4.最初の授業
「それでは、魔術理論の授業を始めるわ。」
どうやら、授業は基本担任が受け持つらしい。
「まず最初に、魔術を使うためには魔力というものが必要となってくる。魔力は少なからず皆持っているものだ。その魔力を術式を通して別のものに変換する、これが魔術というものだ。」
本当に基礎からやるのね…
アリシアにとって学園で学ぶことはほとんどない。よってこの時間はとてつもなく暇なのである。恐らく担任の教師は私の正体を教えられているだろうから、別のことをしてても文句は言われないだろうけど…
流石に最初の授業から別のことをするのは申し訳ないわね。今日のところは大人しく授業を聞くしかなさそうだわ。
「次に魔術式についての話をする。ここは複雑だからしっかりと聞いておけ!魔術式は魔力を通すことによって色々な効果を発揮させることができる。例えば、槍や剣に変換したり爆発的なエネルギーに変換することもできる。それを極めたのが調停者の方々だ。まぁ、お前達にそこまでの期待はしてないがせめて中級魔術師相当の知識か技術は身に付けてもらおうと考えているのですが。」
(中級って、結構優秀な魔術師階級じゃ無かったっけ?)
(確かそうよ。中級魔術師になれば騎士団への推薦状が貰えるっていう…)
ミレーナ先生の発言に教室中がざわつき始めた。
魔術を習い始めたばかりの生徒にいきなり中級魔術師になれとは、中々馬鹿げたことを言っている。確かに、どんなに才能が無い人でも努力さえすればある程度強くなれる。だけどそれは、以前よりは強くなれるのであって才能のある者には遠く及ばない。
先生もそれは分かっていると思うのだけれど、どういうつもりで言っているのかしら…
私が見ただけでもこのクラスに魔力との親和性が低い人が何人か居るわ。それを除いても、お世辞にも才能のある人は居なさそうなのだけれど。
「静かにしなさい。早とちりも大概にしなさい。言ったでしょ?知識か技術と…」
「技術が無理ならせめて、知識を身に付けなさい。知識に関しては努力でどうにかなるはずよ。中級魔術師と同じ知識、同じ考え方ができるのとできないのでは雲泥の差よ。」
「そのことを踏まえ、死ぬ気でついてきなさい!」
なるほど、言っている事はもっともね。確かに、知識はあって困る事はないわ。
それに、先に無茶振りを言ったのは後から提示したものを簡単に見せてそれならできると思わせるためね。
その目論み通りになっている様だし…
「ゴホンッ、話を戻すが魔術式について教える前に属性について話しておく。そもそも属性に変換する前に形だけを与える事なんて普通できる様な事じゃないしな。」
「せんせー!なんで出来ないんせすか?それの方が簡単そうなんですけど~。」
…確かに簡単そうに見えるけど、あの技術は才能あってのものね。
「はぁ、じゃあお前は器もなしに大量の水を持つ事が出来るか?」
「水、ですか?いえ…できません。」
「つまりそう言う事だ。形だけと言うことは魔術式を使わないと言うことだ。あとで実際にやってみるといい。それが一番、なぜ出来ないか分かる方法よ。」
「…まあ、簡単に言えば属性への変換は魔術を発動させるための近道と思うといいわ。ちなみみ属性には基本的に火、水、風、雷の4種類ある。そして、それを確かめるためにこの玉を使う。」
そう言って出てきたのは魔力の強制放出機だった。その仕組みは至って簡単で、4属性の初歩的な魔術式が刻まれている玉に手を当てると自動的に魔力が吸われその玉の中で小さな火の玉や水の玉、旋風や小さな雷が発生するといった効果がある。
「この玉に触れると得意な属性が分かるというわけだ!今から全員確かめてもらうから順番に来い。…もし自分の得意属性が分かっているなら来なくてもいい。」
ありがたいわね。今のは先生が私の行動を予想してフォローをしてくれたのだろう。
もし、先生が言ってくれなかったら私だけ行かずに悪目立ちしてしまうところだった。
属性調べは順調に進んでいたが、一人の男の番で止まってしまった。
どうやら、何も起こらなかったらしい。恐らく、全ての属性が苦手という事なのでしょうけど…これから苦労しそうね。
「あ、あの先生これって機械の故障なんじゃ。ほ、ほらさっきまで火とか水とか出てたじゃないですか?きっと故障ですって」
「いや、壊れてない。ほら、私が触れたらこの通り火がおこる。つまりお前は4属性と相性が悪いという事だ。」
「は、おかしくないですか?じゃあ、俺はどうすればいいんですか!父さんになんて…」
目の前の結果に、男は膝から崩れ落ちていた。これから魔術を習おうって時にこの結果は残酷だ。
「まあ、ないものはしょうがない。さっきも言ったが努力次第で伸ばす事もできるし、諦めるな。」
「諦めるなって…無理でしょ。うちの家族は…父も母も姉もみんな何かの才能があった。俺も魔術ならって思ってたのに…結果はこれだ…本当に嫌になってくる。」
「…すみません。先生にあたってもしょうがないですよね。…体調が悪いので少し抜けます。」
「ええ分かった。行ってきなさい…」
「…さあ続きをやるわよ。っていう雰囲気でもなさそうね。はぁ、私はこれから用事があるから次の授業までに何か一つ初級の魔術式を理解しておきなさい。完璧じゃなくていいわ!あとで全員どこまで理解しているかチェックするからサボることのない様にしなさい。」
「では、私はこれで。」
ミレーナ先生が抜けたあと意外にもみんな真面目に取り組んでいる。恐らく皆さっきの件で気まずくなっているからなのでしょうけど。
…
「ねぇねぇ、覚える魔術式って決めた?」
…ここに来てから随分と話しかけられるわね。ほっといてくれたほうが楽なのだけれど。一応、仕事を終えるまではつながりが多いに越したことはない、か…
「ええ、ここに書かれてあるものは全て理解しているから適当に選ぶつもりよ。」
「ふぇっ…!?全部!?」
「ええ、全部よ。家庭の事情で昔覚えたの。」
しまった、分からないふりをしたほうがよかったわね。
「さすがヴァルハート家ねぇ~。確か、親族に調停者様がいるんだっけ?」
親族?もしかして、ヴァルハート家から調停者になった者がいるのは知れ渡っているのだろうか?
