧に、新しい外套。右手には手袋をはめ、亀裂の入った勇者の紋章を隠している。
広場から「勇者様!」という歓声が上がると、ユリウスは昨日までと同じ笑顔を作った。
それは堂々とした勇者の笑顔だった。
だからこそ、俺には痛々しく見えた。
『勇者ユリウス。神の祝福を受け、新たな聖剣を手に取りなさい』
クレメンスから剣を渡された瞬間、ユリウスの表情がわずかに歪んだ。
重さが違うのだろう。
二年間もセラを振るってきたのなら、見た目が同じでも、手にした瞬間に別物だと分かるはずだ。
「気づいている」
セラが言った。
「ユリウス様も、あれがわたくしではないと気づいています」
「それでも受け取ったのか」
「戻る場所が、ほかにないと思っているのでしょう」
クレメンスが壇上の中央に置かれた、黒い金属の柱を指し示す。
『こちらは、魔王軍の鎧にも用いられる魔鋼です。通常の剣では傷一つつけることのできない金属ですが、聖剣の一撃ならば、容易に断ち切ることができます』
群衆が期待に沸いた。
ユリウスは偽物の聖剣を構える。
「やめろ」
鏡を見ていたバルドが呟いた。
もちろん、声は届かない。
『お待ちください』
意外にも、壇上で止めた者がいた。
ガルドだった。
彼はユリウスと魔鋼の柱の間へ入り、剣の根元を指差す。
『その剣には亀裂が入っている。試し斬りは中止すべきだ』
広場がざわめいた。
クレメンスは笑顔を保ったまま、ガルドの隣へ立つ。
『ご心配には及びません。あれは製造時に施された祝福の紋様です。亀裂ではございません』
『嘘よ』
今度はヴァレッタが声を上げた。
彼女は壇上へ出る予定ではなかったらしく、係の神官が慌てて止めようとしている。
『私は昨日、馬車の中でその剣を見た。その時点ですでに亀裂があったわ。昨日は爪ほどの長さだったけれど、今は指二本分まで伸びている』
『ヴァレッタ殿。魔術師であるあなたが、鍛冶について軽率な判断を口にすべきではありません』
『だったら、今すぐ鍛冶師に見せればいいでしょう。どうしてそんな簡単な確認を嫌がるの?』
群衆のざわめきが大きくなる。
クレメンスの笑顔から、少しずつ余裕が消えていった。
『勇者様』
マリエルも、おそるおそるユリウスへ声をかけた。
『今日は剣を受け取るだけにして、試し斬りは後日にしませんか? 皆さんには、事情を説明すれば分かっていただけると思います』
『分かってもらえる?』
ユリウスは広場を見回した。
数千人の目が、自分へ向けられている。
『聖剣が偽物かもしれないと疑われたまま、何をどう説明しろと言うんだ。ここで斬れば終わる。あれを断ち切れば、俺が勇者だと証明できる』
『斬れなかったらどうする』
ガルドの問いに、ユリウスは答えなかった。
『ユリウス。お前も気づいているんだろう。その剣はセラフィナじゃない。重さも、魔力の流れも違うはずだ』
『黙れ』
『また同じことをするつもりか? ラウルに止められたときも、お前は大丈夫だと言った。今度は俺とヴァレッタとマリエルが止めている。それでも振るのか?』
『黙れと言っている!』
ユリウスの怒声が、増幅術式を通して国中へ響いた。
クレメンスが、ユリウスの肩へ手を置く。
『もちろん、無理に試す必要はありません。もしも現在の勇者様に、聖剣の力を扱う自信がないのでしたら――』
ユリウスがクレメンスの手を振り払った。
『誰が、自信がないと言った』
『ユリウス、挑発に乗るな!』
『俺は勇者だ!』
その言葉は、誰かへ訴えているというより、自分自身へ言い聞かせているように聞こえた。
ユリウスは魔鋼の柱へ向き直り、偽物の聖剣を大きく振りかぶる。
刀身へ金色の魔力が流れ込んだ。
根元の亀裂が、目に見える速さで伸び始める。
「止めて!」
ヘスティアが告知鏡へ駆け寄った。
「あの子、痛いって言ってる! 生きてなくても、金属は痛いんだよ。熱い、苦しい、もう入らないって言ってる!」
「ユリウス様!」