「…なぜ調停者が私の親族にいると?」
「なぜって、みんな知っている事よ?任命式に出た高位貴族の方が噂を流したそうだからみんなすぐに信じていたわ!」
そんな面倒なことをしてくれたのはどこの馬鹿貴族なのだろうか。
「それで、魔術は調停者様から教わったの?」
「…そんなところよ。」
「やっぱりそうなんだ~。」
「う~ん…じゃあさ、私にこの術式教えてくれない?もちろんタダじゃないわ!そのうちお礼はするつもりよ!」
教えろときたか。別に暇だし教えるのは構わないのだけれど…初対面でこの図々しさは普通なのかしら。
「いいわ、教えてあげる。けど、お礼は結構よ。」
「いやいや、教えてもらったのに恩を返さなかったらそれこそクロイゼルの恥になるわ!」
「クロイゼル?」
どこかで聞いた事が、
あぁ確か外交官の名前もクロイゼルだったかしら。ということは、娘の可能性が高そうね。
「ええ、私の家名よ。そういえばまだ名乗ってなかったわね。エレノア・クロイゼルよ。親からはノアと呼ばれているわ。よろしくね!」
「私は、アリシア・ヴァルハートよ。…それで、結局どれにするか決めたのかしら?」
「うん。この水球の魔術式にしよかな~って。」
なるほど、エレノア嬢は水の適性のようね。火と水は分かりやすいから早く終わりそうで良かったわ。
「いい属性ね。火と水はイメージがしやすいから分かりやすいの。じゃあ、説明を始めるわ。水球の魔術式は初級だけあって簡単よ。術式の回路をしっかりと把握して変換と維持をずっとやり続けるだけでいいの。」
「…それだけ!?もっとなんかもっとこう複雑な事とかないの!?」
「だから、簡単と言ったでしょう?初級はコツさえつかめば誰でもできるわ。でもそこから少しレベルが変わるだけで相当難しくなるのよ。だから、中級以上の魔術師は才能がすべてとも言われているの。」
「ただ、根本となる魔術式の理解は努力しか無いわね。そこは自分で頑張りなさい。」
そもそもベースとなる魔術式はみんな同じでも解釈は人によって違う。正しい方向にいく人もいれば間違った解釈をして効果が得られない場合もある。最も、火と水の属性はその可能性が低いのだけれど。よっぽど変なことをしない限りは恐らく大丈夫そうね。
「うぅ、分かったわ。努力は苦手だけど頑張ってみる。アリシア、ありがと!」
「頑張りなさい。私は、先にお昼に行くから失礼するわ。」
「えぇ、早くない!?」
「何言ってるの?さっっき鐘の音が鳴ったわよ。みんなは理解に苦しんでいるからお昼に行けてないだけで他の学年の人はもう行っているみたいよ。」
確かに、初日からこの課題は可哀想だけど確実に身につきはしそうね。
「ちなみに、待っててもらったりは~…」
「悪いけど、今日早めに来たせいでお腹が空いているの。聞きたい事があったら食堂まで来なさい。ゆっくり食べておいてあげるから。」
「ありがたいけど、こんな課題さっさと理解して終わらせるからゆっくり食べててね。私もすぐに食べに行くから!」
適当にならなければいいけど…
「そう、好きにしなさい。」
あ、そういえば食堂の場所ってどこだったかしら。食堂は初日、色々あったせいで行けてない場所だった。
まあ、時間もあるし適当に行ってみるしかなさそうね。