セラも叫ぶ。
「その剣を振ってはいけません!」
届かない声が、集会所に響く。
俺は告知鏡の縁を掴んだ。今すぐラディアへ行けたとしても、もう間に合わない。
ユリウスの振り下ろした聖剣が、魔鋼の柱へぶつかった。
轟音とともに、金色の光が広場を埋め尽くす。
一瞬、告知鏡の映像が白く染まった。
次に見えたのは、ゆっくりと宙を舞う、銀色の刃だった。
偽物の聖剣は、鍔のすぐ上から真っ二つに折れていた。
飛んだ刀身は、壇上に掲げられていた大きな垂れ幕を斜めに切り裂く。そこには『第二の聖剣、勇者の御手へ』と書かれていたが、真ん中から裂けて、『第二の』と『勇者の御手へ』だけが別々に残った。
折れた刃はクレメンスの足元へ突き刺さった。
魔鋼の柱には、浅い傷が一本ついただけだった。
広場から音が消える。
数千人が集まっているとは思えないほどの静寂だった。
増幅水晶だけが、折れた剣の欠片が壇上を転がる、乾いた音を拾っていた。
『……違う』
ユリウスが、手元に残った柄を見つめる。
『これは、俺のせいじゃない。剣が偽物だったからだ。こんなものを渡した教会が――』
『同じことを、前にも言ったな』
ガルドの低い声が響いた。
『前はラウルの修理が悪いと言った。今度は教会の剣が悪いと言うのか。亀裂があると分かっていて振ったのは、お前だろう』
『振らなければ、俺は勇者じゃないと思われた!』
『だから剣を壊したのか』
『お前に何が分かる! あそこで止めたら、全員が俺を疑った!』
『今はどうだ』
ガルドはそこまで言ってから、後悔したように顔を歪めた。
ユリウスを追い詰めたいわけではなかったのだろう。ただ、二度も同じ光景を見せられ、抑えられなかった。
『今それを言う必要があるの?』
マリエルがガルドへ詰め寄る。
『ユリウス様がどれだけ苦しんでいるか、見れば分かるでしょう!』
『分かってる。だからって、また誰かに責任を押しつけるのを黙って見てろってのか?』
『責任の話はあとでいいじゃない! あなたはいつもそう。黙っているときは何も言わないくせに、我慢できなくなったら全部まとめて吐き出す。そんな言い方をされたら、誰だって受け止められないわよ!』
『じゃあ、いつ言えばよかったんだ』
『知らないわよ! 私に決めさせないで!』
二人の言い争いまで、告知鏡を通して国中へ流れている。
クレメンスがようやく我に返った。
『中継を止めなさい! 直ちに止めるのです!』
しかし、係の神官たちは慌てて操作盤を触るばかりで、映像は消えなかった。
『監察官』
ヴァレッタが、折れた刀身を拾い上げる。
『説明していただけますか? この剣は本当に、教会が保管していた第二の聖剣なのですか?』
『外部からの妨害を受けたのです。辺境に持ち去られた聖剣を媒介に、何者かが遠隔で術式へ干渉した可能性があります』
『式典会場には、外部魔術を完全に遮断する結界が張られている。あなたは演説の中で、そう言っていたでしょう』
『想定を超える禁術が使われたのでしょう』
『便利な禁術ね。都合の悪いことは、何でも遠くにいるラウルのせいにできる』
『ヴァレッタ殿、言葉にはお気をつけください』
『そちらこそ。私は昨日、この剣がすでに壊れかけていると確認しています。それでも式典を強行したのは、ラウルではありません』
クレメンスが係の神官から杖を奪い、告知鏡へ向けた。
映像が激しく乱れる。
最後に映ったのは、折れた聖剣を持つヴァレッタと、呆然と立ち尽くすユリウス。そして、壇上の下から「偽物だったのか」と叫ぶ群衆の姿だった。
告知鏡が暗転した。
集会所の中には、誰も言葉を発さない時間が続いた。
やがて、後ろのほうにいた若者が小さく笑う。
「見たか。教会の連中、いい気味だ」
別の村人も笑い始めた。
「第二の聖剣だなんて大層なことを言って、何だ、あれ。柱に傷をつけただけじゃないか」
「ラウルを盗人呼ばわりした罰だ」
笑い声が広がりかけたところで、ヘスティアが叫んだ。
「笑わないで!」
集会所が再び静かになる。
ヘスティアは涙を浮かべ、暗くなった鏡面を睨んでいた。
「あの剣、最初から壊れるように作られてた。ちゃんと休ませてもらえなくて、それなのに強い力を入れられて、痛いって言ってるのに振られた。作った人も、使った人も、あの子が悪いことにしてる」
「でも、あれは偽物なんだろ?」
若者が戸惑ったように言う。
「偽物なら、壊れてもいいの?」
ヘスティアに尋ね返され、若者は黙った。
俺は告知鏡の前へしゃがみ、まだ涙を堪えているヘスティアの頭へ手を置く。
「壊れた剣を見て笑う気にはなれないな」
「ラウルなら、直せる?」
「欠片が全部残っていれば、剣としては直せる。でも、セラと同じ聖剣にはならない」
「それでも、あの子は痛くなくなる?」
「たぶん」
「じゃあ、捨てられたら拾いに行ってあげて」
「城塞都市までは遠いんだが……」
「拾いに行ってあげて」
「……善処します」
「行くと言いな」
ハンネが横から口を挟む。
「子供相手に役人みたいな返事をするんじゃないよ」
「簡単に約束して、村を留守にするわけにもいかないでしょう」
「だから相談するんだ。あんたは少し目を離すと、すぐ一人で全部決めようとするね」
バルドも腕を組んで頷いた。
「それに、あの剣の破片には価値がある。神銀なんて、村の工房じゃ一生かかっても手に入らん材料だ」
「直してあげる話をしているんですよ」
「分かってる。職人は材料の価値も考えるものだと言ってるだけだ」
「今、目が完全に金属目当てでしたよ」
「馬鹿を言え。七割くらいだ」
「多いですね」
少しだけ、集会所の空気が緩んだ。
しかしセラだけは、暗い告知鏡を見つめたままだった。
「どうした?」
「わたくしがあの場所にいれば、止められたのでしょうか」
「君が戻ったら、同じことが繰り返されていた」
「分かっています。それでも、ユリウス様があのような顔をしているのを見ると……自分が見捨てたような気持ちになるのです」
「助けないことと、見捨てることは同じじゃない」
「違いが、まだよく分かりません」
「俺にも分からない。ただ、君が戻って自分を壊せば、あいつが立ち直るわけじゃない。それだけは分かる」
セラはしばらく黙ったあと、小さく頷いた。
「ラウル。以前のあなたなら、『気にするな』で終わらせていたでしょうね」
「そのほうが格好よくないか?」
「格好だけなら」
「厳しいな」
「ですが、今のほうが少しだけ嬉しいです」
告知鏡の鏡面に、再び光が戻った。
だが、式典会場の映像ではない。教会の紋章が大きく表示され、その下に文字が浮かび上がる。
『本日の聖剣再授与の儀は、外部からの重大な魔術妨害により中止されました。詳細は調査中です。根拠のない噂を広める行為は、王国の秩序を乱すものとして厳正に処罰されます』
「もう揉み消すつもりか」
農夫が呟いた。
「国中に流れたんだぞ。あれを全部なかったことにできるのか?」
「できないから、別の話に作り替えるのさ」
ハンネが険しい顔で答える。
「教会は、嘘がばれたからといって謝るような連中じゃない。今度は、自分たちを被害者にする。ラウルの遠隔魔術で剣を壊された、勇者は卑劣な妨害を受けた。そう言い続ければ、信じる者は必ず出る」
鏡面の文字が切り替わる。
『聖務院は、盗難された神器の速やかな回収を行います』
アギスが門の方角を見る。
「回収、か。随分と嫌な言い方をするな」
「来ますか?」
「ああ。昨日より多い。まだ遠いが、街道を進む金属の足音が聞こえる」
「どのくらいだ」
「騎馬だけじゃない。荷車もある。何か、大きな道具を運んでいる」
教会は、もう話し合いだけで済ませるつもりはないらしい。
俺は暗くなった告知鏡へ手を置いた。
遠く離れたラディアでは、折れた剣の破片が集められている。
そして教会は、次に俺たちを折るための道具を、フェルム村へ運び始めていた。




